

―― IBM Cloudライト・アカウントの発表は大きな話題になりました。その狙いはどこにあるのでしょうか。

三澤 IBM Watson(以下、Watson)が無料になったと誤解されるような報道があったことで注目されてしまいましたが、残念ながら無料にはなりません。あくまでもお試しコースが無期限になったということです。利用できるメニューやメモリーサイズには制限があります。
今回、IBM Cloudを利用するハードルを下げたのは、「IBM Cloudに触ってみたい」という声にお応えしたものです。IBM Cloudの特徴は、IoTやAIといった様々なテクノロジーを利用したシステムを構築でき、企業の既存システムも動かせることです。IBM Cloudライト・アカウントでは、そうした最新のテクノロジーを使った企業向けのクラウドアプリケーションの開発を試していただくことができます。
―― どのようなアプリケーションが想定されているのでしょうか。
三澤 これからの企業にとって重要なのは、データをどう活用するかです。インターネットやスマホが普及したことで、スタンドアロンだったシステムがお客様や従業員とつながり続けるという大きな変化が起きました。この変化を先取りして成長してきたのが、Uber(ウーバー)やAirbnb(エアビーアンドビー)のようなデジタル・ディスラプターと呼ばれる企業です。
こうした成功事例には、共通の方程式があります。あらゆるタイプのデータを活用できるデザイン、増え続ける大量のデータに対応するためのAIの活用、そして迅速・簡単・安くアプリケーションを開発するためのクラウドの活用。この3つを掛け合わせていることです。
特に重要なのが、クラウドの活用です。先を見通せない状況で、DevOpsのように検証してはつくり直すというサイクルでアプリケーションを開発していくには、オンプレでは間に合いません。そのためにはクラウドの活用が必須になります。
―― AIなどを駆使したシステムを開発するにはクラウドが向いているということでしょうか。
三澤 新しいビジネスを加速するようなアプリケーションは、特定の技術だけで成り立つものではありません。たとえば、ディープラーニングのエンジンだけでは、ビジネスで利用するアプリケーションを開発できないのと同じです。
確定申告をサポートするH&Rブロック社は、Watsonによって節税策を提案することで顧客満足度を向上させ、売上拡大につなげました。この取り組みには、Watsonだけでなく大量の文献や法令を読み取って良質の情報を選別する解析技術、顧客のアクティビティーを把握して提案と結びつけるシステムが必要でした。
また、災害でダメージを受けた住宅の屋根をドローンで撮影し、被害状況の把握と、修復に必要な費用を算定する実験プロジェクトのシステムでは、ドローンから送られる画像を効率的に保管するクラウド・ストレージと、Watsonの画像認識機能によって自動で被害ポイントを特定する技術、そして既存の保険料を算定するシステムとの連携機能など、IoT、AI、APIなどが使われています。
―― 特定の目的のために多くの技術が使われていますね。

三澤 できていることを見ると簡単に見えますが、構成する技術要素も複雑で、それをシンプルにデザインするのは大変です。つくっては欠点を検証し、すぐにつくり直すというアジャイルが駆使され、初めて成果につながるシステムが開発できます。
こうした異なる技術要素を結びつけるには、クラウドという仕組みが最適です。IBM Cloudでは、必要とされる様々な技術をあらかじめ用意し、フレームワークとして提供しています。開発者はフレームワークの機能をクラウド上で連携させることで、目的に合ったアプリケーションをクラウド上で迅速に開発することができます。
―― IBM Cloudで開発したアプリケーションをオンプレで動かすこともできるのでしょうか。
三澤 もちろんできます。IBM Cloudの大きな特徴の一つは、コンテナ技術を取り入れていることです。仮想化されたアプリケーションの実行環境をつくるDockerエンジンが提供され、つくったコンテナを管理するためのKubernetesにも対応しています。
さらにオンプレ上の既存のアプリケーションをIBM Cloudに持ってくることもできます。それを実現するのが、ベアメタルです。ベアメタルでは、多くの企業で仮想化環境として使われているVMwareの環境を変更することなくクラウド上で既存システムを稼働させることができます。「VMware on IBM Cloud」です。
―― 通常のクラウドサービスではそれができないということでしょうか。
三澤 問題になるのが、サーバーの管理やバックアップ、ジョブ監視などの非機能要件の部分です。オンプレではインフラ部分で非機能要件に対応しているために、通常のクラウドサービスでは対応できません。
アプリケーションに実装することもできますが、非機能要件を組み込んでアプリケーションをつくり直すので、コストもかかり、テストも必要です。しかし、そのままでは性能面でトラブルが生じたり、最悪の場合、アプリケーションが動かないこともあります。
多くの企業システムはクラウドネイティブではありません。企業システムの99%はSystem of Record(SoR)と言われる基幹システム上にあり、世の中のデータのほとんどは企業のシステム内に存在します。そのデータを活用するには、クラウド上に移行する、既存のままでAPI連携させるなどの切り分けが必要になります。
先ほど紹介した確定申告のサポートやドローンの事例は、AIの事例のように見えて実はデータ活用の事例です。データをどう活用するのかは、企業がまず取り組むべき課題です。今後のビジネスのカギとなるデータ活用という観点からも、どのクラウドを選ぶべきかを考えていただきたいですね。

―― クラウドはどう進化していくのでしょうか。
三澤 今後、クラウドネイティブのシステムの主流はコンテナになっていきます。コンテナであれば、特定のベンダーにロックインされることなく、オンプレでもクラウドでも行き来することができます。先日発表した「IBM Cloud Private」なら、クラウドネイティブなアプリケーション開発と運用環境を企業のオンプレに構築し、コンテナを使ったアプリケーション連携も可能です。
IBMは、これまでも徹底してオープンスタンダードにこだわってきました。いち早くOpenStackに準拠し、現在ではDockerやKubernetesといったコンテナに対応しています。メインフレームでもコンテナをサポートし、ミドルウェアのコンテナ化にも取り組んでいます。CloudでもAIでも、IBMは企業のビジネスを支えることに特化してきたのです。
―― 今回のIBM Cloudライト・アカウントもそうした取り組みの一環でしょうか。
三澤 クラウドは今までと違ってセルフサービスの世界です。企業ではそのためのクラウドネイティブの開発者を育てることが急務です。簡単に触れることができる企業向けのクラウド環境を提供することで、その課題解決に貢献できると考えています。
また、そもそもクラウドでどんなサービスをつくっていけばいいのかという課題への対応も必要です。この課題はIT部門と現業部門の両方が取り組まなければ解決しません。そのためにIBM Cloud Garage というデザインシンキングのアプローチも提供しています。
アプローチ手法から解決のためのテクノロジーまで提供できるのが当社の強みです。クラウドによるデジタルトランスフォーメーションを加速するためのパートナーとしてお気軽にご相談ください。

オンプレミスのVMware環境をIBM Cloudに拡張することで、企業ITに求められる多くのニーズに応えることができます。
企業のシステム開発にも、クラウド・ネイティブの利点を活用することができます。