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AI活用で新卒採用業務を75%削減

業務を熟知したユーザー部門の発想がAI活用の扉を開く

 NLCとの出会いの背景にあったのは、同社とWatsonとの密接な関係だ。WatsonでAIビジネスを展開するソフトバンクは、社内のAI部門の協力が得やすく、Watsonを自由に使うことができる。それだけ身近なAIであったことは間違いない。

 しかし、コトはそう簡単には進まなかった。Watsonを活用するには、教師データを学習させて分類器というAIモデルをつくり、実際のデータで整合性を検証しなければならない。安藤氏は元々ITエンジニアとしての知識があったわけではないが、AI部門にWatsonとやり取りするためのツールをつくってもらい、ひたすら試行錯誤を続けた。

 「過去のエントリーシートを全部学習させて分類器をつくり、出てきた結果と実際の判定を比較することを繰り返しました。結果の差の原因を突き止めるのが大変でしたが、学生時代に研究室で実験をしていた経験があるので苦にはなりませんでした」と安藤氏は語る。

 プロジェクトを始めてから2カ月が経った2017年3月には、実用レベルの分類器が完成する。100%正しい結果が得られるわけではないという点が課題だったが、Watsonが不合格と判定したエントリーシートを人がチェックするという業務担当者ならではの逆転の発想でクリア。5月から運用を開始した。

 「AIを取り入れたことで、作業時間を従来の4分の1に削減できました。年間ベースに換算すると、680時間を170時間に短縮できることになります」と安藤氏は成果を語る。

導入効果

 同社のAI事業推進部の三上美紀氏は「NLCを新卒採用のエントリーシート選考に利用するという、より業務に特化した使い方についての発想がAI部門にはありませんでした。ユーザー部門だからこそ出てきた発想であり、業務を熟知した担当者が自ら試行錯誤して、暗黙知をAIという形式知にできたことが大きなブレークスルーにつながりました。ユーザー部門がAIの扉を広げていく、ということを実感しています」と評価する。

使ってみることでAIの本質が見えてくる

三上 美紀 氏
ソフトバンク株式会社
法人事業戦略本部
戦略事業統括部
AI事業推進部 企画課
三上 美紀

 今回のAIプロジェクトの成功は、WatsonというAIに強い同社だからこそ、という見方もできるが、本質は別のところにある。AIという新しい技術に向き合う姿勢だ。iPhoneを日本に持ち込んだように、失敗を恐れず、新しい技術に果敢に挑戦してビジネスを広げるのは同社の得意とするところだが、その社風がAIの分野でも生かされている。

 現在同社では、このプロジェクト以外にもネットワーク保守や見積書の作成などにAIが活用されている。全社で動いているAIプロジェクトの数は40を超える。当然、そのすべてがうまくいっているわけではない。しかし、大事なことは挑戦することだ。

 「AIは新しい技術ですから、ROI(費用対効果)だけにこだわっていては踏み出せません。当社ではボトムアップでAI活用を推進する文化をつくっていこうという機運が高まっており、それが成果につながっています」と三上氏は語る。

 AIの振る舞いは人間に近い。ふわっとした感覚で望めば、ふわっとした結果を返してくる。安藤氏は「Watsonくん」と呼びかけながらプロジェクトに取り組んでいたという。AIとの会話を楽しむくらいの気持ちがAIプロジェクトを成功させるのだろう。まさに“習うより慣れろ”である。

 今回のプロジェクトの今後について三上氏は「商品化も検討しています」と話す。データを学習させるテクニックは、採用方針にも左右されるため企業ごとに異なるが、そうしたナレッジも含めて提供していくという。

 ここにも、まず自ら使ってみて、成果を上げたものを他社にも提供していくという同社の“勝ちパターン”が垣間見える。AIという成果が予測できない世界に向き合うには、同社のアプローチに学ぶところは多い。

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