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FinTechの真髄とは

ユーザーの期待値の“バー”はますます高くなる

 急速に進化しつつあるフィンテック。その最前線を走る佐々木氏は、フィンテックの真髄を「世の中ですでに期待されているユーザーエクスペリエンスと、実際に提供されている金融サービスとの間のギャップ」と表現する。
「大きなインパクトをもたらしたのがスマホとクラウドです。さまざまなアプリケーションがクラウドで提供されるようになり、ユーザーはスマホを使って、いつでもどこでもそれを利用できる環境が生まれました。一方で、次々とクラウドの便利なサービスが登場するので、ユーザーの期待値は高まる一方です」

 サービスを提供する側は、その期待値をクリアしなければ使ってもらえない。今日のハードルは、昨日のハードルよりも高くなっている。

 佐々木氏はユーザーエクスペリエンスを考える上で3つのポイントに注意する必要があるという。それらについて、以下で順番に見てみよう。

 第1のポイントは、「『できる』では不十分、『使いやすい』のか?」。佐々木氏はこう説明する。
「たとえば、政府の『e-Gov電子申請システム』には便利な機能がありますが、あまり使われていません。電子証明書の取得などの手続きが煩雑だからでしょう。多くのユーザーは、簡単・便利なネットサービスに慣れています。たとえば、アマゾンで買い物をするときには1クリックで手続きが終わり、翌日にはモノが届きます。今では、買ったものが1時間で届くネットショッピングのサービスもあります」

 いったん上がった期待値の“バー”は、もとには戻らない。今、グーグルやフェイスブックといったインターネットの巨人が、そしてウーバーやエアビーアンドビーのような新興勢力がさらにバーを高めようとしている。金融サービスにおいても同じことが起きている。
「今、増えている新しいタイプのレンディングサービスでは、従来のような面倒な審査手続きは不要です。たとえば、どの銀行と取引しているか、どの会計サービスを利用しているかを教えてもらえれば、あとはサービス提供側で審査する。ユーザー側の利便性は向上しています」
「使いやすさ」にはいくつかの側面がある。佐々木氏が重視しているのはユーザーによる入力やアクションが少ない、ユーザーが求められるアクションが明確でわかりやすい、レスポンスが速い、時間や場所の制約がない、価格が適切などの点だという。

ユーザーの要望に応えれば正解、とは限らない

 第2のポイントは、「リスクはデータが解決する」。たとえば、グーグルのクリック課金広告サービスのAdWords(アドワーズ)。佐々木氏はかつて、グーグルで日本の中小企業向けマーケティングチームの立ち上げに関わった経験がある。
「中小企業向けでよく実施したキャンペーンに、5000円分の無料お試し券の提供がありました。当時は『そんなことをすれば、いくつもアカウントをつくって不正利用する人がいるのでは』と心配されたものです。確かに、ゼロからスタートした当初は不正利用されるかもしれません。しかし、データがたまれば不正パターンを見つけて合致するものを排除することができます」

 まず、実行してみる。そして、問題があれば事後的に対処するというアプローチである。事後的な対処、改善においてデータは決定的に重要だ。

 同じようなアプローチはfreeeでも採用されている。人工知能が大量のデータを読み込み、機械学習を実行することでプロセスを自動化する。単純な例だが、「トウキョウデンリョク」への支払いというデータは、水道光熱費に仕訳されるという具合だ(図2)。データが増えるほど仕訳の正確性は高まる。

(図2)

 第3のポイントは、「裾野が広がれば新しいマーケットができる」。実際、金融サービスの分野では低コストで与信やマーケティングを行うプレーヤーが続々と登場し、融資のマーケットが広がっている。

 以上の3つのポイントに注意した上で、新しいユーザーエクスペリエンスを考える必要がある。ただ、その実行は容易ではないと佐々木氏は言う。
「表面的なニーズに応えれば、ベストのユーザーエクスペリエンスを実現できるとは限りません。ユーザーが求めるものは、“正しい答え”ではない可能性があります。たとえば、freeeのチャットサポートは高い評価を受けていますが、これを始める前には電話サポートを要望する声のほうが多かったのです。しかし、私たちは電話ではなく、チャットでのサポートを選択しました」

 ニーズとしては顕在化していなかったチャットサポートだが、実行してみると大正解だった。誰からの問い合わせか、どの画面で困っているのかを把握した上で、よりきめ細かな対応ができるからだ。ユーザーの要望だけにとらわれていると本質を見落とす可能性がある。フィンテックに限らず、イノベーションに挑戦するすべての者にとっての重要な教訓といえそうだ。

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