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分析技術の勝ち組企業が実践する成功要因

■ 日本IBM
アナリティクスの勝ち組企業が実践している3つの成功要因

西牧 洋一郎 氏
日本IBM
アナリティクス事業部
SPSS ITスペシャリスト
西牧 洋一郎

「いくら洗練された予測モデルを作ったとしても、それを業務で実践できなければ1円のもうけにもなりません」。こう強調するのは、日本IBMの西牧洋一郎氏だ。最初は高い精度の予測モデルではなくても、それを実行に移してモデルを磨いていけば、最終的には収益に結びつく予測モデルにたどり着けると指摘する。同氏は、IBMが注力するコグニティブ(認知)技術とアナリティクスの役割の違いを解説した上で、業務上でデータ活用を成功に導くための3つのルールを解説した。


 日本IBMの西牧洋一郎氏は講演の冒頭で、IBMが注力しているコグニティブコンピューティングとアナリティクス(分析)の違いを分かりやすく解説した。前者の技術を活用した質疑応答システム「Watson」が、医療分野で特定疾患を見抜くなど、知見を提示するという意味でコグニティブとアナリティクスは似たような技術に思える。

 しかし西牧氏は、この2つの技術の本質は異なっていると強調し、次のように説明する。

 「コグニティブは、聞かれると答えることが本質。何を答えなくてはいけないかを決めて、膨大な情報源の中から候補を探し出し、それらに重みを付けて提示する技術です。一方、アナリティクスの本質は、将来を予測すること。過去の出来事からモデルを作り、将来を予測してアクションの最適化を支援することがアナリティクスの主要な役割です」

 ただし、両者は相入れないものではない。「アナリティクスが苦手な分野である画像やテキストに秘められた感情の認識をWatsonが担うといった活用法もあります」と説明する。

まずは現場で予測モデルを使う

 その後、西牧氏は企業がアナリティクスを成功に導く3つのルールを披露。1つ目のルールが、「アナリティクスは現場(顧客接点)で使ってなんぼ!」というものだ。これは、明確な目的もなくデータ活用に取り組み始める企業は失敗する可能性が高いのに対して、現場の主導によって予測モデルを使ってみようとする企業は収益に結びつけやすいということを示したものだ。

 現在は、分析ツールの進化によって予測モデルを構築するのは容易になった。しかし、これを業務の中で、どのように実装するかが難しいと西牧氏。「品質改善や予知保全、不正検知などでは比較的短期間に効果が表われやすいことに対して、顧客接点最適化などは、顧客理解に始まり、腰を据えた取り組みが必要になります。アナリティクスの文脈で伝説的に語られる『ビールのまとめ買いに紙おむつが併買されやすい』ような、新たな洞察を期待して闇雲にデータを分析しても徒労に終わるケースがほとんどです」と語る。さらに目的が明確でない場合は、運よく「ビールと紙おむつ」が見いだされても、現場の感覚とかけ離れているため、採用されないケースが多いという。

 成功の秘訣は、当初精度が低くても予測モデルを業務の中で活用していくことだという(図1)。実際のデータで評価されながら、モデルを修正することで、ゆくゆくは利益を創出するような予測モデルを構築できるようになる。

図1 顧客軸でのプロモーションには、当初は予測精度が低くても予測モデルを活用していくことが重要
図1 顧客軸でのプロモーションには、当初は予測精度が低くても予測モデルを活用していくことが重要
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 この好例として米国の携帯電話会社の事例が紹介された。同社のコールセンターでは、電話が来た瞬間に電話番号から顧客を認識し、年齢や性別、名前、契約内容などの情報が画面に映し出されるシステムがある。現在は、その顧客が契約を解除する確率や、レコメンドすべきプランといった情報までもが瞬時に提示されるという。これまでの取り組みの成果を基に改善を進めてきた結果、予測モデルが洗練されてきたのだ。

 ここで、講演では同社の分析ツール「SPSS」を使って、予測モデルを構築するデモンストレーションが披露された。携帯電話会社を想定したデータを基に画面上で自動判別モデル(決定木)を作成し、それぞれの顧客が契約を解除する確率を算出するモデルを瞬く間に作り出した。

ビジネスルールと調和させる

 「予測モデルには誤差がつきもので、これをどこまで許容できるかを決めることが重要です」。西牧氏は2つ目のルールとして「予測精度よりも施策の精度」を掲げた。これは、理論上の最適解とビジネス上の最適な戦略は必ずしも一致しないことを意味するものだ(図2)。

図2 理論上の最適解とビジネス上の最適な戦略は異なる。適切な人に、適切なときに、適切な提案をできることが大切
図2 理論上の最適解とビジネス上の最適な戦略は異なる。適切な人に、適切なときに、適切な提案をできることが大切
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 例えば、ドラッグストアにおいて、ある顧客が尿漏れの薬を購入する可能性が高いと分かっていても、店頭で薦めるのは失礼な行為になる。西牧氏は、「ビジネス上のルールと予測モデルを調和させることが必要です」と指摘する。

 理論上の最適解を追究すると、収益が減ってしまうケースもある。これを示すものとして、カタログ通販会社の例が紹介された。通販会社の多くは、カタログの作成費と輸送費を抑えるために、購入可能性の高い顧客に絞ってカタログを送る取り組みを進めている。購入可能性を突き詰めると、最終的にはカタログを送る顧客の数がどんどん減っていき、会社の規模が縮小してしまうことになる。

 西牧氏は、「予測精度を優先しても、実効性のない施策では意味がありません。既存の業務プロセスや業務の本質を理解して、その中で予測モデルを活用するという姿勢が大切です」と強調する。このためには、アナリティクスと対極にあるビジネスセンスや経験に基づいた判断も必要になるという。

PDCAサイクルを俊敏に回す

 3つ目のルールとして掲げたのが、「反省し、俊敏に修正できることこそ真の学習とPDCA」である。予測モデルに基づいた行動の成果を常に把握して、モデルの精度を高めたり、新たなモデルを作成したりするPDCA(計画・実行・検証・改善)サイクルの継続が大切であることを示したルールだ。

 現在は、顧客の嗜好が短期間で大きく様変わりする。ある時点で作った予測モデルをそのまま放置していれば、劣化することは免れない。西牧氏は「予測モデルを作りっぱなしにしてはいけません。常に疑いの目で見て、劣化したと判断したら手を入れることが必要です」と語る。これを俊敏に実践することが、アナリティクスを成功に導くことにつながる。

 西牧氏は、「アナリティクスはあくまでもビジネスの手段。ビジネスのプロである皆さんが、その目的を理解し整理して、アナリティクスを業務の中に組み込んでいくことが大切です」と語って、講演を締めくくった。

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