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複雑化する開発プロセスを劇変させるには

岡部英幸(以下、岡部) クロブさんがフランスで設立したシステムズ・エンジニアリングの専門企業CESAMESについてご紹介ください。

ダニエル・クロブ氏(以下、クロブ氏) CESAMESは“システム・アーキテクチャ、経営、経済、戦略の研究”を意味する略語です。航空宇宙、自動車、エネルギーなどさまざまなテクノロジー分野で直面する複雑性を解決するためのお手伝いをしています。フランス有数の理工科学校エコール・ポリテクニークで教授として私が担当した「複雑なシステムのエンジニアリング」という講座がベースとなっています。

岡部 システムの複雑性を解決するというニーズは、今増えている状況なのですね。

システムを全体視して捉えることから始める

CESAMES INSTITUT 代表 ダニエル・クロブ氏 自動車、航空宇宙などの大手企業の複雑な設計プロジェクトの課題解決を支援している。世界各地で500人を超えるシステム・アーキテクチャのエンジニアに対し、実践的な手法に基づくトレーニングを実施した実績も持つ。INCOSE*のフェローも務めている。* INCOSEは、学際的なアプローチの実践応用と複雑なシステムの実現を可能とする方法を進展させることを目的に、産業界、学際組織、政府機関における世界規模のシステムズ・エンジニアリングの定義、理解、実践を進めているシステムエンジニアのための国際的な専門組織。

クロブ氏 近年、産業界のあらゆる分野でシステムの複雑性が引き起こす問題に頭を悩まされています。複雑なシステム環境では合理的な意思決定が難しくなります。その複雑なシステムの開発プロセスをシンプルにすることで、設計者・技術者をサポートし、経営層の戦略的決定を助けるのが私たちの目的です。

岡部 そんな状況下で私たちダッソー・システムズとの協業も始まりました。パートナーシップはすでに2年以上になりますね。システムズ・エンジニアリングで力を発揮するCATIA Systemsを当社がアナウンスしてから約10年がたちます。システムズ・エンジニアリングの価値をお客様に提供していく中で出てきた課題は、CATIAというツールの中に複雑な問題を単純化する解決法をどうやって入れるかでした。
 一方では、複雑な問題をシンプルにする方法論を持った強力なパートナーを求めていたわけです。その点でCESAMESの存在は当社にとってきわめて魅力的でした。
 ところで、「複雑性」というキーワードがすでに何度も出ていますが、この問題に対処するためなぜ今システム・アプローチが必要なのか、改めて教えてください。

クロブ氏 製品というものは、部品と部品をつなぐことで構築されます。現在は1つひとつの部品が複雑になっており、その複雑な部品がまた複雑な部品とつながります。ですから現在の製品はさながら人体のようなものです。ある細胞が他の細胞とつながり、最終的に人体を作り上げています。
 そこで重要なのは、産業界の製品を人体として見たとき、それは単なる細胞の集まりではなく、全体が1つの組織として動いていることです。

システムズ・エンジニアリングによって
シンプル化することのメリット

ダッソー・システムズ株式会社 3DSビジネストランスフォーメーション事業部 テクニカル・セールス/CATIA テクニカル・ディレクター 岡部英幸

岡部 部品自体が複雑になることに加え、さらに複雑なインターフェースが必要になるわけですね。

クロブ氏 設計者や技術者はたくさんの新しく難しい問題に直面しています。例えば自動車の基本部品は8000点にもなります。それぞれの間をつなげるインターフェースはまさに無数となります。ある部品に変更が起こった際、その変更の影響はあらゆるところに出てきます。

岡部 その大量の相互連携を理解するのは、エンジニアにとって至難の業でしょう。

クロブ氏 1つひとつのコンポーネントには担当者がいて、それぞれを最適化しています。各部の最適化は行われていても、実は全体から見て最適化を行う人間が誰もいません。これが最大の問題です。それに対応し、解決するのがシステムズ・エンジニアリングです。

岡部 つなぎの部分、連携性を考える人が手薄で、最終的にシステムが思うように動かないということですね。

クロブ氏 そうです。ですから個々のコンポーネントではなく、全体を1つのシステムとして扱うという考え方が必要なのです。搭載される機能の数が増え、例えば自動車の自動操縦のように各機能が複雑化してくる中、複雑に連携するシステム全体を1つのアーキテクチャ(論理的な構造を持つもの)として扱わなければ今後はさらに厳しくなります。

岡部 自動車業界に限らず、他の産業でも共通して抱える課題といえますね。

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クロブ氏 そもそもシステムズ・エンジニアリングは宇宙産業で生まれました。宇宙産業では、ロケットの発射に失敗すると巨額の損失になります。全体を1つのアーキテクチャとするシステムズ・エンジニアリングの手法を取り入れる以外に選択肢はなかったともいえます。業界に関係なく、ある一定の複雑性に達したときにシステムズ・エンジニアリングが必要とされます。複雑性が増せばそこに遅延が生じ、コストが多くかかるようになりますが、今までのやり方では対処しきれないレベルにまでそれらが進むと、別のやり方が必要になります。今後数十年で、このようなトレンドがますます加速するでしょう。

岡部 最近手がけた大きなプロジェクトとして、プジョーシトロエン(以下、PSA)の事例についてお聞かせいただけますか。