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2020、人類は新しい「目」を手に入れる

自律走行車や監視カメラなどで極めて重要な役割を果たしているのが「目」の働きをするセンサーだ。正しい情報を取得できなければ、正しい判断を下せないからである。コニカミノルタは、「3Dレーザーレーダー」と呼ぶセンサーを開発、人間の目を超える理想的な「目」の実現に道筋をつけた。

「3Dレーザーレーダー」と、メガネ型ディスプレー「WCc」

 人間が運転することなく、クルマが自動的に走る自律走行車。早ければ、2020年ごろには実用化される見込みだ。

 これを実用化するには、高性能プロセッサーやソフトウエアなど、様々な電子技術が不可欠になる。その中でも特に重要なのが、人間の「目」の役割を果たすセンサーである。どんなに高性能なプロセッサーを搭載していても周囲の状況を正確に取得できなければ、正しい判断を下せないからである。

 こうしたセンサーは、既に数多く開発されているが、いずれも性能が不十分と言わざるを得ない。例えば、可視光カメラは、太陽と逆光となるとハレーションを起こし、太陽に重なった人間や物体は検知できない。ミリ波レーダーは物体を識別しづらいという欠点がある。

レーザー+特殊走査光学系

[図1]3Dレーザーレーダーによる動体検知例
歩行者の存在を認識すると同時に、動体ベクトル(移動方向と移動速度)も検知可能だ。

 コニカミノルタは、こうした問題を解決できる新しい「目」を開発した。特殊な赤外半導体レーザー光源系と特殊な走査光学系を組み合わせた「3Dレーザーレーダー」である。レーザーの出力光を上下左右に振って空間を帯状にスキャンする。この空間スキャン領域が検知可能な範囲となる。

 コニカミノルタの3Dレーザーレーダーは、広い領域を高い分解能で、高速かつリアルタイムに検出できる。検知可能な範囲は、最大で視野角180度、24ラインスキャン。しかもスポット間に隙間がなく、データの抜けがない。検知距離は、実力値で200m程度である。対象物の距離、スピード、全体および部位3Dサイズ、ベクトルといった物理量を正確に計測し、追尾する。「広い領域を瞬時に細かくスキャンでき、かつデータの抜けがない」という高い性能を達成した[図1]。

 なぜ同社には実現できたのか。その理由は、レーザービームプリンターの開発で培った光学系の高精度な走査技術と、様々な光学技術を組み合わせることに成功したからだ。

 ただし、3Dレーザーレーダーとて万能ではない。豪雨や濃霧の時は、レーザー光が水滴に吸収されてしまうため、遠くの人間や物体は検出できなくなる。レーザー光の出力を高めればより遠くまで検知可能になるが、JISで定められた安全規格(クラス1)をクリアするには、現行の光出力以上には高められない。

 例えば、自動運転を想定した場合、3Dレーザーレーダーだけで理想的な「目」を実現するのは難しい。可視光カメラや遠赤外線カメラ、ミリ波レーダーなど、他のセンシングデバイスと組み合わせて安全性を確保する必要がある。しかし、どう組み合わせるにしろ、3Dレーザーレーダーは必要不可欠な存在だと言えるだろう。

監視カメラや行動解析にも効果

[図2]3Dレーザーレーダーは社会の中でどう貢献するのか
監視警告や人物行動解析、3D形状計測などの幅広い分野への適用が期待されている。

 3Dレーザーレーダーの用途は、自律走行車などの移動体以外にも多岐に渡る[図2]。1つは監視カメラだ。3Dレーザーレーダーを使えば、対象物の大きさや形状の特徴を瞬時に把握できる。人間か犬/猫かなどの判別を的確にできるようになり、誤報や失報のないセキュリティー・システムを構築できる。さらに、ディープ・ラーニングなどの画像認識技術と組み合わせることで、格段に高い判別機能を実現できる。実用化では、監視カメラが自律走行車に先行しそうだ。既に試験的に導入されており、有効性を確認する検証実験が始まっている。

 2つ目は、スポーツ、マーケティング、イベント会場の人物行動解析である。例えば、競技場に3Dレーザーレーダーを設置することで、各選手の平均速度や移動履歴などの情報をリアルタイムで取得できるほか、グラウンドのどの場所に選手が集中しているかを時系列で表すヒートマップの作成も可能だ。選手交代やチーム戦術の検討などに活用できるだけでなく、選手のケガ防止にも貢献できる。このような3Dレーザーレーダーを活用した人物行動解析が、次世代のビジネスを生む可能性は高い。

 3つ目は3D計測だ。重要なインフラ設備、老朽化が進む橋梁やプラントなどを3D計測で常時監視し、大規模災害発生による形状の変化をいち早く把握して被害の拡大を未然に防ぐ。また工事現場にも適用できる。複数の重機を使って作業するため、地形が変化してしまう。この変化を3D計測でリアルタイムに捉えることで、工期短縮や重機を操作する作業者の安全確保を図る。3Dレーザーレーダーの貢献できる応用分野は広い。

メガネ型ディスプレーと組み合わせる

 さらに同社は、メガネ型ディスプレー「WCc(Wearable Communicator)」も開発中で、3Dレーザーレーダーと組み合わせるなどのアプリケーションの検討を進めている[図3]。3Dレーザーレーダーで見えないモノを可視化し、画像を解析し、WCcに情報を表示してソリューションを提供するといった「サイバーフィジカルシステム(CPS)による新たな価値」の提供だ [図4] 。WCcは、特殊光学系のホログラム技術が採用されている。この技術を使えば、レンズ機能と特定波長領域の光だけを反射させる機能を1枚の薄いフィルムで実現できる。光学系の簡素化と軽量化が可能な上に、画面を明るくできる。試作品は35gを下回り、装着者が違和感なく使うのに十分な軽さだ。

 メガネ型ディスプレーの市場開拓に関しては、先行他社を含めて苦戦しているのが実情だ。しかし同社はこれまでのディスプレー・デバイス単体の事業ではなく、「入力機器や業務システムと組み合わせたサイバーフィジカルシステムとして、まずは製造や物流、メンテナンスといった産業用のソリューション事業の検討を様々な企業と共同で進めており、大幅な作業効率向上の実証データを得ている」という。これからのデジタル・マニュファクチャリング時代に有用なアイテムと位置付け、今後はこの実証データをもって市場開拓を進める考えだ。

Wikitude社と開発中のアプリケーション例

ARのアプリケーションを立ち上げ、発注書にかざすと、指定した言語に自動翻訳される。紙上の情報を簡単に、複数言語で共有できるため、業務効率が高まる。

サービスの現場で、サービスパーソン用のマニュアルにかざすと、部品や手順などが立体的に表示される(左)。メンテナンス作業中に、車にかざすと、作業箇所や使用する道具が表示される(右)。いずれも、より速く、正確に作業ができるため、サービスの生産性が向上する。

[図3]世界各地で進むアプリケーション開発
 レーザーレーダーとWCcとも、世界各地でアプリケーション開発が進んでいる。この取り組みをけん引しているのがコニカミノルタの「Business Innovation Center(BIC)」だ。BICの役割は、コニカミノルタの顧客が抱える課題を解決し、価値を提供することにある。つまり、「技術ありき」の開発プロセスは取らない。この点が、従来手法と大きく違う。例えば、欧州では、AR(仮想現実)アプリケーション開発ツールの大手ベンダーであるWikitude社への出資を通して、様々な業務へのARの適用を検討している。ARとWCcのようなメガネ型ディスプレーの相性は非常に良いため、将来的には両社の技術を融合した事業が期待できる。まずは、先行してWikitude社との協力で顧客リレーションや顧客価値を実現するための必要な要件を明確にした上で、ARとWCcを組み合わせ、サイバーフィジカルシステムのソリューション商材とすることで両社の発展に寄与できる事業モデルの開発などについて検討を始めている(上図)。

[図4]顧客価値創造の背景にあるサイバーフィジカルシステム(CPS)
 コニカミノルタは、入力デバイスとして機能する3Dレーザーレーダーと出力デバイスとして機能するWCc(Wearable Communicator)に、データ・サイエンスやディープ・ラーニングといったデータ処理技術を組み合わせ、ソリューション/サービスとして提供する取り組みを進めている。これらの入出力デバイスは、サービスとして提供することで顧客や社会の課題を解決できると考えているからだ。
こうしたソリューション/サービスの開発の背景には、同社のビジネス構築の礎になっている「サイバーフィジカルシステム(CPS)」がある。サイバーフィジカルシステムとは、実世界(Physical System)からセンサーなどで取り込んだ大量のデジタル情報を、サイバー空間(Cyber System)の強力なコンピューティング能力と結びつけ、より効率的で高度な社会を実現するシステムのこと。同社は創業以来、複写機やカメラなどのハードウェアを中心に「インプット/アウトプット」技術を培ってきたが、そこに情報をインテリジェンス化させる「プロセス」を加えることで、新たな顧客価値創造の切り口を生み出している。

カメラ、フィルム、複写機の技術を継承

 3DレーザーレーダーWCc(Wearable Communicator)には、コニカミノルタが長い技術開発の歴史で培ってきた基礎技術が存分に活用されている。

 3Dレーザーレーダーの基礎となったのはカメラ技術だ。カメラは、光学技術の粋を集めた装置である。その開発の過程で、多くの光学技術やレンズ加工技術が生まれた。これらの技術は複写機に受け継がれ、3Dレーザーレーダーの基盤技術となった。

 WCcの開発には、カメラ技術に加えて、カラーフィルム技術が大きな役割を果たした。WCcの特徴は外光透過性が高く、軽量な点にある。これを実現するカギとなったのがホログラフィック光学素子である。この素子は、複数の有機材料を塗布し、それらに安定化処理を施して製造する。有機材料の膜厚はμm単位で制御する必要がある上に、安定化処理が難しい。これを可能にしたのは、カラーフィルムの開発で培った高度な技術だった。

国産初のカメラ
六桜社(現在のコニカミノルタ)が1903年に実用化した「チェリー手提用暗函」。

国産初のカラーフィルム
1940年に小西六(現在のコニカミノルタ)によって製品化された国産初のカラーフィルムである。

お問い合わせ

コニカミノルタ株式会社
http://www.konicaminolta.jp/