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ビッグデータとWatsonで保険業界が変わる

ビッグデータ、IoT、AI(人工知能)、モバイルといったテクノロジーの大きな波があらゆる業界でビジネスモデルを変化させつつある。特に、金融、流通、製造、医療とヘルスケアの世界での変化は大きい。そうした中で保険業界はどんな影響を受けることになるのか。東京大学 大学院情報学環教授で医療とヘルスケアの分野にも詳しい須藤修氏、日本IBMの研究開発担当 執行役員の久世和資氏、同社で保険業界を担当する執行役員 田外晶也氏がそれぞれの立場から意見を交わした。
須藤 修 氏
東京大学
大学院情報学環
教授・博士
須藤 修(すどう・おさむ)
田外晶也 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
インダストリー事業本部
執行役員 保険事業部長
田外晶也(たげ・まさや)
久世和資 氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
執行役員 工学博士
研究開発担当
久世和資(くせ・かずし)

膨大なデータで支えられる予防医学と地域包括ケアシステム

 厚生労働省の老人保健健康増進等事業の実証実験「在宅医療と介護の連携における情報システム利用に関するガイドライン検討会」の委員長を務めている東京大学の須藤氏は「ここ数年で医療におけるデータ活用の動きは活発になっています」と最近の政府の動きを分析する。その背景にあるのは、増大する医療費負担に対する危機意識だ。

 日本は国民皆保険制度があり、いつでも医療が受けられる。「しかし、2035年問題に象徴されるように高齢化は確実に進んでいます」と田外氏。医療費の負担増によって社会保障制度の崩壊も危惧されている。

 そこで注目されているのが予防医学であり、地域包括ケアである。「医療の現場ではゲノム分析で発病を防ぐ研究も進んでいます。東大も20万人のゲノムデータを持っています。ただ、疾病を持っている人のデータはあっても、健常者のデータがないのが現状です。これでは比較研究ができません」と須藤氏は問題を指摘する。

 予防のために重要になるのが、日々の生活のデータ“ライフログ”だ。これは在宅介護を軸にした厚生労働省の地域包括ケアシステムの構想とも連動する。地域の中核病院と在宅介護を連携させ、医療と介護と予防を一体化して生活を支援する地域包括ケアシステムでは、医師、看護師、介護士、ケアマネージャーなど多くの人たちが関わる。そこで得られたデータを共有・分析することで、効果的な予防につなげることができると考えられている。

 「ただ、データが多ければデータに振り回されることにもなりかねません。それを回避するためのデータ活用モデルをどう作るのかは大きな課題です。同時に、データを集める方法と処理する計算能力、デリバリーする方法も重要です。そこではテクノロジーをどう活用していくのかという議論が必要になります」(須藤氏)。

 こうしたライフログ・データの活用は保険の姿も変えていく。自動車保険では、運転手の情報をリアルタイムに収集して保険料を変動させるという取り組みが行われているが、これは生命保険にも通じる。須藤氏は「今後の保険の世界では“個別化”と“予測”がキーワードになる」と語り、「それを実現するテクノロジーがコグニティブ(認知型)・コンピューティングです」と久世氏は強調する。ライフログのようなビッグデータと先進のテクノロジーが保険業界をどのように変えていくのだろうか。

ライフログなどのビッグデータと先進テクノロジーが保険業界をどう変えていくのか 詳しくは次ページへ