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「リクルートのネット事業」が目指すもの

2012年に分社化したリクルート。グループの一角を占めるリクルートライフスタイルは『じゃらん』『ホットペッパーグルメ』といったサービスを抱え、グループ内でも特に消費者との接点が多い会社といえるだろう。近年はこれら“おなじみ”のサービスに加え、『Airレジ』(無料で使えるPOSレジアプリ)、『Seem』(精子セルフチェックアプリ)のような新基軸のサービスを立ち上げ、注目を集めている。そんな新サービスを企画し世に送り出しているのが、執行役員の牛田圭一氏率いるネットビジネス本部だ。
同本部は、常にイノベーティブであり続けるリクルートグループを体現する組織だと言えるだろう。そんなリクルートライフスタイルのネットビジネス本部の、「イノベーションを起こす働き方」の源に、これから2部構成で迫る。まずは、牛田氏にネットビジネス本部の戦略と、今後の展開について聞いた。



□CONTENTS□
■PART1■
世の中を、ちょっとずつ良くする。それが、僕達のミッション。

〜執行役員ネットビジネス本部長・牛田圭一氏インタビュー〜
■PART2■
「やりたきゃやりなよ」と言われるのが、ムカつきます(笑)。

〜牛田圭一氏 × ネットビジネス本部 気鋭の若手3人〜


――まずは牛田さんがリクルートに入社された経緯をお聞かせください。
牛田 僕は2007年に、中途採用で入社しました。新卒で入ったのは冷凍食品メーカーで、エビの生産管理と輸入を主に担当していたんです。

株式会社リクルートライフスタイル
旅行の予約情報などを扱う『じゃらん』、グルメ情報を扱う『ホットペッパー グルメ』、美容情報を扱う『ホットペッパー ビューティー』といった有力メディアを多く抱える、リクルートグループの中核事業会社の1つ。日常消費領域において、カスタマーの行動支援とクライアントの業務支援、決済サービスを提供している。

――食品メーカーからリクルート。唐突な感じがしますね。
牛田 エビの養殖ってそもそも、ものすごく利益率が低いんですよ。そのくせ、自然条件や為替レートに大きく左右される。そのせいで当時、真面目な取引先が何社も倒産していったのを目の当たりにしたんです。その時にやりきれなさとか、世の中の不条理さを感じたのが転職を考えたきっかけになりました。

――「利益率が高いビジネスモデルを勉強して、働く人の悲劇をなるべく減らしたい」と考えた。
牛田 そんなところです。

――リクルートでのご経歴は?
牛田 最初の数年、『じゃらん』で営業や事業企画を担当して、その後はずっとネット担当です。ウェブの集客を振り出しに、プロデューサーを約3年。その後、EC事業を担当して、ネットビジネス本部に戻ってきました。

新規事業は世の中の「課題」を解決するためのもの

――ネットビジネス本部での牛田さんの役割は?
牛田 簡単に言うとネットビジネス本部には、ウェブサイトを企画する部隊と実際に制作する部隊があります。僕はそれを統括する役回りですが、1500人という大所帯を1人で指揮命令するのはムリ(笑)。だから一人ひとりが自分で考えて、行動できる環境を用意するのが役回りだと思っています。

――そのための具体的な施策とは?
牛田 例えば僕はメンバーに自分で「やりたい仕事」を作ってほしいと思っています。そのために、新規事業のアイデアを募る公式行事として「イノベーションコンテスト」を定期的に開催する一方で、定期的に新規事業開発のミーティングを開いています。誰でも気軽に参加できて、いい案ならそのまま予算を与えて取り組んでもらう。

――『Seem』も、そんな中から生まれたのでしょうか。
牛田 『Seem』は、僕が来た時には既に立ち上がっていました。前職で女性向けの生理日管理アプリを開発していたメンバーが、「今度は男版をやりたい」と言って始めたんです。スマートフォンのレンズにプレパラートを載せて、そこに精液を一滴つける。それをアプリで解析すると、精子の濃度や運動率が測れます。女性が生理の周期や基礎体温を記録するのと同じように、男性にも、精子の運動率や濃度が体調や環境によって変化することを知ってほしいという思いで開発しました。

――「不妊対策への男性サイドからのアプローチ」ですね。
牛田 子供をつくるという行為の半分は「男の問題」。男性がこの問題に意識的になれば、長期的には出生率を上げることにもつながるんじゃないか、という考えです。

――新規事業は世の中の課題を解決するためにある、と。
牛田 だから課題設定が重要なんです。アイデアを本質的な課題にひも付けられれば、どんどん発想が広がる。例えば今、日本が抱えている大きな課題に、労働生産人口の減少による国力の低下があります。対策は大きく2つあって、まず中長期的なものとしては、労働人口や子供の数を増やすことがありますよね。ただしこれには数十年かかる。もう1つはその間の“つなぎ”としての策。現状の労働人口でGDPを上げるために、生産性を向上させることが必要ですよね。策の1つとして、中小企業のIT化は有効です―というように考えは拡がります。こう考えると、僕らが手がけている『Seem』や『Airレジ』も課題解決の“ツール”として位置づけられる。

「我欲」に縛られない仕事が、世の中に「ちょっといいこと」を起こす

――それがネットビジネス本部のミッション。
牛田 僕はいつも、優秀な人が自分のためだけに仕事をするのはもったいないと思っていて、世の中のどんな課題を解決をしたいのか、ということを考える人になってほしいと思っています。リクルートみたいに規模が大きくて、資金や人材といったリソースが豊富な会社は世の中への影響力も大きい。世界を、社会を良くしていくためにサービス展開ができる力を持った人たちがちゃんと仕事したら、ちょっとだけ、いいことが起きるんじゃないかなと…。そう、勝手に思っているだけなんですけどね(笑)。

――そうした思いを一緒に働いている若い人たちに、どんな形で伝えていこうと思っていますか?
牛田 特に何も…。それは押しつけがましいと思うので(笑)。僕が考えているだけのことであって、相手も同じように思うかどうかは分からない。ただ、「何かやりたい」と思った時のハードルは低い会社だということは知ってほしい。チャレンジしたい人にとっては、すごくいい会社です。資金調達は銀行やVCより手続きが楽だし、大きな額を調達できる。優秀な仲間も揃っている。そして社員の平均年齢が若いから、頭の固い人たちに悩まされることも少ない(笑)。

牛田圭一(うしだ・けいいち)
2007年リクルート入社。『じゃらん』の営業、事業企画を担当した後、2009年からウェブ事業を担当。リクルート分社後、関連会社数社の取締役を歴任し、2016年4月よりネットビジネス本部長。(写真:稲垣純也)

――年齢の話が出ましたが、リクルートグループには「若くして独立する人が多い」というイメージがあります。半面、「中途入社する」というイメージもない。
牛田 僕はそれこそ中途入社ですけど、「君、新卒?」みたいなことを聞かれたことは全くありません。それどころか、正社員や契約社員といった「属性」の話も出ない。大企業の中では、とても入っていきやすい会社だと思いますよ。そして辞めたあとでも、何か困ったら気軽に助け合えるような連帯感もある。その代わり、入社のハードルは高いと思います。実務能力はもちろんですが、基本的に1人で完結する仕事がないので、高いコミュニケーション能力が求められる。

――入社後も、社内教育制度が充実しているのですか。
牛田 自主的に学ぶための材料は揃っています。ただ、学ぶかどうかは個人の問題です。そういう意味では、受け身の人には厳しい会社です。

――だからこそ、志や問題意識が必要なんですね。牛田さんご自身が今後、取り組みたいことは何ですか?
牛田 僕は水産業のような「1次産業」とIT産業を両方経験したことで、様々な立場の人達の「思い」や「悩み」に触れてきたと思っています。それで今、「勝手な責任感や義務感」を持っているんです。この20年、日本だけGDPが上がっていません。この問題に対して、『Airレジ』で店舗の生産性を高めることもそのひとつですが、僕らが持っているリソースで何かしら貢献できるはずだということを、いつも考えています。日本は「課題先進国」なので、ここで確立された手法は世界でも通用するはずです。そして課題の中にはITで解決できるものも多い。「ソフトウエアで世界を変えていくんだ」みたいな試みって、今のところはまだ、日本の大手の企業はなかなかできていません。だから僕らがやるしかないし、やるべきなんだろうなと思っています。


 現場の社員たちは日頃、仕事に対して、会社に対して、そして上司に対してどんなことを考えて働いているのか。それは牛田さんと現場リーダーの座談会(ここをクリック)でお伝えします。