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セミナー報告「資産を引き継ぎ経営を承継」

自己否定できない成功者、自分と違うタイプを選べ
時代にあった価値観、企業文化を創造するチャンス

事業承継の方法論をより深く理解するために、良品計画のトップ(当時)として経営改革を推進した松井忠三名誉顧問、そしてジャーナリスト蟹瀬誠一氏が登壇し、この問題に関する貴重な経験談と企業存続のあるべき形について論じた。

社長を譲るのは、余力のあるうちがいい

良品計画 名誉顧問 松井 忠三 氏
良品計画
名誉顧問
松井 忠三 氏

冒頭に登壇した松井忠三氏。同氏は良品計画の社長、会長を歴任したのち、現在は独立系コンサルタントとして社外取締役、顧問などを手がける。「脅威のV字回復と成長、事業承継の秘訣」と題して自身の経験に基づく講演を行った。

雑貨店「無印良品」を展開する良品計画は1990年、西友から営業権を譲渡される形で事業をスタート。「わけあって安い」をコンセプトに、99年までは順風満帆の成長を遂げた。しかし、2000年に初めて減益に転じ、01年には減益幅がさらに拡大、大きな挫折を経験する。

「日本の専門店で一度凋落し、復活した前例はない。改革はうまくいっても3年はかかる」。担当セクターのアナリストからこう言われたという。「焦りが短期的な対策に終始した。根腐れ状態のところに迷走が続いた」と振り返る。衣料品を中心とした不良在庫の処理をはじめ、01~02年にかけてリストラを断行。さらに本格的な復活を遂げるために、「次の成長に向けて敗けた構造から、勝つ構造に転換を図った」。

「セゾンの常識は当社の非常識」と自らの企業風土を問いただすところから始め、科学的経営、チェーンオペレーション、見える化・マニュアル化などを矢継ぎ早に推進。企画中心から実行中心の組織へと変化させた結果、03年には売上げ、利益ともに回復。その後も過去最高益を更新するなど、新たな成長局面を迎えている。

社長職を7年、会長職を7年務め、15年に退任した松井氏。後継者選びにあたっては、「自分と違うタイプを選ぶこと。複数で選ぶことが重要」と説く。良品計画には現在、トップ直轄の組織として人材委員会が設置され、課長以上役員までのポストを決定する権限を持ち、全体最適の人材配置を行っている。また、トップの後継者に求められる資質として人格、現場・現実への執着、イノベーター、実行力、本質追求能力、先見性、人に任せられること、勇気などを挙げる。「偉大な成功者は自らやってきたことを否定できない。社長を譲るのは体力があって、余力があるうちがいい。そして、バトンを渡した後はきれいに辞めること」とアドバイスした。

長寿企業はイノベーションを経て生存する

ジャーナリスト 蟹瀬 誠一氏
ジャーナリスト
蟹瀬 誠一氏

一方、ジャーナリストの蟹瀬井誠一氏の演題は「経営者の生き方、会社の活かし方」である。日本には、事業を継続させた結果、創業200年を超える長寿企業が約3000社存在し、世界的に見てもダントツに多いという。「彼らに共通するのは、環境変化に対して敏感であること、社内の結束力が強いこと、現場で働く従業員の判断を大切にしていること、そしてムダをあらため、質素倹約に努め、資金調達で無理をしないことの4点が挙げられます」と切り出し、長寿企業とはいえ、イノベーション(技術革新)を経て、現在に至っていると説明した。

事業継続には、ときとして経営者の「あり得ない決断」が不可欠と蟹瀬氏は力を込める。「歴史的に見て、一番あり得ない決断を下したのが、自動車の育ての親、ヘンリー・フォードです。フォードは従業員の賃金を日給2.5ドルから5ドルへ倍に引き上げ、従業員の待遇を良くすることで勤労意欲を向上させ、企業業績もアップさせました。クルマの値段を半額にし、消費者革命を起こしたことがアメリカの繁栄の基礎をつくったことは言うまでもありません」。

また、ダーウィンの進化論の一節「最も強い者、最も賢い者が生き延びるのではなく、変化できる者だけが生き残る」を引き合いに、「事業承継のバトンをわたすとき、新たな経営者は古い事業をそのまま継続するのではなく、時代に合った価値観、企業文化を創造できるかがポイント。難しいチャレンジだが、大きなチャンスでもある」と来場者にエールを送った。

以降、事業承継・相続に関する傾聴すべき具体論を紹介していこう。

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