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2025年、介護負担のない未来が到来

高齢者介護は、近未来の日本に突きつけられた重い課題だ。適切な対策を打たねば、今後介護が必要な高齢者が急増するのに、介護従事者の数が追い付かない。コニカミノルタは、カメラや複合機、医療機器などで培った高度な技術を活用し、この課題の克服に挑む。

入居者を見守るセンサーボックス
赤外線カメラとマイクロ波センサーを内蔵。レンズ部が外から見えないため、入居者に不快感を与えない。

 2025年には、3人に1人が65歳以上の高齢者になる――。2014年に発表された高齢社会白書は、こう警鐘を鳴らした。高齢者比率が増せば、当然ながら生産年齢人口(15~65歳)は減る。つまり医療、介護などの社会コストは増え続け、それを負担する人たちはどんどん減っていくわけだ。放置しておけば、税負担は急増、日本の国際競争力は急降下することになるだろう。

 特に重大なのが介護の問題である。ただでさえ生産年齢人口は減っていくのに、働ける人たちのいくばくかは「介護に追われて働けない」という状況に立たされかねない。安心して任せられる施設が十分にあればいいが、施設数も従事者数も十分とはいえず、介護ニーズの急増に追いつけないのが実態だ。

センサーを利用して行動を自動検知
赤外線カメラを使って、入居者の起床や転倒などの動作を自動検知する。マイクロ波センサーは、ベッドで寝ている入居者の体動を測定する。具体的には、2.4GHzの微弱なマイクロ波を照射し、ドップラー効果による反射波の変化を見る。この測定結果から呼吸による微体動の有無を把握できる。

 この難題を解決すべく、コニカミノルタが新たなシステムを開発した。同社が「ケアサポートソリューション」と呼ぶこのシステムは、介護施設で働く介護スタッフの業務効率化を目的としたものだ。従来は、入居者の居室に設置された起床、離床センサーがナースコールに接続され、入居者が行動すると介護スタッフを呼び出していた。

 この方法だと、介護スタッフが居室に駆けつけてみなければ何が起きたのかを把握できず、「行ってみたけど、何もない」というケースが多かったとしても、行かないわけにはいかない。駆けつけの負担は、介護全般でみても極めて大きい。通常、夜間では介護スタッフは1人で20~30人の入居者を担当しているからだ。

 開発したシステムを使えば、駆けつけ回数を必要最小限に抑えられる。新しい仕組みはこうだ。居室の天井に複数のセンサーを内蔵したセンサーボックスを取り付けて、入居者の行動を検知する。センサーボックスは起床、離床、転倒、転落などを検知する。これらの動作を検知した場合は、その旨を居室の映像とともに介護スタッフのスマートフォンに送信する。介護スタッフはこれらの情報を基に駆けつけが必要かどうかを判断し行動する。実際に、介護施設に試験導入して効果を測定したところ、介護スタッフの運動量を日勤時に10%、夜勤時に29%削減できたという。

認知症の早期発見も可能に

「すぐ駆けつける」から「見て駆けつける」へ
ケアサポートソリューションを導入すれば、介護スタッフは入居者の動作を起点として、スマートフォンで状況を確認してから行動を起こすことが可能になる。その結果、駆けつけの回数を必要最小限に抑えられ、業務効率を高められる。

介護スタッフの運動量が大幅減
3カ所の介護施設に、ケアサポートソリューションを実際に試験導入して効果を測定した。介護スタッフの運動量は導入前に比べて、日勤の場合に10%、夜勤の場合に29%減った。

 開発したシステムの導入で得られるメリットは、ほかにもある。

 一つ目は、転倒転落の事故が発生した場合、入居者の家族に事故内容や原因、事故への対策などを説明するデータを用意できることだ。事故が発生した場合は、その前後の映像を記録装置に格納する。「事故の原因が分からないため入居者の家族が疑心暗鬼になり、結果として介護施設の責任を問うて争うケースが少なくない」(同社)。開発したシステムの導入で、こうしたリスクが軽減できる。

 二つ目は、センサーボックスに内蔵したマイクロ波センサーで、呼吸による微体動を検知し、安否状態や睡眠状態を把握することも可能である。介護スタッフの少ない夜間において、入居者の安否確認を効率的に行うことができる。昼夜逆転が起きる認知症高齢者への早期対策へも有用だ。

三つ目は、介護記録の作成/閲覧や情報共有といった作業を効率化できることである。この作業負担もかなり重い。「介護スタッフの業務全体の約3割も占める」(同社)。つまりこの作業の効率化による効果は非常に大きい。

 介護スタッフが持つスマホを有効活用する。介護現場で、介護記録や測定したバイタル情報(体温や血圧など)をスマホに入力する。すると、これらのデータは自動的にサーバーに転送される。これだけで介護記録の作成作業は完了する。従来は、介護記録を現場でメモし、事務室に戻ってからパソコンに打ち込むという作業が必要だった。

日本での経験を世界に

 この新システムには、これまでコニカミノルタが培ってきた多くの基礎技術が導入されている。

 一つは光学技術だ。広角レンズを使うことで、居室全体で入居者の行動を把握できる。センサー技術もそうである。マイクロ波センサーの利用で、体のわずかな動きも捉えることが可能になった。さらに、画像処理技術。赤外線カメラで取得した映像を処理することで、起床、離床、転倒、転落などの動作を自動検知できる。

 開発したシステムは、3カ所の介護施設に試験導入することで、既に有効性が確認できている。2015年12月の発売を目指す。ただし、開発はここで終わりではない。今後も、さらにブラッシュアップを重ねていく。

 施設介護のみならず、在宅介護への展開、そして地域における医療と介護を連携し、包括的なケアサポートサービスを提供していく。もう一つは海外展開だ。「日本は、少子高齢化で世界の先頭を走っている。このため日本での介護施設からの在宅、医療介護への事業展開経験を生かした介護ビジネスを世界に展開できるはず」(同社)。シンガポールにある同社の「Business Innovation Center(BIC)」と連携し、「ケアサポートソリューション」の現地化に取り組む計画だ。

受け継がれ昇華する画像処理技術

 ケアサポートソリューションは、コニカミノルタが培ってきた3つの基礎技術がベースとなって誕生した。具体的には、光学技術、センサー技術、画像処理技術の三つである。この中で特に重要な役割を果たしているのが画像処理技術だ。これを活用することで、赤外線カメラで撮影した画像から、高齢者の起床、離床、転倒、転落などの動作を自動的に検知することが可能になった。

 同社の画像処理技術の源泉をたどっていくと、1960年に製品化された複写機(MFP)の第1号機「ミノルタコピーマスター」に行き当たる。複写機には、さまざまな画像処理技術が使われている。例えば、領域判別技術やカラー・マネジメント技術である。

 領域判別技術の役割は、文字領域や画像領域などを自動判別することにある。それぞれの領域によって、画質を高めるために必要な最適データ処理方法が異なるからだ。カラー・マネジメント技術は、元の画像と出力した画像の色を一致させる場合などに使われる。

 カメラや複写機などの開発で磨かれた画像認識技術はその後、X線画像から乳がんが疑われる部分を自動抽出するマンモグラフィーCAD(ComputerAided Detection)にも受け継がれて、最高峰の抽出率で医師の診断をサポートすることに貢献している。

1960年に製品化された同社の複写機1号機「ミノルタコピーマスター」

X線画像を処理して病変候補を抽出

顧客価値を追求するBIC

 コニカミノルタは、「Business Innovation Center(BIC)」と呼ぶ新組織を世界の5極(北米、欧州、アジア、中国、日本)に設立した。新組織の設立目的は、オープン・イノベーションの実現にある。自社のリソースに固執せずに、社外の技術やノウハウを積極的に取り入れて、顧客に価値を提供する新ビジネスを創出する。「ケアサポートソリューション」では、その海外展開にBICを活用する考えだ。既にシンガポールにデモルームを設置済みで、そこで技術やサービスの詳細を紹介するとともに、アジア地域の顧客との「共創の場」として利用する。

お問い合わせ

コニカミノルタ株式会社
http://www.konicaminolta.jp/