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誰もがAIの恩恵を受けられる世界を目指す

ビジネスにおけるAI活用が大きな話題となる中で、企業や病院、大学などでIBM Watsonの導入が進んでいます。自ら学習して進化するWatsonの活用が、どのように広がりつつあるのか。また、他のAIとどこが違うのか。日本市場のAIビジネスの現状、Watsonの最新動向、日本IBMとしての今後の取り組みなども含めて、わかりやすく解説します。

すでに200社の日本企業がIBM Watsonを導入

 昨年は日本におけるAIの市場が本格的に立ち上がった年でした。たった1年間で、約200社のWatsonの先駆け企業にWatsonが導入されました。メガバンク各社をはじめ、損害保険、流通、建設、製造など、幅広い業界の非常に影響力の大きな企業においてWatsonをご採用いただきました。

日本IBM
執行役員 Watson事業部長
吉崎 敏文

 日本市場の特徴は、こうした先駆者の大企業が率先してAIの活用に取り組んでいることです。短期間に市場が立ち上がったという点では海外も同じですが、海外の場合は比較的小規模なスタートアップ企業が多く、日本では大企業が率先して市場をつくってきました。今後は中小企業やスタートアップ企業にも導入が広がっていくでしょう。

 活用領域も広がっています。日本でのWatsonの活用は、メガバンクや大手生保の顧客対応業務の領域から始まりました。コールセンターなど顧客接点の場面でWatsonを利用することにより、応答時間を短縮したり、対応レベルを向上させるのが目的です。それが昨年の夏ごろからは、もっと踏み込んで業務プロセスや製品にAIを組み込もうという取り組みが増えてきました。たとえば、大手生保の保険の支払審査プロセスにWatsonを活用し、新人でもベテランと同じような審査ができるようにしたり、人材マッチングのサービスにWatsonを組み込み、より的確なマッチングを実現したりする取り組みが進められています。 

 こうした取り組みからもわかるように、Watsonは一般的なAIとは若干アプローチが異なります。AIが人間の代わりをするのではなく、人間をAIが支援するというアプローチです。IBMでは、AIという言葉の定義自体も一般的なAIとは一線を画しています。通常のAIはArtificial Intelligenceであり、人間の脳を模倣する「人工知能」ですが、WatsonはAugmented Intelligence。つまり、人間の能力を拡張する「拡張知能」です。

どんなデータを用意するかでAIの質が決まる

 AIを活用するうえで大事なポイントは、適材適所を考えることです。AIのスィートスポットがわかっているかどうかが大きな差につながります。昨年はAIがブーム的にもてはやされた面もあり、AIが万能であるかのような誤解を抱いた方も多かったのではないでしょうか。

 しかし、AIは万能ではありません。たとえば「匠の技をAIで代行したい」というご要望をいただいても、属人化されたデータのままでは実現できません。まず匠の技をデータによって可視化する必要があるからです。Watsonはこのデータを学習することで、AIとしての機能を発揮します。

 少し具体的にご説明しますと、Watsonは4層のアーキテクチャー(クラウド、データ、AI、そしてアプリケーション)を持っています(図1)。ここでいうAIとは、Watsonがクラウドで提供するAPI(Application Programming Interface)を指します。Watsonでは、人間との対話を実現する機能や、画像を認識する機能などをAPIで提供しており、APIを利用することでアプリケーションにAIを実装することができます。提供されているAPI自体は常に進化し続けていますが、肝心なのはどんなデータを揃えるかなのです。データによってAIとしてのクオリティが左右されます。そのために大事なのが「誰にどんなデータを提供するのか」というゴールの設定です。それが決まらないと用意すべきデータが見えてきません。匠の技の問題も同じです。

 IBMではWatsonをより簡単に活用していただくために、アプリケーション層の提供にも取り組んでいます。つい先ごろ発表した「Watson Company Profiler」もその1つです。

 このアプリケーションは、世界200カ国、2億7000万件を超える巨大な企業データベースと、SNSや経済ニュースなどを取り込んだグローバルなデータベースを使って、特定の企業についての信頼できる分析結果を提示してM&Aなどを支援します。よくある検索と異なるのは、単に回答を表示するだけでなく、根拠も提示し、意思決定を促す点です。

 また、昨年IBMの製品ラインナップに加わった「The Weather Company」のアプリケーションは、気象データをビジネスで活用できるようにするものです。すでに、航空業界やエネルギー業界、損保、流通業界などで使われていますが、今年3月から日本でのサービスも開始されました。

図1

誰もがAIの恩恵を受けられる世界を目指す

 IBM Watsonの価値は、専門家の知見と業界の知識を学習できることです。学習し続けることで進化し続けます。人間の能力を拡張するAIなのです。しかし、良質のデータを用意して学習させることはそれなりに時間も労力もかかります。そこでIBMでは“学習済みWatson”を用意しました。

 この学習済みWatsonは、特定の業界に特化した業務でWatsonを活用するための「知識ベース」を備えています(図2)。すでにWatsonを活用した実績のある企業や専門性の高いデータを持っている企業などと提携することで、80の学習済みWatsonを用意しています。新しくWatsonの導入を検討されている方は、これまで以上に短期間でWatsonを活用することができます。

 IBM Watsonが目指しているのは、専門家の知見や知識を活用してよりよい世界をつくることです。そこで使われる知見や知識はあくまでもお客様のものです。そのためにWatsonからの提案は裏付けとともに提示され、その検討プロセスもブラックボックスにはしません。ユーザーがデータやナレッジをコントロールできることもWatsonの優位性の1つです。

 IBMでは、Watsonのユーザー数を今年の終わりまでに10億人にするという目標を持っています。日本では1億人、つまり誰もがIBM Watsonを使っていることを目指しています。それを実現するために必要になるのは、人に焦点を当てたアプローチです。専門家やプロフェッショナルと言われる人たちが活用することで、新しいAIの潮流が生まれてきます。それが企業規模の大小に関わらず、企業の枠組み自体を変えていく。AIはそんな可能性を持っていると感じています。

図2
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