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ネスレ日本、新時代に向けたAI戦略とは

ビジネス価値を考えてAIの活用領域を決定

 同社がAI導入を検討し始めた2014年ごろ、野崎氏はIBM Watson(以下、Watson)が商用化されたというニュースを耳にする。「当時それほど多くのAIが市場に出ていなかった中、アメリカでWatsonが商用化されたと聞いてIBM社に詳しい話を聞きました。ただ、すでにあるソリューションを導入するのとは違い、全く新しいものなので、どんな業務に合うのか、どうすれば当社の強みが生かせるのか、Watsonを研究しながら長い期間をかけて討議してきました」(野崎氏)。

 多くのテーマを俎上に載せてAI活用を検討する中で、実際のビジネスに使用でき、課題解決に役立ち、最初からビジネスに価値をもたらすことができると思われたのが、自然言語に対応できるWatsonのNatural Language Classifier(自然言語分類)のチャットへの活用だった。

 チャットを選択した背景には、すでに2013年から人手(従業員)によるチャットでの消費者対応を実施しており、過去の対話データが蓄積されていたことが挙げられる。ただし、消費者はあらゆる表現で質問してくるため、AIを活用するには質問表現のバリエーションが足りないと考えた同社では、選抜したコミュニケーターの力を借りてさまざまな質問パターンを追加した。

 同社のWatson導入プロジェクトは4段階で進められたが(図1)、特徴的なのは第2段階で周辺システムも含めたIT・業務設計をしていることだ。野崎氏は「一問一答のやり取りをすることがゴールではありません。周辺システムとの連動を最初の段階からスコープに入れていました。安価なAIツールではなくWatsonを導入し、IBMをパートナーに選んだ理由はそこにあります」とプロジェクトの狙いを語る。

 同社にとってAIの活用は、業務プロセスまでを含んだ、長期的な視野を持った取り組みであり、IBMにはそのパートナーとしての役割が期待されていた。

(図1) AIコミュニケーション導入へのプロセス
(図1) AIコミュニケーション導入へのプロセス

段階的に進化させてAIを業務の推進役に

 実際に同社では、システムを段階的に高度化させてきた。1年半の準備を経て、運用を開始したのは2016年11月。Web上での一問一答形式のチャットシステムとして始まった。翌月にはLINEの公式アカウントと接続してマルチチャネル化を実現。2017年6月にはLINE上で、定期的にコーヒーなど商品を届ける定期便サービスの変更の受け付けも開始した(図2)。

(図2)システムを段階的に高度化
(図2)システムを段階的に高度化

 「直販のメインのサービスは毎月コーヒーをお届けすることです。このたび、届ける商品や頻度の変更をチャットで受け付けられるようにしました。受け付け結果は顧客データベースや通販システムにも反映されるので、請求情報も変更されます。チャットでそこまで対応することで、ビジネスへのインパクトも大きくなります」(野崎氏)。

 2017年8月末時点で、Watsonにより応対したチャットの累計利用件数は約15万セッション(会話)。全コンタクト件数の15%を占める。「コンタクト1件あたりのコストは約40%削減されました。利用者数は増加傾向にあり、さらなるコスト削減が期待できます。」と野崎氏は語る。

野崎 善教 氏

 しかし、コストを下げることが本来の目的ではない。野崎氏は「蓄積したお客様データとの連携によりお客様ごとに会話をつくり出すパーソナライズ化と、電話での会話を好むお客様に向けて音声での対話を実現することにより、コミュニケーションの質を向上させ、コンタクトの量を拡大していきます。また、どのチャネルからお客様がコンタクトしても同じWatsonの学習データから返答することで、コミュニケーションの一貫性を高め、ブランド構築に寄与します」と語る。

 野崎氏は、マーケティングにおけるAI活用を「“コミュニケーション産業”という新しい時代の幕開け」と位置付ける。そこではAIにさまざまなデータやシステムが統合され、ビジネスのあり方自体が変わっていく。「ブームとしてではなく、5年後10年後のビジネスを見据えてAIを活用したい」という野崎氏の言葉からは、AIがビジネスを変えるという確信が伝わってきた。

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