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複雑化する開発プロセスを劇変させるには

クロブ氏 PSAでは設計プロセスの改革に取り組みました。私が知る限り、自動車業界でここまで大規模にシステムズ・エンジニアリングを採用した会社はPSAが初めてだと思います。システムズ・エンジニアリング自体は多くの自動車メーカーで採用されていますが、採用範囲が一部に限られているのが一般的なのです。PSAは、まさに自動車開発全体にシステムズ・エンジニアリングを適用しました。大きなイノベーションプロジェクトを実施しているといえます。

プジョーシトロエンを変えた提案内容とその効果

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岡部 PSAはどのような問題を抱えていたのですか。

クロブ氏 ADAS(先進運転支援システム)など先進機能が加わる中、PSAでは1つの機能設計に関わるチームが10に及ぶこともありました。まさに混沌とした状況で、各チームの同期を取るのが難しく、品質や出荷遅れ、コスト問題に発展するケースも生まれていました。そんなときに依頼をいただき、組織改革から進めることを提案しました。

岡部 具体的にはどういった提案ですか。

クロブ氏 PSAではサービスの開発とコンポーネントの開発については比較的うまくいっていたのですが、機能の開発に問題がありました。機能開発は、誰も担当者がいないか、あるいはあまりに多くの担当者がいるという事態が起きていたのです。
 私たちは、まず将来的な「設計の枠組み」がどうあるべきかを提案しました。次にすべてのマネジャー(トップマネジメントや中間マネジメント)たちと、30の戦略的ルールで合意しました。例えば、1つの設計活動につき担当者は1人というルールなど。さらに、設計活動の集約や、人員の入れ替えといった組織変更も実施しました。組織変更は200にも達しています。
 こうして改革を進めていった結果、当初は80もあった基本的な設計成果物のテンプレートを4分の1にまで減らし、複雑なシステムのシンプル化に成功しました。すでに最初のプロジェクトとして、新しいエンジンの設計が新しい枠組みをベースに行われています。

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岡部 今回の組織改革に際して、ダッソー・システムズのツールはどう役に立ちましたか。

クロブ氏 改革の中核を成したのがダッソー・システムズのソリューションです。あらゆる組織的な枠組みにダッソー・システムズのツールを対応させることができました。ダッソー・システムズのツールは組織編成と同じようにエンジニアの役割ごとに構成されており、組織図に付箋で貼り付けていくように、設計ドキュメントの1つひとつが組織上の責任範囲として規定された成果物になります。
 一般的なツールのようにモデル作成に限定されるのではなく、ツールのアーキテクチャと組織の構成とが1対1で対応しており、最終的にそれがモデルにひも付くという考え方が強みであると思います。

岡部 最後に、今後のシステムズ・エンジニアリングの市場をどう予測していますか。

クロブ氏 欧州におけるシステムズ・エンジニアリングは非常に速い勢いで拡大しています。この2週間でも航空業界と原子力関係のグローバル企業から引き合いが来ました。複雑性をシンプル化する手法と、それをサポートするツールへのニーズはさらに増していくと考えています。

岡部 日本でも複雑性への関心はきわめて高く、今後もさらに深まっていくと思います。

ダッソー・システムズ

3Dエクスペリエンス企業として、企業や個人にバーチャル・ユニバースを提供することで、持続可能なイノベーションを提唱します。世界をリードする同社のソリューション群は製品設計、生産、保守に変革をもたらしています。ダッソー・システムズのコラボレーティブ・ソリューションはソーシャル・イノベーションを促進し、現実世界をよりよいものとするため、バーチャル世界の可能性を押し広げます。ダッソー・システムズ・グループは140カ国以上、あらゆる規模、業種の約19万社のお客様に価値を提供しています。

CESAMES INSTITUT代表 INCOSE Fellow
ダニエル・クロブ(Daniel Krob)氏

ダニエル・クロブ氏は現在、2011年に同氏が設立した複雑なシステム・アーキテクチャおよびエンジニアリングを専門とするフランス企業CESAMES(Center of Excellence on Systems Architecture, Management, Economy & Strategy)社の会長を務めています。また、フランス有数の理工科学校であり約200年の歴史を有するエコール・ポリテクニークの研究所教授(Institute Professor)として、Dassault Aviation社、DCNS社、DGA、Thales社など、同校の産業講座「複雑なシステムのエンジニアリング(Engineering of Complex Systems)」を12年以上にわたり指導しました。

学術界におけるシステム学の国際的な第一人者であるクロブ氏は、科学及び産業に関する最重要会議と位置付けられているComplex Systems Design & Management会議をパリおよびシンガポールの2カ所で開催しました。2014年には、システム工学国際協議会(INCOSE : International Council on Systems Engineering)から、世界でわずか70人にしか与えられていないフェローの称号を授与されました。

産業界においてクロブ氏は、同氏のチームと共に自動車、航空宇宙、シビル・エンジニアリング及びエネルギー業界の大手企業の複雑な設計プロジェクトの課題解決を支援し、協調的なシステムズ・エンジニアリングの導入により、各社の既存のエンジニアリング・プロセスを変革しました。また、世界各地で500人を超えるシステム・アーキテクチャのエンジニアに対し、実践的な手法に基づくトレーニングも実施しました。

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