日経ビジネスONLINE Special 週刊日経ビジネスオンライン SPECIAL日経ビジネスオンライン

イノベーションを生み出すアプローチとは

富士通が提案するイノベーション創造のアプローチ――ヒューマンセントリック・イノベーション

人の創造性がイノベーションの鍵を握る

高重 吉邦 氏
富士通株式会社
マーケティング戦略室長
高重 吉邦 氏

 富士通はテクノロジーの本質的な姿は人と対立するものではなく、人に寄り添って、力を与えるものだと考え、イノベーションを創造するアプローチとしてヒューマンセントリック・イノベーションを提唱している。そこでは非連続的に進化するデジタル・テクノロジーを活用して、「人」がどのようにビジネスや社会のイノベーションを起こしていくかが大きなテーマとなる。

 何よりも大事なものは個人の創造性だ。そこで、人が創造的に活動できる「場」が意味を持ってくる。富士通は、会員制オープンアクセス型DIY工房を展開する米国テックショップとパートナーシップを結んだ。「米国製造業復権を牽引するメーカー・ムーブメントの旗手と言われているテックショップですが、実は企業が戦略的に活用しています。例えば、フォードはデトロイトにテックショップを誘致し、社員を通わせることによって特許出願件数が1年で50%以上増加しました。富士通は2015年10月、テックショップジャパンを設立しました。そして、2016年4月には、東京都港区アーク森ビルに大規模なTechShop Tokyoをオープンさせます。3Dプリンターなどの多様な工作機械を自由に使えるだけでなく、富士通の最新ICTを活用できる場を提供します」と高重氏は語る。

 そして、企業はデジタル・テクノロジーを「人」を中心に活用することによってビジネスを革新できる。例えば、航空機メーカーのエアバスは、富士通のRFIDタグと自動認識技術を採用し、グローバル・オペレーションのデジタル化に取り組み、現場スタッフによる航空機の運用保守を効率化すると共に、サプライチェーン・コストの大幅な削減を見込んでいる。「RFIDを核に多様な企業をデジタルにつなぐことによって、航空業界全体のエコシステムを形成することも期待できます」と高重氏は話す。

 さらに、イノベーションは一人ひとりに大きな価値をもたらす。「健康・医療」分野で、東京大学と富士通は共同でスーパーコンピューター「京(けい)」を活用して、64万個の心筋細胞を正確にシミュレーションすることに成功。困難な心臓手術に役立つと大きく期待されている。「イノベーションを生み出す鍵は、異質なものを組み合わせる人の創造性です。そしてそれを実現させるために、テックショップのようにアイデアを形にする『場』が大きな意味を持ち、急速な進歩を続けるテクノロジーをどう活用するか、そしてそれを組み合わせるビジネスモデルが重要になります」(高重氏)。

*RFID(Radio Frequency Identification):RFIDタグと呼ばれる媒体に記憶された人やモノの個別情報を、無線通信によって読み書き(データ呼び出し・登録・削除・更新など)を行う自動認識システム

*スーパーコンピューター「京(けい)」:理化学研究所と富士通が共同で開発したシステム

お客様企業との共創が新たな価値を生み出す

高重 吉邦 氏

 そこで重視すべきなのはデジタル・テクノロジーの活用だ。1990年代から現在まで、インターネット、モバイル・インターネット、IoT、人工知能・ロボットという形で、4つのデジタル化の波が押し寄せている。「デジタル化がもたらす非常に大きなインパクトを企業のリーダーは認識しなければなりません。そこでは、今までのバリューチェーンの分解と再構築、破壊と新たな価値創造が進行しています」(高重氏)。

デジタル化の波(1990年代~)
[画像のクリックで拡大表示]

 デジタル化の時代に重要になるのは、集団から個人に焦点が移っていく「人」、あらゆるものから生み出される膨大なデータから紡ぎ出す「情報」、あらゆるものがつながる「インフラ」という3つの要素である。「ビジネスや社会のインフラをつなぎ、情報から導く洞察・インテリジェンスによって人の判断や行動を支援し、新たな大きな価値を創出していくことが、デジタル時代にイノベーションを創出するアプローチです」(高重氏)。

 これを実現していくには、「ビジネスとITをどう組み合わせるか」を基準にして、既存事業と新規事業という2つの型に区別することがポイントになる。既存事業は絶え間ない改善が特徴で、ITは「プロセス重視」だ。一方、新規事業は決まった答えがないため、人の創造性を活用し、プロトタイプをデザインして新たな価値創出にチャレンジしなければならない。それを実現するITは「データ重視」で、仮説を作り出してお客様企業とIT企業とがアジャイルに共創していく形を取る。「新規事業の実践として、富士通では顧客企業と共創の取り組みを行っており、現在主に8つの分野で約300件の実証を実施中です」(高重氏)。

「ビジネス×IT」の2つの型
[画像のクリックで拡大表示]

 その分野の例として、「交通情報/災害対策」と「人の見守り」がある。富士通が得意とするリアルタイムの位置情報を提供するクラウドサービス「SPATIOWL(スペーシオウル)」に端末やセンサーを組み合わせることで、高齢者や子供の見守りサービスが可能になる。離れた家族の日々の様子を見守ることで、予兆を検知し、緊急時やライフリズムの異常時にはサービス事業者のスタッフが現場に駆けつける。「富士通は子どもの学びや成長、仕事をする人の創造や挑戦、高齢者のクオリティ・オブ・ライフの確保を支援し、テクノロジーの力で人を幸せにしていきます」と高重氏は述べた。

オープン・イノベーションを活用した新規事業創出――事例と機能する仕組み・体制を考察する

成果を生む技術探索型オープン・イノベーション

諏訪 暁彦 氏
株式会社ナインシグマ・ジャパン
代表取締役社長
諏訪 暁彦 氏

 オープン・イノベーションは、「企業内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造すること」と定義され、異なる知見を持ち寄って新しい技術を創造し、利益は参加者で享受する「自由参加コンソーシアム型」と明確な事業主体がいて、不足する技術やアイデアを外部に求める「戦略的提携型」に分けられる。自由参加コンソーシアム型は新しいアイデア出しにはよいが、事業化には向いていない。「グローバル企業は戦略的提携型のオープン・イノベーションを新規事業に活用し、明確な事業の方向性の下に、足りないものは外部から調達することが多いです」とナインシグマ・ジャパンの諏訪暁彦氏は語る。 

 戦略的提携型には、技術提供型と技術探索型がある。保有技術の売り込みや新規用途開拓を行う技術提供型は、開示されているニーズが少なく保有技術の強みとマッチしにくいため成功率が非常に低い。それに対して、外部の技術を探し出して自社の製品に応用する技術探索型は、候補となる技術の数が多く、技術提供側にもメリットがあるため成功しやすい。また、提供される側にとっては、自社の開発者の数と質の上限を超えてインパクトの大きな事業を実現できるという利点がある。「その代表的な成功例がフィリップスの揚げ物調理器『ノンフライヤー』です。開発ベンチャーAPDS社の熱風循環技術を導入し、2010年に製品化に成功。150カ国以上で約320万台の販売という空前の大ヒットになりました」(諏訪氏)。

 企業はより高い目標を短期間で実現することが求められる中で、達成できるレベルと目標とのギャップが拡大しているという大きな課題を抱えている。そのギャップは、今までの産学連携や企業連携では埋まらないことが多く、技術探索型のオープン・イノベーションが果たす役割は大きい。

優先度の高い、インパクトが大きなテーマを選ぶ

諏訪 暁彦 氏

 オープン・イノベーションを活用することで、今まで付き合ったことがない相手が持っている優れたアイデアやギャップを埋める技術・スキルを取り込むことができる。「その際に重要なことは、相手もギャップをぴったりと埋めることができるわけではないため、一緒に製品を改良させていく努力をすることです。その上で、慣れない組織と付き合いながら進めていくので、かける手間と費用に見合う重要な案件で実施することがポイントです」(諏訪氏)。

 日本企業からは、「やることが決まれば大抵自前でできる。むしろ欲しいのは新しい事業のアイデアだ」という声をよく聞く。しかし、GEでは航空機データの最適化アルゴリズムを世界中から募集したところ、航空業界以外の専門家からも、有益なアイデアが得られることが分かった。この成功体験をきっかけに、外部のアイデアの活用を前提とした、これまでになかった魅力的なプロジェクトやテーマが多く生まれるという好循環が生まれた。「いつかは自社でできることでも、より早く実現可能な技術やアイデアを取り込む経験を重ねることによって、既存の技術やアイデアに制約されない自由な事業アイデアが生まれやすくなります。オープン・イノベーションを遂行するプロジェクトリーダーに求められる特性は、計画・整理能力やビジネス洞察力など、通常業務のプロジェクトと同様ですので、実践できる人は企業にたくさんいます。オープン・イノベーション活動を推進するリーダーに求められる特性は特殊ですが、弊社では、その特性を見極める適性テストも実施していますので、ぜひご活用ください」と諏訪氏は述べて講演を終えた。