日経ビジネスONLINE Special 週刊日経ビジネスオンライン SPECIAL日経ビジネスオンライン

先進企業に見る社会貢献とビジネスの共存

環境やCSR情報と財務情報とを組み合わせた統合報告書を発行する企業が増えているが、誰に向けた報告なのかが曖昧になったという声も聞かれる。「読まれる報告書をつくるには、伝えたい相手を絞り、主要なメッセージを軸にストーリーを展開すること」。こう語るのは、環境・CSR分野で企業向けコンサルティングを行っている創コンサルティング代表取締役の海野みづえ氏である。同氏に消費者目線の報告書づくりのポイントを聞いた。

 ここ数年、日本企業でも統合報告書として発行する企業が増えている。だが、財務情報と環境やCSR情報を一体化しただけの報告書がまだ多いのが現状だ。

 「報告書を作成するうえでは、誰に向けた報告なのかという視点が欠かせない」と、主に企業向けにCSRコンサルティングを提供する、創コンサルティングの海野みづえ氏は語る。

 「投資家に向けてであれば、ビジョンや戦略を詳細なデータとともに提示することが重要だろう。しかし、消費者や地域住民、就職活動をしている学生や社会人などは、企業を別の角度から見ている」と海野氏。とくに消費者は環境・CSR情報への関心が高く、彼らに向けてのメッセージを分かりやすく切り出し、伝えることが必要だ。

あれも、これも、では何も伝わらない

 日本企業の報告書でよくあるのは、すべての情報を網羅しようとあれもこれも詰め込んだ結果、結局何を伝えたいかが不明瞭になってしまうケースだ。

 「企業全体として多くの情報を集めるのはいい。重要なのは、その膨大な情報の中から『何を』『誰に』伝えるのかを明確にし、最適な書き方と見せ方を考えることだ」と海野氏は主張する。具体的にはどう進めればいいのか。海野氏は次のようにアドバイスする。

 「まず、何をメッセージとして伝えたいかを考える。消費者をターゲットにする企業であれば、自社のサービスや製品が生活にかかわるどんな問題につながるのかを明確にする。このように事業を切り口とし、企業の特徴を明確に打ち出したCSRを私は戦略的CSRと言っている」(海野氏、下記の図参照)

サービスや製品を提供することによって、積極的に社会問題を解決していくのが戦略的CSR。事業を切り口にした特徴あるCSRを打ち出すことができる。
[画像のクリックで拡大表示]

 例えばハウスメーカーなら、高齢化という社会問題を解決するために、バリアフリー住宅や高齢者が住みやすい街づくりに取り組んでいることを示す。エネルギー企業なら化石燃料の枯渇や温暖化問題の解決に向けて、再生可能エネルギーの活用で応える、などが挙げられるだろう。

 「ただ漠然と『環境問題に取り組んでいます』と言うのではなく、注目点をせいぜい3つに絞る。そのうえで、注目点についてはストーリーをつくって詳細に紹介すれば、企業に対するイメージを刷り込むことができ、個性を鮮明に打ち出せるだろう」(海野氏)

社員がメッセージを語り企業姿勢をアピール

 戦略的CSRを実践している企業、とくに消費者に対して企業姿勢を分かりやすく示しているのが、消費財メーカーの世界大手、ユニリーバである。同社は2010年に、成長とサステナビリティの両立を目指すビジネスプランとして「ユニリーバ・サステナブル・リビング・プラン」を発表。「すこやかな暮らし」「環境負荷の削減」「経済発展」の3つの分野で2020年までの数値目標を掲げ、取り組みを進めている。

 例えば、発展途上国における食料需要増に対応するため、自社製品における栄養価の高い製品の製造割合を上げることに取り組んでいる。また、インドなどの小規模農家で研修を実施し、途上国の自立的な経済発展を支援している。

 こうした世界各地の取り組みは同社のウェブサイト「Sustainable Living Commonplace」で発信している。現地の写真をふんだんに使ったニュースレターやインタビュー記事のほか、社員が自ら行っている社会貢献活動について語るスピーチを動画「Unilever TED talks」として掲載している。エジプトの障害者雇用に取り組んだり、ハイチを襲った大地震の被災家族を支援したりといった活動が紹介されている。社員が自らサステナブル・リビングを実践し、それを熱く語ることによって、同社の企業姿勢をストレートに伝えようという狙いがある。

社内の垣根を越えて協働し「何をどう伝えるか」を考える

 ターゲットを定め、伝えたいことが決まったら、次はどう伝えるかを考える。こうした作業を進めるうえでは、環境CSR担当者と他部門との協働が欠かせない。「部門間の垣根を壊すことが大事」と、海野氏は強調する。

 「消費者に自社製品を通して企業姿勢を知ってほしければ、消費者ニーズに詳しい広報やマーケティング部門と連携し、製品プロモーションの一つとして『報告』をまとめるべき。また、就職を意識した学生や社会人、つまり未来の社員を意識するなら、人事部と協働することが大切だ」

 部門の垣根を越えて取り組むことによって社員の問題意識が高まり、目的意識を共有できるようになるのも、「報告」を作成する作業の大きなメリットだという。

 海野氏はまた、「読まれる報告書」づくりを進めるうえでは、企業情報の体系化が重要と指摘する。

 「パンフレットや報告書などの紙媒体では最重要ポイントを伝え、ウェブサイトではその詳細や裏付けとなるデータなどを掲載する。読み手によって関心のある情報は違うのだから、誰もが自分の知りたい情報に容易にアクセスできるように体系化しておくことが必要」(海野氏)

 消費者向けイベントなどでは、薄く手に取りやすい冊子が効果的。報告書を配る代わりにこうしたパンフレットにCSR情報を盛り込んでまず関心をもってもらい、詳細へと導く工夫をするとよいだろう。報告書からウェブサイトへの連動も定着しつつある。報告書で書き切れなかった部分をウェブサイトに載せ、しかも断片的でなくストーリー全体が見えるような設えにして読者の満足感を高めることがポイントだ。

 例えばダイバーシティ経営を推進している企業であれば、いきいきと働く女性にスポットを当て、本人のプロフィールとコメントをパンフレットなどに掲載する。それに興味をもった読者がウェブサイトに行くと、本人が登場する動画があり、働く様子がリアルに分かるといった具合だ。「当社は、育休を3年間取得可能」などと書くより、臨場感をもって働きやすさをアピールできるのではないだろうか。

 「伝えたい相手を絞り、主要なメッセージを考え、それを軸にストーリー展開するのがポイント。企業内のメディア戦略を担当する部署と協働するのも効果的だろう。社会からの共感を一つ、また一つと獲得することによって、企業価値が高まるのだということを忘れてはならない」。海野氏は最後にこう締めくくった。