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働き盛りを睡眠時無呼吸症候群の健康リスクから守れ!

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、睡眠中、頻繁に呼吸が止まる病気。日中の眠気につながるほか、高血圧など生活習慣病の要因にもなる。ドライバーなどでは事故リスクも高まるため、社会問題にもなっている。未治療の人が多く、SAS検診の必要性も指摘されている。SAS診療のエキスパートであるRESM新横浜院長の白濱龍太郎先生に、勤労者におけるSASの発見と治療の課題について話を伺った。

睡眠中に呼吸停止、心臓や血管に大きな負担

 SASは睡眠時無呼吸症候群という名称のとおり、睡眠中、呼吸が止まったり、止まりかけたりする病気です。呼吸が止まると体内の酸素が不足してきますので、身体は呼吸を再開しますが、自動車に例えれば、エンストしかけた時に、アクセルをふかして持ち直すようなもので、心臓や血管に大きな負荷がかかります。こうした状態が連日続くため、動脈硬化や高血圧症、糖尿病など生活習慣病のリスクが高まると考えられています。うつ状態になりやすいとする報告もあるほか、逆流性食道炎や男性の勃起不全(ED)、不妊症の原因になる可能性も指摘されています。

 また、“エンジンをふかす”時には、交感神経と呼ばれる自律神経が強く働くため、眠りが浅くなりますので、通常、健康な人なら15%から20%を占める深い睡眠が少なくなり、睡眠の質が悪くなってしまいます。そうなると、日中に眠気が出てきたり、集中力が低下して作業ミスが増えたりします。実際、SASがあるドライバーでは、交通衝突事故の発生率が30%増から最大では13.3倍にもなるという研究報告もあります。

「日本人」「男性」「口呼吸」はSAS発症のリスク因子

 SASは、30歳以上の男性の4%、女性の2%がかかっているとされ、特にBMIが25以上の肥満体型の場合に発症しやすいとされています。また、あごが小さい、鼻が低いといった骨格上の特徴もSASの発症リスクを高めます。このため、日本人を含むアジア人は、やせていても欧米人に比べてSASになりやすいとされています。男性に多い病気ですが、女性も閉経後にはかかりやすくなります。

 また、口呼吸だとSASになるリスクが高まりますので、鼻中隔湾曲やアレルギー性鼻炎、蓄膿症、副鼻腔炎などの鼻の疾患を持っている人もハイリスクです。SASは日中の眠気がある場合に診断されますが、睡眠中の呼吸障害がひどくても、必ずしも強い眠気が起きるとは限りませんので、本人が気付かずに重症のSASを抱えていることもあります。

 企業にとっても、SASによって従業員のパフォーマンスが低下したり、交通事故リスクが増えれば、生産性が低下しますし、職業ドライバーを雇用している企業なら、使用者責任を問われかねません。大規模な事故につながれば、会社の存続にも関わってきます。このため最近では、SASを個人の自己責任だと放置せず、企業や社会全体で対処すべき疾患と捉えるようになってきました。
<SASへの取り組み事例ビデオはこちら>

事故リスク低減に欠かせないSAS検診

 ところが、1年に1〜2回行う通常の定期健康診断では、問診票にもSASに関連した項目はありませんし、検査も行われていません。しかし、SAS検診を行えば、相当数のSAS患者が発見されると思われます。職種にもよりますが、企業は、従業員の健康や事故のリスクを考え、SASを早期発見する検診の実施を考えるべきではないでしょうか。ドライバーなどを雇用している運輸系の企業などでは必須だと思います。

 SAS患者が見つかれば、勤務形態や部署によっては配置転換の必要など、人事上の課題が生じる可能性もあります。しかし、いつ事故を起こしてもおかしくない、あるいは、いつ心臓の病気などを発症してもおかしくないといった状態で勤務を続けるリスクを冒すのは問題ではないでしょうか。

 全員を検査する余裕がない場合は、肥満や高血圧症の有無などを基準として、SAS検査を行う対象者を選べばよいと思います。こうした検診の場合は、検査の負担が低く、受診しやすいことが重要ですが、最近では指にセンサーをつけて眠るだけで無呼吸を評価できる検査機器も開発されています。

有効性が高い治療装置CPAP、治療の継続が最重要課題

ドリームステーション
写真1
CPAP装置に接続したマスクを装着して就寝する

 こうした検査でSASが見つかり、治療が必要となった場合、CPAP(持続式陽圧呼吸療法)という治療法が有効性が高く、副作用も少ないと考えられています。眠る時にマスクなどの装具を装着して空気を送り込み、呼吸を補助する治療法です(写真1)。このほか、呼吸を容易にするためのマウスピース装着や外科手術、あるいは薬物治療などもあります。治療をきちんと受けることができれば、SASによる低酸素状態が改善され、様々な疾病リスクも改善します。

ドリームマッパー
写真2
患者向けのスマホアプリ
「ドリームマッパー」

 CPAPによる治療は患者自身が在宅で行いますが、なかには装置の装着が煩わしいと感じ、治療が長続きしない人もいます。しかし最近では、装着の負担が少なく、不安定呼吸を改善するアルゴリズムを搭載するなど最新のデバイスも登場しています。また、CPAPの装着時間などを評価したり、医師への受診を促すスマホのアプリも登場しています(写真2)。こうしたツールを活用することで、治療意欲の改善に役立つと考えられます。

 SASの症状は、様々な業務と密接に関わってくるため、従業員にとって不利益にならないように配慮した上で、主治医、産業医、人事部などが連携して治療の実施やその効果を見極めていく必要があります。最近ではクラウド経由で患者のCPAP利用状況を把握できるシステムも登場していますので、こうしたデバイスを活用していくことで、効率的な管理が可能です。


配転や復帰の目安となるガイドラインを策定中

 近年、SAS対策については、国土交通省が2015年に「自動車運送事業者における睡眠時無呼吸症候群対策マニュアル」を発行したり、全日本トラック協会が検査助成制度を設けるなど、積極的な取り組みも見られるようになってきました。

 ただし、どの程度の症状で運転などハイリスクの業務を休ませるか、また、CPAPなどによる治療でどの程度改善したら復帰できるのかなどについての指針の整備はまだ十分とはいえません。このため私たちは、複数の専門家と共同で、企業、産業医、主治医がどのようにSASに取り組んでいけばよいかの指針となる、職域におけるSASガイドラインを策定中です。2017年度中には何らかの指針を出せるように尽力中です。

白濱先生
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 一般に、中高年層になるとSASを発症するリスクは上昇します。SASによって心臓や高血圧症などのリスクが増えれば、心臓疾患や脳卒中など生命に関わる病気のリスクも増えますので、一家の大黒柱を失えば家族にとっても大きな問題となります。企業や社会は、より積極的にSASに取り組むことが必要ではないでしょうか。
<SASへの取り組み事例ビデオはこちら>