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米国発の試作サービスでスマートグラス開発

 一つめは、いまおっしゃられたように、試作や小ロット生産おいて世界最速のオンデマンド製造サービスであること。工場には、プラスチック成型やCNCマシニング、3Dプリンティングなどの最新設備が十分に配備されているので、どんな受注スケールにも対応できます。(日本ではまだ3Dプリンンティングのサービスは準備中です)。

 二つめは、電子商取引のモデルを採用した手軽な製造サービスであること。エンジニアの方は設計データをアップロードするだけで、ご納品までほぼなにもする必要がありません。また、もしなにか技術的なご相談があれば、担当エンジニアがお応えする体制も整えています。ICTを活用する一方で「人」によるサポートの大切さも忘れていません。

 三つめは、プロトラブズが創業当初よりテクノロジー企業であるということ。見積もりや発注を始め、流体解析、製造性検証、ツールパス生成、工程計画、管理、モニタリングなど、自社開発のソフトウェアで自動化を推し進めています。

 四つめは、コスト競争力です。自動化でコストを最小限に圧縮しているため、5000個ほどの小ロット生産でも、お客様にとって利益の見込める価格を提示することができます。

 そして最後はプロトラブズが、インダストリー4.0やインダストリアル・インターネットなど、製造業の新しいトレンドに対応したデジタル・マニュファクチャラーであるということです。伝統的なメーカーは、このトレンドに乗るためレガシーシステムやインフラストラクチャーの大改革を必要としますが、プロトラブズはもともとすべての工程をデジタルベース、インターネットベースで構築しているので、そのままお客様の開発プロセスにシームレスに溶け込むことができます。

津田 2008年にそういうサービスに出会いたかったですね。(笑)

ホルト 昨年は、世界で1万2000社ほどのお客様に利用していただきましたが、じつは、なかでもとくに成長著しかったのが日本市場なのです。売り上げで前年比40%以上の増収となり、今年8月には工場を移転してフロア面積を3倍に増強しました。

津田 ずいぶん活況ですね。ヴィクトリアさんは、日本市場をどう見ていますか?

ホルト 日本は、アジアのイノベーションハブとして大変な市場だと思っています。開発のスピード化やものづくりの革新への意識も高く、私たちのサービスをもっと知っていただければ、ユーザー数はさらに増えるのではないかと期待しています。

ホルト 先ほどの、部品の調達ができなかったというお話に戻りますが、結局、どうやって打開されたのでしょうか?

津田 受託先を探して、数カ月、頭を下げ続けました。それでもなかなか見つからないので、最後に液晶時代の外注先を訪ね、ようやく協力を取りつけたんです。

ホルト それほど苦労されても、諦めようとは思わなかったのですね?

津田 半分、エンジニアの意地のようなものです。作ろうと思ったものは絶対にかたちにしたい。もうひとつは、支えてくれた仲間の存在が大きいですね。

ホルト いまでは、まわりはずいぶん協力的でしょう? 2月の技術発表直後の3月に、ウォールストリートジャーナルのオンライン版にAR(拡張現実)関連の記事が載っていて、ポテンシャル800億ドル(約9兆円)の市場に向けてグーグル、アップル、マイクロソフトなどが開発にしのぎを削るなか、軽量化、小型化、低価格化に成功した製品としてMOVERIO BT-300の名前が挙がっていました。こういう記事を読めば、きっともう文句を言う人はいなくなるのではありませんか?

津田 いえ、まだいろいろ言われますよ。たいていの場合、新しいことをやろうとすると、9割方否定されるものです。その壁を乗り越えないと、なかなかいいものは作れません。

アマゾンで買物をするように

ホルト 今回、エプソンの開発チームがプロトラブズのサービスを選ばれた理由はなんでしょう?

津田 一言で言えば、われわれに一番必要なサービスだったからです。限られた時間のなかで新しいものをタイムリーに仕上げていくためには、試作が欠かせません。若いエンジニアは3次元CADで設計し、2、3回の試作のあと修正して出図すれば、それで仕事は終わりと考えがちです。しかし、実際に、そんな進め方では後工程で問題が発生します。

ホルト マニュファクチャビリティ(製造性)の問題ですね。

津田 そうです。なにしろ誰も見たことのないものを作っているわけですから、それくらいの試作回数でできるはずがない。しかし、一方で開発スケジュールの遅れは許されません。そこで、いかにうまく試作を回していくか、考えなければいけないわけです。

ホルト 設計の精度を上げるためには、試行錯誤が必要ですからね。以前、医療機器のお客様から、ひとつの部品について8種類の試作を5日以内に欲しいと言われたことがあります。医療機器ではとくに安全性が重要ですので、実際のモノを見てリスクを潰していかないといけないのです。安全性にかかわる問題です。

津田 ひとつの部品について8種類の試作を5日以内ですか。それは大仕事だ。プロトラブズさんの場合、ただ早いというだけでなく、クオリティも高い。発注方法も手軽なので、エンジニアは喜びます。これまでのやり方だと、まず試作メーカーと会って図面を前に打ち合わせをして、それから何日もかけて作ってもらう、という流れになるんですが、それでは期限に間に合いません。

ホルト 私たちの創業者のラリー・ルーカスは、設立当初から自動化によってプラスチック部品や金属部品をすばやく作り、電子商取引のように手軽にお客様にお届けする仕組みを考えていました。アマゾンで買物をするような感覚です。ところで、今回のMOVERIO新シリーズの試作では、どんな点を重点的に検証されていたのでしょうか?

津田 装着性です。ウェアラブルデバイスのつけ心地というのは、3次元データ上では定義できないんですよ。作って実際につけてみないとわからない。素材の感触もありますからね。

ホルト 装着性でしたか。

津田 これまでにないものを作るとき、私は設計よりもむしろ試作の方が大事だと思っています。設計で製品の8割ぐらいは作り込めますが、残りの2割はいくら考えても埋められない。見たことも触ったこともないから感覚がつかめないのです。試作で残りの2割を埋めて、精度を高めていかないといけません。もちろん、コストはできるだけ抑えながら。

リスクはともかく、チャレンジを

ホルト アメリカでは最近、ものづくりというと中国やタイに目が行きがちですが、いま日本の製造業はどんな状況にあるのでしょうか?

津田 失われた10年などと言われますが、力は決して落ちていないと思いますよ。ただ、新しいものがあまり生まれていません。もっとイノベーションを起こさないといけないですね。それが本来の日本のものづくりだと思っています。

ホルト かつてはウォークマンが世界を席巻しました。最近、そうした日本発のイノベーションはあまり見かけられないのでしょうか?

津田 エプソンの液晶は、意外と世界の人気デバイスに使われているんですけれどね。(笑)

ホルト 失礼しました。電気自動車で有名なテスラのバッテリーもたしか日本製でしたね。

津田 私は、日本のものづくりはまだまだしっかりしていると思います。ただ、いまはリスクを考えて一歩引いてしまうことが多いですね。たとえば、誰かがドローンのようなものを開発したいと言いだすと「そんなものを飛ばして事故でも起こったらどうする?」ということになる。昔だったらリスクはともかく、チャレンジさせていたでしょう。MOVERIOにしても、長年温めてきたコア技術を組み直して、いままでにないものを作りたいという声に、社長が応えてくれたから実現したんです。

ホルト フロンティア・スピリット(開拓者精神)が大事、ということでしょうか。

津田 そうです。何事も新しいことを始めるとなると、大変です。いろんな壁にぶつかるし、いろんなものを変えていかなければいけません。大勢いる反対派も説得しなければならない。そういう面倒なことに敢えて挑戦しようという人が、昔よりだいぶ減ってしまったのかもしれません。このところ日本発のイノベーションが少ないのは、そのせいではないかと私は思います。経営層がやらせる勇気を持ち、若手がチャレンジする勇気を持てば、この国の製造業は、この先もずっと安泰ですよ。

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