「日本企業の唯一の弱点はマーケティングです。そこを何とかしなければ、製品やサービスがどんなに良くても国内でも海外でも負け続けます。その『マーケティング』つまり『売れる仕組み』がデマンドセンターなのです」
シンフォニーマーケティング代表取締役の庭山一郎氏は基調講演の冒頭でこう指摘し、「日本企業が創るべきBtoBマーケティングの『売れる仕組み』」をテーマに語った。
デマンドセンターとは、案件を営業部門や販売代理店に安定供給(デマンドジェネレーション)する機能を担う実行部隊です。デマンドセンターの主なミッションは、社内にバラバラな状態で存在する顧客・見込み客データの統合管理を行ったうえで、適切なコンテンツでコミュニケーションする活動を通して有望な案件を育て、発見し、営業部隊に供給することです。
「デマンドセンターが日本企業に必要な理由は、日本の法人企業の大半は引き合い依存体質が強すぎるからです。引き合い依存、すなわち、既存のお客様に既存の製品を売ることを、日本企業が最も得意としています。市場が成長し、既存顧客からの引き合いが多かった時代は、高品質の製品と熱心でフットワークの良い営業がいれば売り上げを作ることができました。マーケティング部門やノウハウは必要なかったのです」(庭山氏)
しかし、経済環境の激変により、日本企業は引き合いに頼らない領域へと踏み出さざるを得なくなった。既存顧客に新製品を売る、あるいは、既存製品を新規顧客に売る必要性が出てきたのだが、ほとんどの日本企業はうまくいっていない。マーケティングが不在なため、営業マンが会うべき相手に会うことができていないからだ。
「デマンドセンターで社内データの統合管理が行われるようになると、どの企業のどの部署のどの役職の誰がどういう問題を抱えているのかを知ることができます。ターゲット企業のデータを統合管理したABM(Account-Based Marketing)により、戦略的に案件を創出することができるようになるのです」と庭山氏は語る。
デマンドセンターの基本要素は、「データマネジメント(社内データの統合管理および競合・営業対象外の排除)」、「コンテンツマネジメント(ウェブ、メルマガなどのコンテンツ管理)」、「アナリティクス(分析・解析)」の3つだ。これらを通して、案件につながりやすいリストを安定供給する仕組みこそがデマンドセンターとなる。
デマンドセンターは、日本企業の唯一の弱点であるマーケティングをリカバーするために、本当に必須でキラーになれる仕組み、組織といえる。
「こうしたマーケティングはグローバルスタンダードになっていますから、これから日本企業が仕事をしていくうえで、デマンドセンターがないということは致命的なハンデキャップになると思ってください」と庭山氏はデマンドセンターの重要性を強調する。
特別講演では、電通デジタルマーケティングセンターCRMマーケティング部(現・電通デジタル CRMマーケティング事業部)・プロデューサーの河野紳一氏が、「経営目標実現のために必要な顧客体験向上と統合的なマーケティング管理」をテーマに語った。
「近年は、デジタルトランスフォーメーションによりCRM(顧客関係管理)マーケティングが進化しています。従来のCRMは、過去の取引客を維持していくことが主な目的でしたが、これからのCRMは、顧客化以前の段階でお客様を発見し、お客様の選別や最適なオファーを可能にしていくものと言えます」と河野氏はCRMの役割変化を指摘する。
ただし、今やデジタルソリューションがマーケティングに不可欠になったとはいっても、導入した企業のすべてがうまくいっているわけではない。デジタルソリューションを導入しても失敗する原因は大きく3つあると河野氏は指摘する。
「不明確なゴール設定、部門間の連携不足、それからデジタルへの過度の期待と依存です。これらの問題点を排除し、マーケティングを有効に進めていく秘訣は、営業部門もマーケティング部門もIT部門も組織全体として共通の目標を持ち、統合的な管理の下で取り組んでいく意識を持つことだと考えます」
さらに最新のCRM戦略では、統合的マーケティング管理を進める一方で、顧客体験を重視することがカギになる。物品が差別化しているだけでなく、購買行動の過程もすべて経験として捉えられている時代においては、CX(Customer Experience=顧客体験価値)の向上が求められている。
具体的には、顧客体験シナリオ(カスタマージャーニー)の設計である。顧客がどのように情報を探索したのか、そのうえでどのように扱ってもらいたがっているのか、それらをしっかりとイメージした上で、最適なオファーをしていかなければならない。
「カスタマージャーニーを設計する際は、社内のステークホルダー、場合によっては代理店も交えてみんなでアイデアを出すべきです。営業だけでなく、マーケティング部門やシステム部門としてのフォローアップなど、アイデアを出し合いながらシナリオをつくるのが、成功するための道筋になります」と河野氏。
そして、真の見込み客の発見と、重要顧客への注力のためには、CRMの考え方を基にした最適なデジタルソリューションの活用が有効になる。
「最高のカスタマーエンゲージメント(顧客との双方向の積極的な関係性)を創造することにより、見込み客から実際のお客様に育て上げ、ロイヤリティを高めていく。そうした長期的な経営目標達成のためにも、進化したCRMマーケティングの導入が不可欠になってきます」。河野氏はそう指摘して特別講演を結んだ。