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通信╳データによるIoTイノベーション

IoTのビジネス戦略では、ビッグデータによるデータ分析やAIをエンジンとしたデータ活用といった“出口戦略”に関するものが多い。しかし、現実にはデータをどう取得し、どう集めるのかといったステップも含めたトータルでの議論が必要になる。その場合、何が課題として浮上してくるのか。IoTの最新事情に詳しいITRのプリンシパル・アナリストの甲元宏明氏に、日経BPイノベーションICT研究所 所長の桔梗原富夫が話を聞いた。
「通信分野の革新的な進化がIoTの普及を加速させる」ITR プリンシパル・アナリスト 甲元 宏明 氏×日経BPイノベーションICT研究所 所長 桔梗原 富夫

IoTの持つ無限の可能性をどうビジネスに生かすのか

桔梗原 昨年10月に「IoTを利用したイノベーション創成」という分析レポートをまとめられていますね。今のIoTへの取り組みをどう見ていらっしゃいますか。

甲元 IoTには2つの領域があります。1つは、IoTによって既存のビジネスを強化しようという領域。もう1つは、新しい価値をIoTで提供しようというイノベーティブな領域です。この2つはそれぞれ考え方が違います。
 前者は、目的がはっきりしていて、やるべきことはわかっています。M2Mによってデータをきっちりと集めることが大事になります。M2MはFA(Factory Automation)と同じこと。日本企業が得意な分野です。
 一方、後者の場合はやるべきことがはっきりしていない、暗中模索の状態です。実際に当社にご相談いただくのは、圧倒的に後者が多い。皆さん、どうしていいのかわからない、でも何かをしなければいけないという危機感はあるようです。

甲元 宏明 氏

桔梗原 IoTが危機感を広げているということでしょうか。

甲元 ITの延長線上にIoTが見えてきたことで、無限の可能性が生まれています。いろいろなデバイスがネットに接続されることで、マイコン制御のレベルを超え、もっとインテリジェントに進化します。このようなデバイスにいろいろな役割を期待するというのは自然な流れです。何が出てくるのかわからない。だから今、うまくいっている企業でも危機感を覚えるんです。

桔梗原 目的がはっきりしないイノベーティブな領域について、経営からどんな要請があるのでしょうか。また、現場としてはどう取り組めばいいのでしょうか。

桔梗原 富夫

甲元 IoTによるイノベーションへの取り組みは、従来のITの考え方からすれば、典型的な駄目パターンと言われてきたテクノロジー発の挑戦です。何が生まれてくるのかわからないから、与件としてビジネスドメインすら決まってこない。
 そこで大事になるのが、デザインシンキング。今までのシステムシンキングとは対極にあるアプローチです。みんながアイデアを持ち寄り、面白いアイデアがあればプロトタイプをつくり、そこから気づきを得てさらにいいものにしていきます。
 デザインシンキングによって、何か新しいこと、面白いことを見つけて挑戦していくことがIoTの可能性を見いだすことにつながります。

桔梗原 まったくの白紙から新規事業を考え出すときと同じアプローチですね。

甲元 その成功者の最たる例がアマゾンです。創業者のジェフ・ベゾス氏は「自分が世界一だと自慢できるのは失敗した数だ」と語っています。いろいろとチャレンジしたから成功した。今、日本にはこうしたチャレンジが求められています。

IoTの世界を大きく変える、IoT向け通信サービスの進化

桔梗原 最近は通信分野の革新的な進化が注目されています。今までIoTにおけるネットワークの役割はあまり意識されてきませんでしたが、ここにきてIoT向け通信に狙いを定めた企業が力を持つようになってきました。

甲元 今後、IoT向け通信サービスが大きく伸びるのは間違いありません。鍵となるのはLPWA(Low Power Wide Area)です。電力消費量が少なく、1つの基地局で幅広いエリアをカバーできて通信コストが安い。「SIGFOX」と「LoRaWAN」がIoT向けの無線通信サービスとして市場に浸透しており、すでにシェアリングエコノミーの概念を適用したユニークな共有サービスも登場しています。これからさらに、ひとひねりもふたひねりもしたものが出てくるでしょう。

消費電力・通信速度 出典:NTT西日本の資料を元に作成
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桔梗原 センサー自体も小型化が進むとともに、低価格化も進んでいます。さらに通信コストが飛躍的に下がれば、IoTは一気に加速します。そうなると次は分析のところも大事になってきますね。

甲元 どうデータを収集し、どこにデータをためて、どうデータを分析するのかはIoTの重要な課題です。LPWAが普及すれば、ビッグデータとして生のデータが活用できる時代になります。生のデータをそのまま持ってきて、後でいかようにも加工する。分析してからお宝が見つかるようになるわけです。そこではデータの収集、蓄積、分析がますます重要になってきます。
 IoTのデータの蓄積先は、クラウド一色になるでしょう。IoTではどれだけのデータ量が送信されてくるのか予想できません。デバイスはどんどん増えて賢くなり、いろいろなデータが集められるようになる。短期間で10倍、20倍と増えていくわけですから、オンプレミスで対応できるとは考えにくい。オンプレミスに蓄積したデータをクラウドに移行するのも大変ですから、初めからクラウドに蓄積しておくことになるのは順当な考え方でしょう。

桔梗原 IoTにおけるセキュリティはどう考えるべきでしょうか。

甲元 対策はしておくべきです。しかし、セキュリティリスクがあるからIoTをやらない、というのは本末転倒です。どこにリスクがあるのかをきちんと調べて対応すべきですが、大事なのは、どのタイミングでセキュリティについて考えるかです。なぜなら、セキュリティ以上にビジネスチャンスが大切だからです。

桔梗原 しばられると自由なアイデアが生まれませんからね。

甲元 アイデアを生み出すには、既存ビジネスとのシナジー効果はあるのか、実現する体制はあるのか、必要なスキルはそろっているのかなど、発想を制限することに引っ張られないことが大事です。デザインシンキングでは、これらのことをNGワードにしてから自由な発想に取り組むことを勧めています。セキュリティもその1つ。実システムを検討する段階でしっかりと考えるべきです。

IoTによるきめ細かな対応が日本企業の強みになる

桔梗原 産業分野でも面白いIoTの使われ方が出てきています。どうしたら日本企業の強みを生かせるのでしょうか。

甲元 日本企業は顧客ニーズに敏感で、人間系できめ細かいところまで対応してきました。それが今は「ムダ」だといわれる時代です。そういうきめ細かい対応の部分にIoTを使うことで、日本企業の強みを生かすというシナリオはあると思います。

甲元 宏明 氏 × 桔梗原 富夫

桔梗原 そうしたIoTに取り組んでいくには、どの組織が主導すべきだと思いますか。

甲元 IT部門が中心になるのか、事業部門が中心になるのかは別として、IoTを考える組織はつくったほうがいいですね。日本の企業にありがちな兼務の特命的組織ではなく、専門組織にすべきです。できれば事業部などに属さないほうが望ましい。後ろにたくさんの人がいるとそれらの意見に左右されますし、意思決定にも時間がかかります。
 IoTに取り組む組織は社長直轄にして、時間と予算を与えて自ら動いて判断できるようにしないとうまくいかないでしょう。自由な発想も生まれませんし、チャンスも逃してしまいます。

桔梗原 IoTを取り込んだサービスを考えるとき、パートナーはどのように選んだらいいでしょうか。

甲元 優れたテクノロジーを持っていて、小回りが利くところです。継続性や安心感は優先度を下げるべきです。過去の実績や事例も気にしない。新しいことをやるのに関係ないからです。大事なのはスピードと柔軟性です。
 IoTのハードルの高さは、実は通信費にありました。回線数が増えれば費用は飛躍的に増えていきます。しかし、LPWAのように通信の世界にも革新が起きています。今後もIoT向けの通信サービスは充実していくはずです。
 通信の変革はIoTが普及する鍵であり、そこにビジネスチャンスがあります。日本企業には、IoTにいち早く取り組むことが求められています。

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