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製造業の市場競争力を強化する、3つのプラクティス|エンジニアリング情報共有

Continuous Engineeringを支える「エンジニアリング情報共有」とは

製造業の利益率を向上させ、市場競争力を強化する新しいコンセプトとしてIBMが提唱しているContinuous Engineering。それを実現する最初のプラクティスとして位置づけられるのが「エンジニアリング情報共有」である。ここでは、Continuous Engineeringが注目されるようになった背景と、エンジニアリング情報共有の重要性、実現へ向けたアプローチについて解説する。

ITで培った開発手法を応用し、モノづくりの世界を変革

 ITの世界の変化は早い。FacebookやTwitterなどでは、1日にいくつもの新機能が追加されている。しかも、サービスを停止したりはしない。サービスの提供を継続しながら新機能を追加し、サービス自体を進化させている。それが“Continuous Delivery(継続的デリバリー)”と言われるアプローチで、それを実現するためにソフトウェアの開発手法や管理方法も進化してきた。

 このアプローチは、デジタルだけで完結するソフトウェアの世界だからできることで、ハードウェアの世界にそのまま適用できるわけではない。しかし、モノづくりの世界も大きく変わってきた。メカニック・エンジニアリング、エレクトリック・エンジニアリングが中心だったところに、ソフトウェア・エンジニアリングの比重が急激に増えつつある。

日本アイ・ビー・エム株式会社
Watson IoT 営業部
テクニカルセールス
徳島洋氏

 日本IBMの徳島洋氏は「こうした変化に伴って、ITの世界で進んできたソフトウェアやネットワークサービスの開発方法をモノづくりの世界に積極的に取り入れて、メカの開発とエレキの開発と融合しながらモノづくりの新しい発展を目指そうという取り組みが始まっています。それがContinuous Engineeringです」と語る。

 このContinuous Engineeringは、3つのプラクティスによって支えられる。「エンジニアリング情報共有」「継続的検証」「戦略的再利用」である(図1)。いずれのプラクティスも、ソフトウェア開発の世界で実践されてきた経験とノウハウが活かされているという。ここでは、それぞれのプラクティスの狙いと実践について紹介していく。

図1:複雑なモノづくりのためにIBMが提唱する3つのソリューション
図1:複雑なモノづくりのためにIBMが提唱する3つのソリューション
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情報が共有されていない、非効率で無駄が多い開発プロセス

 最初の「エンジニアリング情報共有」は、メカニック・エンジニアリングとエレクトリック・エンジニアリング、そしてソフトウェア・エンジニアリングのすべての情報を共有することで、より統合された開発環境を提供しようというものだ。日本IBMの藤巻智彦氏は「3つの開発環境を統合すれば、組織を超えて知見を得ることができます」と語る。

日本アイ・ビー・エム株式会社
Watson IoT 営業部
テクニカルセールス
藤巻智彦氏

 組込み系を例にとると、製品という切り口からみれば、メカニカルもエレクトロニクスもソフトウェアも、1つのものを作り上げていく同じチームとして捉えたほうが合理的である。しかし、現実は違う。これまでの慣例では、それぞれが別の開発チームとして活動している。

 「別々のチームで開発しているため、成果物は各部門に置かれたシステムやデータベースに別々に保管されています。しかも、どこに何があるのかがわかるのはベテランかスーパーエンジニアのような人くらい。多くのスタッフはこの現状をわかっていませんし、ましてや新人や他部門の人、協力会社の人には見当もつきません。そこに大きな無駄が生じているのです」(藤巻氏)

 開発のプロセスでは、設計図や仕様書、マニュアルなどのドキュメントが生成される。しかし現状では、これらは開発チームごと、プロセスごとに別々に保管されている。藤巻氏は「メカニカルの人はCADなどの設計用のツールを利用し、ソフトウェアの人はバージョン管理ツールを使うなど、ツールもデータベースも別のものを使っています。中には個人用PCのハードディスクに蓄積していることもあります」と指摘する。

 当然、この状態で必要な情報の有無を確認し探し出すのは至難の業だ。多くの製造業では、こうした情報の管理や追跡で活用しているのは、エクセルシートなどで作成した一覧表だ。変更があればミーティングなどで報告し、メンバー間で情報を共有しながらエクセルシートも更新していく。しかし、これができるのはせいぜい隣の部署まで。部門を超えた情報共有はおぼつかないのが現実である。

部門を超えて情報共有する、プラットフォーム構築への取り組み

 部門を超えた情報が共有できていないという現実を打破するための解決策としては、製品開発における成果物である設計図、仕様書、マニュアルなどの間をリンク付けし、部門を超えてアクセスできるようにすることだ。ベンダー、ツール、バージョンの違いは関係ない。「エクセルシートなどでは伝えられないそれぞれの関係性を含んで、システムとして情報連携できるかどうかが鍵になります」と藤巻氏は語る。

 そうした取り組みはすでに始まっている。日本のある医療系の製造業では、組織間・部門間の設計・開発情報の壁を取り除くための業務改革に取り組んでいる。医療機器の開発には法規制への対応が求められ、厳密なトレーサビリティーが求められる。しかも国別に法規制や書式が異なる中で、原本の証明やドキュメントのトレーサビリティーを保持しなければならない。そこで同社では、情報連携と情報共有のための新たなプラットフォームを構築し、開発体制の強化に乗り出した。

 具体的には、構造化文書システム、統合閲覧・配信システム、そしてCADシステムの3つの基盤システムを連携させることで、要素モジュール単位での共有と連携を可能にした。目指しているのは、構成要素を組み合わせながらも、1つの製品の連続したドキュメントとしてトレーサビリティーとシームレス化を実現することだ。

 この情報共有の新しいプラットフォームによって業務効率が大幅に向上し、開発プロセスの各要素の依存関係が可視化され、開発のスピードアップにつながる。しかも、高度なレベルでトレーサビリティーも確保できる。そのために同社では、電子署名・電子原本管理の仕組みも加えている。

情報を可視化するRELMがデータのビジネス価値を高める

 こうした取り組みを支援するツールとしてIBMが提供しているのが「Rational Engineering Lifecycle Manager(RELM)」(図2)である。RELMは複雑化する開発の中で各成果物をつなげて可視化するツールで、OSLC(図3)という規格を利用して、効率的に可視化を実現する。

 OSLCとはOpen Services for Lifecycle Collaborationの略で、ツールを統合するための仕様を定義するオープンなコミュニティーのこと。このOSLCの仕様によって、データがどのツールに存在するのかを意識することなく開発プロセスのさまざまなツールを連携させて、設計データとワークフローを統合した環境を作り、ソフトウェア開発のライフサイクル全般にわたって開発メンバーのコラボレーションを促進させることができる。

 「RELMはこのOSLCによってつながったデータを可視化し、容易にアクセスできるようにします」と藤巻氏はRELMのビュー機能を紹介する。このビュー機能によって開発とプロセスがマッピングされ、メカニカル、エレクトロニクス、ソフトウェアの部門を超えてワークフロー上で情報が共有できる。OSLCでつながったデータはほぼリアルタイムに反映されているので、ビューを再読み込みするだけで常に最新の状況が表示される。

 「開発が複雑になってきている今、エクセルシートで情報共有を図るのは限界です。しかし、部門を超えてツールを統一するのは現実的ではありません。よって、異なるデータをつないで可視化できるRELMが有効です。RELMによってエンジニアリング情報を共有することで、開発プロセスのデータから新しいビジネスに活用できるデータを見つけて利用することができるようになります。それが開発データの持つ新しいビジネス価値なのです」と藤巻氏は語る。

 データが電子化されているのは当然だが、部門内で埋もれてしまえば開発プロセス全体で活用することはできない。そのため、可視化していつでも見つけ出せる状態にしておくことが必要になる。ビッグデータ時代だからこそ、こうしたアプローチが求められているのである。それがContinuous Engineeringを実現する基盤にもなっていく。

図2:Rational Engineering Lifecycle Manager
図2:Rational Engineering Lifecycle Manager
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図3:OSLCの仕組み
図3:OSLCの仕組み
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