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AWS  ケーススタディ

セキュリティーや可用性に対して厳しい要件を求める金融機関でも、オンプレミス(社内運用)のシステムをアマゾン ウェブ サービス(AWS)に移行する動きが加速している。最新のデジタルテクノロジーを武器に市場を席巻しているフィンテック企業はもちろんのこと、伝統的な金融機関でも業務系システムをAWS上に構築し始めているのだ。ここでは、米国と日本における金融機関の取り組みを紹介する。

 世界最大級の新興企業向け株式市場を運営する米ナスダック。同社が2014年、米国株式とオプション取引の分析のために利用するデータ・ウエアハウス(DWH)をAWS上に構築した。これまでオンプレミスで稼働していたシステムをAWSのDWHサービス「Amazon Redshift」を活用して移行した。同社は毎日、このシステムで約50億行のデータを処理している。従来のシステムに比べて、TCO(総所有コスト)を約65%削減できたという。

米国の規制当局もAWSを導入

 現在、米国ではTCOを削減することと、最新テクノロジーに基づいたサービスを利用することを目的に、金融機関が続々とオンプレミスからAWSへとシステムを移行し始めている。

 米国の大手銀行として、クレジットカードとオンラインバンキングのサービスを展開する米キャピタルワンも、AWSを積極的に活用している1社。顧客の特性に合わせ、パソコンやスマートフォンを通じた日常的な消費活動に関する柔軟なサービス提供や提案などを実現している。同社は、障害が許されないミッションクリティカルなシステムもAWS上で稼働させていく計画だ。

 公的な役割を担う組織がAWSを導入するケースも少なくない。例えば、米国の全ての証券会社が加盟する規制機構であるFINRA(Financial Industry Regulatory Authority)では、自社のシステムのうち約75%をAWS上で稼働させている。ビッグデータ分析基盤である「Amazon Elastic MapReduce (Amazon EMR)」を利用したシステムでは毎日、約350億行のデータを処理し、取引活動の監視を行っている。AWSの導入によって、TCOが従来比40%減になった。AWSによると、同社のクラウドサービスを導入した米国金融機関では、TCOを平均で45%削減できているという。

FISCの安全対策基準に対応

 2015年以降、日本でもAWS上にシステムを構築する金融機関が増加している。この背景には、金融情報システムの安全性確保のための施策を推進している公益財団法人金融情報システムセンター(FISC)が、クラウドを利用する際のガイドを設けたことがある。

 FISCは2015年6月に「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準・解説書」を改訂し、「クラウド利用」と「サイバー攻撃対応」に関するガイドを新たに設定した。この基準は通称「FISC安全対策基準」と呼ばれ、日本の金融機関がシステムを構築する際の指針として広く利用されている。

 FISC安全対策基準の最新版は、設備に関する138の項目、運用に関する114の項目、技術に関する54の項目で構成。AWSの利用者での対応も必要となるが、SCSKやシーエーシー、TISなど約10社のパートナーがAWSの対応状況に加えて、AWS利用者の対応をまとめたリファレンスを提示している。これは、AWSが金融機関での利用に耐え得るシステム基盤であることを意味している。

日常業務を支えるシステムを移行

 FISC安全対策基準が公表される以前から、業務系システムをAWSへ移行している金融機関もある。ネット銀行のソニー銀行だ。

 同社は、ITコストの最適化とビジネスのニーズに応えるための俊敏性の向上という2つの課題を解決するためにオンプレミスからクラウドへの移行を決断。2013年にAWS導入における方針を決定し、オンプレミスで稼働していたシステムをAWSへ移行している。同社では、5年間で約37%のコスト削減メリットがあると見ている。

 ジャパンネット銀行も、2016年にOAシステムをAWSへ全面移行した。このシステムは、メールサーバーやファイルサーバー、認証サーバーなどで構成。いずれも社員の日常業務に欠かせないもので、システムの停止は業務の停滞に直結する。

 AWS上には、本番系システムと、本番系に障害が発生した場合に処理を引き継ぐ待機系システムを構築。待機系は通常時に非稼働として、運用コストを削減している。オンプレミスのシステムに比べて、5年間で2割以上のコストが削減できると見ている。

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フィンテックでは当たり前の存在

 フィンテック企業をはじめとして、新たな金融サービスを提供するベンチャー企業やスタートアップ企業では、AWSを利用することは当たり前といっても過言ではない状況だ。

 クォンツ・リサーチは、日本の大手証券会社向けに、証券取引所の株価データをリアルタイムで配信する時価情報サービスのプラットフォームをAWS上に構築した。配信先である証券会社のシステムと直結されるため、セキュリティーとコンプライアンスの両面で厳しいシステム要件が求められた。さらに、システムの停止は許されないので、高い可用性も必要となる。

 このプラットフォームは、AWS上に同じ構成のシステムを2台稼働させる構成である。どちらかに障害が発生しても、処理を継続することが可能になっている。AWSの「Auto Scaling」というサービスを利用して、運用コストを削減する仕組みも取り入れている。Auto Scalingは、性能に応じてシステム基盤の数を自動的に調整する機能で、高い性能が求められる取引時間帯(午前9時~午後3時)とそれ以外の時間帯でシステム基盤の数を変更している。

 2015年創業のウェルスナビは、AWS上で投資家の資産を運用するサービスを提供している。ポートフォリオの管理や発注を自動化するシステムをAWS上に構築した。同社は、会社設立からわずか9カ月でサービスの提供を開始している。CEO(最高経営責任者)を務める柴山和久氏は「最初からクラウドだと思っていました。中でも、コスト面、安全性を考慮すれば、きっとAWSにお願いすることになるだろうと思っていました」と語る。


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