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NIPPN New Waveセミナーレビュー ―外食・デリカ店経営者の課題を解決― 大津屋

「進化型コンビ二、大手に負けないオンリーワン戦略」
~既存店売上高増減率ランキング 全国1位の理由~

大手チェーンの経営統合や、地方コンビニチェーンの淘汰が進むコンビニ業界。その中にあって、平均客単価で全国2位、平均日販でも3位に食い込む実力を示した地域密着型のコンビニ「オレボステーション」。福井市近郊でチェーン展開する「大津屋」の人気の秘密とローカルチェーンとしての独自の戦略を、代表取締役の小川明彦氏が語る。

大津屋 代表取締役 小川 明彦氏

 福井県に、「オレボ」の通称で地元民に親しまれるローカルコンビニがある。店内調理にこだわった作りたてのお惣菜を、1g当たり1円の惣菜バイキングで選べる楽しさに加え、ファミレスと見まごうほどのイートインスペースで、ゆっくりと食事をとることもできる。大津屋は、大手コンビニには真似できないような独自路線で、繁盛店を築き上げている。  2016年の日経MJ「第37回コンビニエンスストア調査」では、既存店売上高増減率ランキングにおいて大手コンビニを抑えての1位を記録(平均客単価は2位、1店当たり平均日販は3位を獲得)。1店当たりの平均日販は60万円超を計上している。

福井県初のコンビニを開業
店内調理を売りに大繁盛

 代表取締役の小川明彦氏は、大学卒業後、実家に戻り、440年も続く家業の老舗酒販店を継いだ。その2年後の1981年、福井初のコンビニエンスストア「オレンジBOX」を開業する。「酒屋の日商が1~2万という当時、コンビニは日商30万円売れば成功と言われていました。ところが、オープン初日は100万円だった売り上げも、わずか4日目にして8万円に激減。肉も魚も野菜もない、変な店を出して、あの大津屋もやっちまったなぁと、当時は散々言われたものです」

生産計画は40~50種類

 しかしそこから35年。オレボの軌跡は、そのまま大津屋の発展の歴史といっていい。大津屋のマインドは、「自分がして欲しいこと=お客さんが喜ぶこと、をやり続ける」。オレボの心臓部ともなる店内調理も、小川氏のちょっとした気づきから誕生した。
「従業員にホットプレートを持ってこさせて、その場で焼きそばを作らせたんです。具もないただの焼きそばが、温かいというだけで300円でも飛ぶように売れていく。お客様の求めているものはこれだ、と実感しましたね。家庭と同じように、目の前でおにぎりを握って、だし巻玉子を巻く。大手が物流を整えて規模を拡大する時代に、全く逆のことをやったわけです」
 さらに、オレボの目玉商品となっている、惣菜バイキング。ご飯かパスタを150g以上、惣菜は400gまでというざっくりとしたルール。お客様には、このファジーさがいい、と小川氏は笑う。今でこそオレボの看板商品となっているが、始める前は、社内では反対の声が多く、1ヵ月くらい逡巡(しゅんじゅん)したという。

福井市近郊のみに6店舗構えるオレボステーション

 「実際に開始直後は、明らかに原価の高い惣菜だけを盛るお客様などもいましたが(笑)、お客さん困りますよ!ではなく、次からお願いしますね、とやんわりと注意すると、お客さんもわかっているから次からはしなくなる。福井の言葉で「うざうざ(だましだまし)やっていけば、いずれ形が見えてくるんだな、と。そして、成功が微妙な仕事は、社長のトップダウンでは決して成功しないということもこのときに学びました。皆で成功をつくり上げる機運をつくり上げることが、真の成功を導く要因だと思います」
 ちなみにこのバイキング、食材と調理法は約700種あり、そのすべての重量と原価の関係を計算していると小川氏は説明する。「たとえば、サケの切り身は焼くと水分が飛んで軽くなりますし、逆に里芋の煮物のような料理では重くなります。卵焼きはどのくらいの大きさにすればつい選んでしまうか。串揚げはどちらに串を向けたら取りやすいかなどにまでこだわりがあるんですよ」。
加えて、店別、月別の単品料理の粗利率も時系列で管理しており、店長・主任クラスには、データベースを使った統計ソフトでの管理を指導している。「かなり高度なソフトでの分析を義務化していますが、弊社のように10店舗ちょっとなら、できる人が20人もいればまわるんです。これを1万店規模でやろうとしたら、まず教育できる人がいないでしょう。こうした仕事を本部ではなく現場の人間にやらせることで、現場での細かな意思決定が円滑になるんです」。

現場力のある人材を育成し、
成長の源に

 現在、福井県内に業態の異なる12店舗を展開する大津屋。小川氏のもとには全国から出店のラブコールが止まないが、現在は展開の予定はないという。  「オレボを東京でやったら?という要望もいただくのですが、確かに店舗は作れると思います。現在は日商60万円の売り上げも、例えば200万円だって売れると思う。だから売れすぎて、逆につくれないんです。オレボは、よくて日商70~80万円くらいの都市でないとできない。今日来て明日は来ないようなお客様が大勢いるような街ではなく、田舎でないとダメなんです」。

色のコントラストが目を引く。従業員個人のセンスが光る盛り付けの例

 例えば惣菜の並べ方ひとつとっても、マニュアル化できない部分が非常に多く、社員一人一人の力量が重要だと小川氏。そこで近年、人材育成にはとくに力を入れているといい、例に挙げたのが、年4~5回行っているケースメソッドの教育方法だ。「現実の経営事例を題材にして、自分だったらどうするか、30人くらいで真剣に議論し合うことで、思考のプロセスを鍛えるんです。経営の知識は、勉強すればいい。どんな企業も毎日打ち合わせを行っていると思いますが、そこで自分の意見をどれだけ言えているでしょう。よくて70~80%というところではないでしょうか。弊社の社員は、たぶん全員100%を超えていると思いますよ。立場に関係なく、遠慮なくものが言えるムード作りも、私が大事にしていることの一つです」。
 出店の予定はないが、福井県外のお客にもオレボの味を楽しんでもらいたいと、この10月より惣菜の宅配サービスをスタートさせた。離島や山奥など、思わぬところからの反応もあり、反響は大きいという。
 「成功を導くためには、アイデアと実行力、そして働く人間の緻密な工夫が必要です。執念・やる気とも表現できるかもしれません。さらに、しっかりとした統計学の知識、意見のいいやすいムードづくり。それらをいかに継続して取り組み、それがお客さんの喜びにつながっているか。アイデアだけでは、決して成功はつかめません。これまで苦い経験もたくさんして、社員が数名の頃から地道にやってきたから、今があるのだと思います」。

(プロフィール)
株式会社大津屋 代表取締役 小川 明彦
1956年福井市生まれ。慶應義塾大学商学部 卒業後「大津屋」入社。1981年、福井県では先駆けとなるコンビニエンスストア「オレンジBOX」を開店。1990 年、大津屋 代表取締役社長就任。1995 年、コンビニの店内に本格的な店内調理を導入。コンビニと弁当惣菜店の複合業態オレボステーションなど10 店舗を地域密着型で経営。小売販売士1 級、福井県麻雀選手権で優勝。