Vol.1 “小売・流通業”にみる事業革新の動きとビジネスロケーションの重要性

社会の変化とともに“流通・小売業”はどう変わっていくのか?

労働人口減少や高齢化といった社会の変化、買い手社会から「価値共創社会」への変化とともに、“流通・小売業”が目指すべき方向性も大きく変わろうとしている。第2部に登壇した株式会社オピニオン代表取締役の碓井誠氏は、たんにモノを売るのではなく「生活者が求めるソリューションをトータルに提供することが大切」だと指摘する。

生産年齢人口の減少、高齢化などの変化にどう対応するか?

碓井氏

株式会社オピニオン代表取締役
碓井誠

1978年㈱セブン-イレブン・ジャパン入社、常務取締役システム本部長を経て、2004年フューチャーアーキテクト㈱取締役副社長。2011年㈱オピニオンを設立し、2010年より京都大学MBA特別教授を兼務。実務家として、幅広い業界へのコンサルティング活動も努めている。

 セブン-イレブンで約25年にわたって流通・小売の現場を経験した碓井氏。その経験や、経営コンサルタントとして世界中の流通・小売業界の最新動向を調査・研究する立場から、これからの“流通・小売業”のあり方について示唆に富んだ見解を披露した。

 まず、その背景となる社会の変化について、碓井氏は「人口減少、とくに2060年には生産年齢人口が現在の半分近くに減ることや、高齢化の進展、単身世帯の増加といった構造変化によって、“流通・小売業”に限らず、あらゆる産業が大きな変革を迫られることになる」との見方を示した。小売業における具体的な変化の動きとしては、単身者の増加、女性の社会進出などに伴う「内食」「外食」から「中食」へのシフト、コンビニエンスストア来店客の平均年齢が27歳から40歳へ、男女構成比が7:3から6:4へこの20年間で変化したことを指摘した。

 セブン-イレブンはそうした変化にいち早く対応し、メーカーが勧めるものを売る「販売代理型小売業」から、生活者が求めるものを提供する「購買代理型小売業」を目指して、商品開発や生活提案型の品揃えを図り、生活インフラサービスにセグメントを切った業態を確立した。

バリューチェーン一気通貫が収益向上のカギ

 続いて碓井氏は、世界の“流通・小売業”が現在、どのようなマーチャンダイジングによって変わりゆく消費者ニーズに対応し、競争を勝ち抜こうとしているのかについて言及。「世界の小売業の純利益率ランキングを見ると、「ZARA」を世界展開するスペインのインディテックスや、スウェーデンの「イケア」などバリューチェーン一気通貫のビジネスモデルを展開する企業が上位を占めている」と指摘。

 インディテックスのように、電子タグの活用によって在庫管理のみならず、お客が手に取ったか、試着したかなどの購買行動を迅速かつ緻密に分析し、効率的なバリューチェーンによって、売れ筋商品を短期で入れ替えながら収益を上げている企業が多いと解説した。

 これを踏まえて、碓井氏はセブン-イレブンのバリューチェーンについても紹介。よく知られているように同社の店舗は全体の約95%がフランチャイズ契約であり、食品の原材料や製造、物流などもその大半を外部委託しているが、「それらの活動を支援する各種システムなどのインフラをセブン-イレブン本部が提供することによって、60%をPB商品化し、バリューチェーン全体を円滑に機能させている」と語った。

バリューチェーンの垂直統合モデル

各社の2015年アニュアル・レポート

一気通貫型のバリューチェーンを構築すると、新商品投入、売筋商品拡大が速くなる。その結果、値引き対応が減り、収益も上がるという好循環が生まれやすい。MDサイクルが短いAモデルと長いBモデルを比べると、収益力の差は歴然だ

生活者と一緒になって、価値を「共創」する

碓井氏

 さらに碓井氏は、セブン-イレブンがこのバリューチェーンを土台としながら、社会の変化に合わせて「モノからコト」「コトからソリューション」へと提供すべきサービスを進化させてきたことを説明。具体例として、中食化、個食化、新商品ニーズに対応した100円コーヒー「セブンカフェ」とドーナツなどの洋風ファストフード商品の充実、公共料金の収納代行、銀行ATMから電子マネーに至る生活サービスなど、生活者の課題解決(ソリューション)に結び付くサービスを提供し続けてきたことを紹介した。

 こうした取り組みの背景にあるのは、「生活者が求めるものを提供する」という買い手社会からさらに一歩進み、「流通・小売業者と生活者が一緒になって、生活しやすい世の中を作り上げていく」という「価値共創社会」の到来だ。碓井氏は「“流通・小売業”の歴史は、『十人一色』の売り手社会から、『十人十色』の買い手社会、『一人十色』の価値共創社会へと変遷を遂げてきた。価値共創社会においては、いままで以上にきめ細かな個客対応が求められており、商品やサービスの選定、それらの円滑な供給を支えるバリューチェーンの構築などに工夫を凝らす必要がある」と指摘する。

小売業のバリューチェーン(セブン-イレブン)

バリューチェーン俯瞰図

セブン-イレブンのバリューチェーンを俯瞰すると図のようになる。原料調達から製造、物流、販売に至るバリューチェーンの主活動を、セブン-イレブン本部が各種システムなどのインフラ構築で支援することにより、円滑な活動の流れが実現する

 また碓井氏は、「価値共創社会に対応したソリューションの提供は、“流通・小売業”だけでなく、すべての産業に共通するテーマである」と指摘。不動産業の例として、UR都市機構が取り組んだ「ひばりが丘団地」(東京都)の建て替えプロジェクトなどを挙げた。同プロジェクトでは、老朽化した団地を建て替えるだけでなく、子育て世帯が利用しやすい広場やカフェなども設置し、若い世代の投入と新旧交流を促す生活者の課題解決を念頭においたまちづくりを実現している。

 碓井氏は、「地域包括ケアシステムの整備など、価値共創をキーワードに事業者と生活者が一体となって取り組むべき課題は社会全体に広がっている。課題解決の一翼を担う形で、“流通・小売業”も変わっていく必要がある」と提言した。

専門家インタビュー 新たな経済潮流と事業用地

  • Vol.1 少子高齢化時代医療福祉ビジネスの新たなチャンス到来
  • Vol.2 オムニチャネル時代における企業の立地展開と戦略
  • Vol.3 不動産証券化の新たな投資先として高まる首都近郊エリアの魅力
  • Vol.4 「ポスト2020年」も進化を遂げる東京とそれを支える首都近郊エリアの可能性