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NIPPN New Waveセミナーレビュー ―外食・デリカ店経営者の課題を解決― ワンダーテーブル

ニッチ市場でトップになる!
ワンダーテーブルのブランディングと海外戦略

国内55 店舗、海外55 店舗の飲食店を展開。しゃぶしゃぶ食べ放題「鍋ぞう」などの自社ブランドを国内外で展開する一方、「バルバッコア」、「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」などの海外ブランドを誘致し、予約の取れない人気店に育て展開している㈱ワンダーテーブル。インバウンドとアウトバウンドの両面を推し進め、増加の一途をたどる外国人来訪者への対応もいち早く徹底。ホスピタリティ企業としての評価も高く、アジアを代表するグローバルな外食企業へと躍進するワンダーテーブルのブランド戦略と海外戦略を、代表取締役社長・秋元巳智雄氏に語っていただいた。

ワンダーテーブル 代表取締役社長
秋元 巳智雄氏

 「オーナーでも創業者でもない、外食業界では珍しいタイプの社長だと思います」と自身を語る秋元氏は、28歳で現在の会社(旧・富士汽船㈱)に入社。経営をスリム化する巧みな経営手腕で、リーマンショック後も見事V字回復を達成。古い体質の企業を、売上120億で8億の利益を出す優良企業に立て直してきた人物だ。

 現在、ワンダーテーブルの主な業態は、しゃぶしゃぶ・すき焼き専門店「鍋ぞう」、クラフトビール専門店「YONA YONA BEER WORKS」といったオリジナル業態と、ブラジルのシュラスコ料理専門店「バルバッコア」、アメリカンローストビーフ専門店「ロウリーズ・ザ・プライムリブ」といった海外ブランドのライセンス展開との2本柱。100坪を超えるような大箱で、しかも重飲食業態という、時代を遡るような特徴ある店づくりをしている。

 その事業戦略は、大別して(1)プロダクトアウト、(2)マーケットイン、の2つを基軸としている。「(1)は、既存のブランドを展開し、ブランド力を高めていくこと。(2)は、立地に合わせてターゲットや競合を分析し、勝てるブランドを開発すること。いい場所の場合は、先に物件を押さえてから考えることもあります。もちろん、事業の中心になるのは①ですが、人を育て、会社のノウハウを蓄積するためには②が大切なんです」。

成長を推し進める、
インバウンド&アウトバンド戦略

 そして、ワンダーテーブルの成長を飛躍的に高めているのが、昨今飲食業界でも話題となっている海外戦略だ。2015年の日本への海外旅行客は1900万人。今年はすでに2000万人を超えており、当初の見通しよりもかなり前倒しで増加していると秋元氏は言う。

トリップアドバイザーのサインが店頭に(川崎「鍋ぞう」)

 「海外戦略には、インバウンドと、アウトバンドの2つの面があります。インバウンドにはさらに2つの意味があって、1つは海外の強いコンセプトを日本に誘致すること。これには、バルバッコアやロウリーズに加え、フランスのトリュフ料理専門店「テールドトリュフ」、ローマのモッツァレラチーズ料理専門店「オービカ モッツァレラバー」などが挙げられます。そしてもう1つは、海外旅行客を弊社の店舗に誘致すること。弊社の店舗は、家賃の高い一等地で、100坪以上という大規模な店が多いので、不景気になるとお客様が一気に来なくなる。インバウンド対策を始めた10年ほど前は、それこそ宇宙人でも来てほしいくらいの気持ちでした」。
 当時、香港や台湾のお客が多いことに気づいた秋元氏は、旅行代理店やガイドと提携し、自社の店舗へ来店してもらうようにした。トリップアドバイザーのような外国人観光客向けのポータルサイトも整備し、8店舗でエクセレンス認証を獲得。さらに店舗レベルでは、外国語ハンドブックを作成し、来店の際にはその国の言葉で挨拶をかけるといった心配りを指導するほか、ipadを活用した外国語メニュー、トイレや出入り口などの外国語表記など、ソフト、ハードの両面でインバウンド対応を行っている。「現在は、ビザの緩和で中国、タイのお客様が増えていますね。提携先も300軒を超え、2015年度の実績では、約27万人に弊社の店舗を利用いただきました」。

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 一方のアウトバンド戦略は、昨今、多くの飲食関係者の関心の的となっているものの、秋元氏のように大成功を収めている例はまだまだ少ないのが現状だ。
 「今、海外に日本食のお店って、どれくらいあると思います?数年前は5万軒ほどだったのが、現在は8万5千~6千軒あると言われています。でも、そのうち日本人が関わっているのは1割強しかなくて、ほとんどは中国人がやっている。日本人は素晴らしいノウハウを持っているのに、さほどハングリー精神に富んではいないから海外に行く人がまだまだ少ない。でも、日本の人口が今後減っていくことを考えると、企業の成長のためには海外に出るしかない。2020年に向けて、日本の外食の国際化がますます重要になっていると思います。

 現在、30店舗以上を展開する台湾を筆頭に、上海、バンコク、ベトナムなどアジア圏を中心にアウトバンドを進めている秋元氏。「海外でも、競合はごまんといます。言葉も食文化も違う国で成功をつかむには、日本人のスタンダードを徹底的にマニュアル化し、本物を伝える努力が大事なんです。たとえば、進出先のショッピングセンターに行くと、受付嬢がスマホをいじっている光景に出くわすこともけっして珍しくはない(笑)。日本では誰もしないことでも、文化が違うから「仕事中はスマホをいじらない」とマニュアルに書かなくてはならないんです。「これをやっていい」という日本式の表現は現地では通用しないので、すべて「この通りにやりなさい」というマニュアルに作り変えるんです」。

本物を追求し、
ニッチ市場のトップになる

 「トレンドを追いかけるのは、得意ではないんです」と秋元氏は言う。「それよりも、うちらしいブランドを作って、それをしっかりと育てていく。最初はしんどくても、それをやり続けることで、何年後かにブームが来る。ロウリーズも、最初の3年間は大赤字でした。損益分岐点が高いから、月商4000万円売っても1000万円の赤字という、キャッシュフローがひどい状態でした。それが今は、1店舗で年商10億円を売る繁盛店に成長しました。利益だけでも1億円以上ありますから、この1店舗で中小企業みたいなものです」

特定のニーズにマッチしたマーケティングを展開。ニッチ市場を狙う

 こうした独自の事業戦略を、秋元氏は「ニッチ市場のトップになる」と表現する。「例えば池袋で居酒屋をやるとしたら、競合が500店はあるでしょうね。そういう店は、僕らがわざわざやらなくてもいい。高い専門性をもち、クオリティの高い商品とサービスを提供し、そこでしかできないユニークな体験をしていただく店を長く続けたいんです。例えば、弊社は20年間イタリアン業態をやってきましたが、イタリアンは競合が激しく、差別化が難しいのでなかなか勝てないこともわかりました。そこで「オービカ モッツァレラバー」です。イタリアン市場では戦わず、モッツァレラチーズ料理専門店という新しい市場を作る方向にシフトしたんです」。

 バルバッコアの場合も同様だ。「シュラスコのブーム、というのがここ20年ほどの間で3回くらいは来ています。でも、今も生き残っているのは10社くらいしかない。そのうち、さらに100坪以上となると、弊社ともう1社しかありません。さらに、シュラスコ専門店の客単価は3000~5000円のところが多いですが、弊社は6000~8000円と決して安くはありません。価格競争をせず、世界レベルの本物のクオリティをしっかりと出して、まじめにお客様を増やしていく。そうすると、メディアの露出がなくても、いつも満席で流行っている店になるんです」。

(プロフィール)

株式会社ワンダーテーブル 代表取締役社長 秋元 巳智雄
1969年生まれ、ワンダーテーブル代表取締役社長。大学時代、飲食店でのアルバイトでマネージャーを経験。その後、(株)ミュープランニング&オペレーターズに入社、数多くの飲食店を手掛け、頭角を現す。1997 年、富士汽船㈱に転職し、前社長の林と共に事業の革新を推進。2000 年、社名をワンダーテーブルに変更。2012年より現職。現在、国内に55店舗、海外に55店舗。現在ロウリーズ・ザ・プライムリブ、バルバッコア、YONA YONA BEER WORKSは、週末は約2カ月先まで予約で埋まっているほどの人気店。