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NIPPN New Waveセミナーレビュー ―外食・デリカ店経営者の課題を解決― トランジット

「話題を作るプロデュース術」
~ MAX BRENNER、ICE MONSTER など話題店づくりに必要なもの~

トランジットジェネラルオフィス
代表取締役社長 中村 貞裕氏

クリエイティブディレクション&ブランディングを得意とし、「アイスモンスター」はじめ多種多様な店舗運営を行なっているトランジットジェネラルオフィス。手掛ける店全てをトレンド店へと発展させ、新しいカルチャーを根付かせてきたのが、代表取締役社長・中村貞裕氏。世の中に話題を仕掛ける手法や、成功への秘訣を、今回特別に披露していただいた。

 話題を作り、行列を生むヒット店の裏に、必ず彼の存在がある。トランジットジェネラルオフィス(以下、トランジット)代表取締役社長・中村貞裕氏だ。カフェブームを牽引した伝説のカフェ「OFFICE」、「Sign」を生み、大手PR会社のサニーサイドアップとともに合弁会社を設立し、世界一の朝食で知られる「bills」を運営、台湾かき氷の「アイスモンスター」などを次々と日本一号店の上陸に導いてきた。

Sign daikanyama

 トランジットの飲食事業は、①直営店、②運営委託、③合弁会社、という主に3つの柱から成り立っているのが特徴だ、と中村氏は説明する。 通常の飲食店経営では、①を主軸としている企業が大半だが、トランジットは、アパレルや自動車といった飲食部門をもたない企業の店舗企画・運営(例/「ディーゼル」)でも成功を収めている。「③は、大手PR会社のサニーサイドアップと『bills』のライセンス契約をきっかけに始まったもので、主に海外の店の場合に資本力のある企業と組み、ブランドごとに合弁会社を作って展開をしていく、といった手法をとっています。2016年には、今後のさらなる事業拡大を見込み、三越伊勢丹ホールディングスとも契約を締結。さらに最近では、ローカル列車や新幹線のプロデュース、ケータリングなどのイベント事業、シェアオフィスを中心とする不動産業なども手掛けています。事業の伸びとしては、今は不動産業が一番いいのですが、グループ全体の約7割を飲食事業が占めています」。

Bills Fukuoka

 ずば抜けた先見の明と、ブームを一過性で終わらせない経営手腕。中村氏の名前を知らなくても、手掛けた店は誰もが聞いたことがあるはずだ。

 だから、会う人みんなからこの質問を受ける。「どうしたら、そんなに次々とヒット店をつくれるんですか」、と。

100×1=1×100。あらゆる情報をインプットし、アウトプット力を高める

 「僕はもともと、熱しやすく冷めやすい性格で、学生時代から何をやっても長続きしない、いわゆる“ミーハー”な性格なんです。広く浅く知識はあるけど、プロフェッショナルにはなれない。それがコンプレックスでした」

 しかしある時、中村氏は思う。「100という到達点があったとしたら、プロフェッショナルの人は100を1つだけ持っているのだけれども、自分は1を100持っているんだって。そして、それをストレスなく200にも300にもできる。トレンドに詳しいというのが、自分のブランドになると気づきました」

 そのミーハーさこそが、ブームを仕掛ける原点となっている。「基本的に、マーケティングをする、ということなんですけれども。この15年間、ひたすら情報収集してきた、と言ってもいいかもしれません。僕は立ち読みが趣味で、暇さえあれば本屋に行き、あらゆる雑誌に目を通します。また、海外にも何度も行き、流行(はや)っている店を1日で15軒くらい見てまわる、というのをここ10年ほど続けています。そうやって、最大公約数の情報の中から、本当のトレンドを絞り込むのですが、ただ情報をインプットするだけではなくて、実はそれをアウトプットする方がより重要なんです。いい情報を出し続けていると、自然といい情報が集まってくる。インプットとアウトプット、この繰り返しが大事なんです」。

アイスモンスター

 アイスモンスターのような爆発的なヒット店も、日々のそうした積み重ねなくしてはありえない。「僕らは最初から流行りものを探しているわけではなくて、いつか着火したら大爆発をするような小さな火種をたくさん探しているんです。例えば、六本木に面白いかき氷屋ができているとか、台湾が流行ってきているとか、表参道のスイーツが人気だとか、本当にささいな火種が100個くらい、僕の身の回りにあるわけです。その火種を用意しておくことで、アイスモンスターに出合った時、一瞬にしてそれらが着火して、目の前に大火事が起こる感覚がわかるのです」。

 そして、ブームを一過性で終わらせないためには、それがスタイルになる必要がある、と中村氏は説明する。「弊社のルールとして、①ブームを作る、②ブームからスタイルになるものを見つける、③スタイルにならなかったものを、時代を経て再びブームにする、というのがあります。ブームを作るためには、マラソンでいえば1位集団に入ることが重要なんです。弊社は、よく『カフェブームの立役者』と表現していただくんですが、実際は、当時駒沢にオープンしたばかりの『バワリーキッチン』というカフェを見て、『こんな店がやりたい!』と思い、伊勢丹を辞めて半年後に開業したのがはじまりなんです。その後に大きなカフェブームがきて、自分ではその波にうまく乗っただけだと思っていたけど、周りの評価を聞いて、その道で一番じゃなくても5番目くらいまでに入っていれば、ブームを作った人として評価されるんだと気づいたんです。ゼロから新しい1を生み出すのではなくて、もともとある1を10にすればいいんだ、と」。

ブームとスタイル

 「カフェブームは3年ほどで終わったと言われ、メディアの取材もぱったりなくなった。すると今度は、企業が動き出すんです。大手がカフェ業態に参入し、飲食以外の企業もこぞってカフェを出店する。するとそれはスタイルになり、大きなビジネスになるんです」。

中村流「話題の作り方」と、今後注目のキーワード

 店を作る時ときは、いかに多くのメディアに取り上げてもらうか、ということを常に念頭において戦略を練るという中村氏。「最初にやるのは、15文字くらいのキャッチフレーズを作ること。「bills」の場合は、大手PR会社サニーサイドアップのPRにより『世界一の朝食』が生まれ、その際にPRの重要性を感じ、ひとつのキーワードのよって、店のコンセプトを端的に伝え、メディア受けするつかみのフレーズを考えるんです」と中村氏。「その後に、コンテンツを50個くらい書き出して、それぞれにキャスティングをしていきます。弊社では『全社員宣伝課プロジェクト』というのを掲げていて、あらゆるメディアへの全方位型PRを行なっています」

 メディアに受ければ、成功が見える、と中村氏。「1年ほど前は、『日本初上陸』というワードが旬でした。今は、ハワイ、NY、これからはオーストラリアに注目しています。オーガニック大国という観点からもすでに世界中から注目されていますが、とくにメルボルンは、今後日本でもますます脚光を浴びると思います。日本国内の出店場所も、去年くらいまでは、表参道がよかった。2016年は、銀座。そして再来年以降は、渋谷の時代が来ます」。

 都市の発展なくして、経済の発展なし。東京を中心にビジネスを展開するトランジットにとって、東京を盛り上げることも大事だと中村氏は言う。「海外によく行く人は、国名ではなく都市で比較します。NYとアメリカ、東京と日本では、イメージが違いますよね。今、東京に必要だと思うのは、照明が真っ暗なのに食事がおいしいとか、エンタメ性のある大規模レストランや、ナイトシーンの遊び場。それからトレンドでいうと、インド料理やスペイン料理といった、日本ではニッチなジャンルに注目しています。インターナショナルフードカルチャー、と僕らは呼んでいるのですが、オリンピックまでに、それらをイタリアンやフレンチなどのようなグローバルスタンダードに引き上げたいと思っています」。

 講演の最後を、中村氏は自身の恩師であり、伊勢丹の名バイヤーとして知られる故・藤巻幸大氏のこんな言葉で締めくくった。「ビジネスは、よい縁・よい運・よいセンスが必要だ、と藤巻さんに教わりました。でも、誰しも急に大きなチャンスは巡ってこないし、最初からセンスのいい人もいない。要は、地道にコツコツということなんですけど、せっかく出会った縁をいい縁に変えるために、自分の近況を話したり、連絡をとったり。いい音楽を聴いて、センスのいいレストランに足を運んだり。そうした日々の積み重ねの努力が大切なんだと思います。それに加えて、僕らのようなベンチャー企業は、スピード感がなくてはならない。飲食はトレンドが早いので、一位集団に入るためにはスピードは不可欠なのですが、そのためには根本的に“面倒くさがらないこと”が大切なんです。面倒くさいという気持ちが出たら、今言ったようなことはすべてできなくなる。面倒くさがらずに、情熱をもって『本当にこれが好き』ということを追求していたら、ビジネスは半分成功したようなものだと僕は思います」。

(プロフィール)
株式会社トランジットジェネラルオフィス
代表取締役社長 中村 貞裕
1971年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、伊勢丹を経て2001年に「ファッション、建築、音楽、デザイン、アート、飲食をコンテンツに遊び場を創造する」をコンセプトに起業。カフェブームの立役者として、「Sign」やファッションブランドのカフェなど約70店舗を運営する。話題の場所を次々と手掛けるほか、オフィス、商業施設、鉄道などのプロデュースまで手がける空間創造総合企業として、その活躍の場を広げている。