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次世代製造業の姿を示唆するコンセプトとは

日本の「ものづくり」が苦戦している。その理由はさまざまだが、作り出す製品が利用者の価値観の多様化に追いつけないことも要因の1つである。このような中で、IoT(Internet of Things)やビッグデータを新たなビジネスチャンスととらえ、製造業の革新に取り組む動きが加速している。それを理解する鍵となるのが、次世代のプラットフォームを構築するためのソリューションのベースとなる先進的なコンセプトだ。

日本の製造業が抱える課題とその解決へのアプローチ

 ユーザーに提供する付加価値の源泉は、従来のハードウェアからソフトウェアやサービスにシフトしつつある。“ものづくり”におけるソフトウェアの果たす役割が大きくなってきていることに異論はないだろう。しかし、それをどこまで真剣に受け止め、能動的に自ら変化できるかでこの先の成長が大きく左右される。多くの先進企業ではそれに気づき、すでに意欲的に動き始めている。

 こうした変化は日本の製造業にとっては逆風と言える。ハードウェア中心で、品質とコストを最重視してきた日本の製造業の強みは現場を主体とした改善能力であり、チームワークや組織力である。現場でじっくり磨き上げた完成度の高い製品をグローバルな市場に提供し、高い評価を得てきた。その評価の基準が今、変わりつつある。

 ゼネラルモーターズ(GM)では、システム開発の各プロセスをデータでつなぎ、要求分析から設計、実装、テストまでの短期化を実現。開発サイクルの長いハードウェアとは別のストリームラインを設け、電気制御やソフトウェアを短いサイクルで変更を繰り返しておくことにより、先進的なソフトウェアをタイミングよく取り込んでいく。製品の開発基盤とソフトウェアの開発基盤の連携により、迅速な新製品の市場投入を可能にしているのである。

 また、車のインフォテインメントの分野で大きなシェアを誇るパナソニック・オートモーティブシステムズ・オブ・アメリカ社は、2012年末に開発のインフラをクラウド上に移行した。その狙いは、製品の開発サイクルの迅速化だ。クラウド上で開発することで、多くのサードパーティーやサプライヤーといったパートナー企業はもちろん、顧客も巻き込んで効率的に開発を進めることができる。

 そのほかにも、プロジェクト管理や仕様管理、構成管理、電子承認などのツールを組み合わせてPDCAサイクルを確立した機械・自動車部品製造会社のジェイテクト、アジャイル開発で製品のリリースアップのサイクルを短期化した医療用の画像解析可視化システムを開発するシーメンス ヘルスケアなど、さまざまな企業(製造業)で時代の変化を見据えた取り組みが始まっている。

 そのような企業では、すでにITの世界で主流になっている「アジャイル」や「クラウド」を利用したスピード重視の開発や、複数の企業によるオープンなコラボレーションを積極的に取り入れているのである。この変化をどう読み解けばよいのだろうか。

2013年6月に米オーランドで行われた「IBM Innovate」で発表された「Panasonic, CloudOne, Sodius」の資料より
2013年6月に米オーランドで行われた「IBM Innovate」で発表された「Panasonic, CloudOne, Sodius」の資料より
パナソニック・オートモーティブシステムズ・オブ・アメリカ社は、2012年末に開発のインフラをクラウド上に移行。サードパーティーやサプライヤーとの連携などにより、製品の開発サイクルの迅速化を実現させた。
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変化への対応のヒントはソフトウェアの世界に

 そして、こうした取り組みを包括するキーワードとして注目されているのが、“ITの世界で進んできたソフトウェア、ネットワークサービスの開発の仕方を、ものづくりの方法に積極的に取り入れて、ものづくりの課題を解決し、新しい発展を目指す試み”と定義するContinuous Engineeringだ。

 Continuous Engineeringが登場してきた背景にあるのは、ものづくりの世界の大きな変化にある。その変化とは、顧客やサプライヤーが世界中にいるというグローバル化、電気とソフトウェアの比重が大きくなったデジタル化、そして家電などもインターネットにつながるというネットワーク化だ。

 ソフトウェアの比重が大きくなっていることは誰もが気づいている変化だが、さらに変化を加速しているのが、モノとインターネットがつながるIoTの世界の広がりである。IBMは「ネットワークにつながれた製品は、販売した後もソフトウェアを更新することで機能を追加することができます。製品としての進化は継続していく」と指摘する。

 さらに、利用されているデータを解析することで製品を改良するビッグデータの活用についてもIoTが拍車をかける。「こうした変化がものづくりのスピードを加速させています。何が起きるのか予測がつかない世界に突入している」とIBM。製品を取り巻く変化は常に継続していく。連続していると言ってもいいだろう。そこではエンジニアリングも連続して行われなければならない。Continuous Engineeringにはそうした意味合いが込められている。

 実はこうした変化とその対応は、ソフトウェアの世界ではすでに当たり前になりつつある。グーグルやフェイスブックなどは、時々刻々とソフトウェアを改変し、サービスとして提供している。“Continuous Delivery”(コンティニュアス・デリバリー)と呼ばれる世界だ。もちろん、ハードウェアはソフトウェアのように瞬時に姿を変えることはできない。しかし、グローバルにビジネスが広がり、ソフトウェアで差別化が図られる今、製造業でもContinuous Deliveryのような世界が広がりつつある。それがContinuous Engineeringなのである。

 ハードウェア中心で、品質とコストを重視してきた日本の製造業にとっては、つらい現実なのかもしれない。これまでのカルチャーの変革やソフトウェアの特性に関する理解などの課題もあり、その壁を越えるのは容易ではない。それに対してIBMは「課題解決のために、3つのエリアでContinuous Engineeringに適応することが求められています」と語る。

課題を解決するための3エリアでのアプローチ

 IBMが挙げる3つのエリアとは、(1)オープンで統合化された開発環境、(2)スピードと変化を重視した手法、そして(3)戦略的な再利用だ。冒頭で取り上げた先進企業の事例は、これら3つのエリアでの具体的な取り組みである。この3つのエリアにおける課題と概要は次の通りだ。

 1つめの「開発環境の課題」は、部門や担当ごとに開発環境が寸断されていること。開発環境のデータを連携・統合することができれば、迅速に状況を把握することができ、トレーサビリティーも実現できる。さらに変更のインパクトも明確になり、外部とのコラボレーションも強化しやすいというメリットもある。

 2つめの「スピードと変化への課題」は、品質の完成度にこだわることで開発期間が長くなってしまうことや、ユーザーの欲しいものが不明確であったり、変化したりすることで、製品の成功を妨げてしまうことへの対策である。Continuous Deliveryの世界でブラッシュアップされてきたソフトウェア開発の手法を取り入れ、アジャイル開発やテストの工程の短縮化を図ることで顧客のニーズを製品に迅速に反映し、製品の価値を高めることができる。

 3つめの「戦略的な再利用」のエリアでは、部分的に異なるバリエーションが数多く存在してしまうという、多くの製造業が頭を悩ませている課題にどう立ち向かうかがテーマとなる。共通部分とバリエーション部分を切り離して構成し、再利用することで重複を回避することができれば、無駄も省けて製品開発のスピードも上がる。

システム開発プロセスにおけるVモデル。Continuous Engineeringによるシステム開発では、スピードと変化を重視した手法「Shift Left」で顧客のニーズを製品に迅速に反映し、製品の価値を高める。
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Continuous Engineeringをユーザー事例から考える

 すでにContinuous Engineeringに取り組んでいる企業もある。たとえば、自動車部品を供給するロバートボッシュだ。

 また、ロバートボッシュが取り扱っている自動車部品は、製品数が多く、準拠すべき規格も多い。製品が安全性規格に適合していることを証明するとともに、コスト低減の要求に応え、かつ納期厳守の徹底が求められていた。

 こうした課題に対応するために、IT子会社であるロバートボッシュエンジニアリングアンドビジネスソリューションズがメカニカルや電気、ソフトウェアの開発領域ごとで使われているツールを連携させて、進捗や品質を見える化する基盤を構築。それぞれの進捗状況はダッシュボードで確認でき、無駄な工数も解消された。構築にあたっては、オープン規格であるOpen Services for Lifecycle Collaboration(OSLC)を採用して10年後でも使えるプラットフォームを目指したことと、派生製品の開発管理を効率的にできるProduct Line Engineeringによる設計再利用の仕組みを導入したのも大きなポイントである。なお、これらの事例ではIBM Rational Softwareのツールが基盤を支えている。

 情報連携・共有による開発体制の強化、プロセスの標準化や無駄な工数の解消によるコスト削減、市場に潜在するニーズを随時反映しながら速やかに製品化する新たなものづくりへの変革――。Continuous Engineeringは、製造業の未来を考えるうえで避けては通れないテーマとなるだろう。

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  • ボッシュの事例

    自動車メーカーは、市場競争に勝ち、また顧客の求める品質とコストに応えるために、常に高度なテクノロジーを追求している。自動車業界で常に開発体制の改革に果敢に挑んでいるボッシュは、効率的な開発体制を目指し、迅速にマーケットへ製品を提供。プロセスの標準化、部門間でデータを共有しやすい開発環境づくりなどに取り組んできた。そのボッシュが開発環境の改革を進める際に直面した問題点、改善策とは。

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