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先進企業が実行した「働き方改革」とは?

働き方改革法の成立により、労働環境は大きく変わっていく。こうした中でイノベーションや成長を促すカギは、経営のコミットメントと現場のマネジメント力にある。とはいえ、在宅勤務やテレワークなどを活用しながら労働時間を是正しつつ、従業員一人ひとりの「やりがい」や「働きがい」をどう実現していくのか。「働き方改革時代に必要なマネジメント力」をテーマに、日経BP総研の「働き方改革特別セミナー 第2弾」が開催された。

長時間労働ではなく、成果が求められる時代に

 基調講演に登壇したのは、カルビー シニアチェアマンであり、RIZAPグループの代表取締役COO(最高執行責任者)でもある松本晃氏だ。松本氏は9年間カルビーの経営トップを務め、売上1.8倍、最終利益6倍を達成したカリスマ経営者である。松本氏は「結論から話します。悪しき日本の労働慣行を止めることです。そうしないと、日本は潰れてしまう。Change, or Die(変化せよ、さもなくば死ね)です」と現状を厳しく指摘した。

松本 晃 氏
カルビー株式会社 シニアチェアマン
RIZAPグループ株式会社 代表取締役 COO
松本 晃

 残業、終身雇用、定年制、年功序列といった“悪しき労働慣行”を生み出したのは、戦後40年続いた冷戦にある。「冷戦の中で軍事小国だった日本は経済に集中できました。優秀な日本人が勤勉に働き、高度成長を実現しました。しかし、冷戦が終わってゲームのルールが変わったのです」と松本氏は語る。

 業界一のシェアを誇る老舗企業でありながら一方で収益率は低迷していたカルビーで経営のバトンを受け取った松本氏が最初に行ったのが、「権限」「個室」「社用車」「接待費」などの既得権を捨てることだった。松本氏は「経営者の役割は全てのステークホルダーを喜ばせること。世の中や人のためになることが必要条件で、儲かることは十分条件です」と語る。

 松本氏は、うまくいく経営に欠かせない3要素を挙げる。「VISION(ビジョン)」「PLAN(プラン)」「LEADERSHIP(リーダーシップ)」だ。松本氏はこれらを徹底し成果主義を取り入れた。目指したのは“厳しくて温かい企業”だ。それまでのカルビーは“甘くて温かい企業”だったという。「組織はそのままだと停滞します。でも、仕組みを変えれば組織も変わるのです」と松本氏は指摘する。

 仕組みを変えるために松本氏が取り組んだのが、“棚卸し”と“仕分け”だった。ガバナンス体制を変え、コストを削減し、オフィスも全面的に見直した。ワンフロアにして役員の個室は撤廃。従業員が座る場所はコンピューターが決定し、最大5時間で移動させられる。机の上に資料を置いておくことはできないため、オフィスはきれいになった。

 特に松本氏が意識したのは、女性の活用だ。ダイバーシティ委員会を設けて社内の理解を促進させるとともに、中日本地区の本部長に女性を起用するなど、積極的に女性を登用した。結果として女性管理職比率は高まり、カルビーは“なでしこ銘柄(女性人材を積極登用している東証1部上場企業)”として認知されるようになった。

 「かつては時間と成果が比例していました。しかし、今は成果で働く時代です。長時間労働の意味はありません。誰のために働くのかを明確にして、その人が抱える問題を解決するために努力しているかどうか。それがYesなら働いていることになります。生きるということも同じです」と松本氏は説いた。

価値観を変えることが成長し続ける前提条件に

 特別講演では「『働き方改革』の先へ挑む」という演題で、損害保険ジャパン日本興亜の取締役専務執行役員の伊東正仁氏が講演した。価値観を変えることが働き方改革の目的であり、それこそが企業が成長し続けるための前提条件になっているという。

 事実、正味収入保険料2兆1680億円、社員数約2万6000人の規模を誇る同社は、130年の歴史を持ち、900の拠点を設ける伝統的な日本企業だが、この3年間働き方改革に取り組み、労働時間を削減しつつ利益を伸ばしてきた。「特にこの1年は、生産性向上を示す社員エンゲージメント指数が0.43ポイント増加しました」と伊東氏は話す。

伊東 正仁 氏
損害保険ジャパン日本興亜株式会社
取締役 専務執行役員
伊東 正仁

 成果を上げることができたポイントは、単なる早帰りではなく、大きなテーマを持って取り組んできたことだ。伊東氏は「ゼロベースの仕事の棚卸し」「時と場所を選ばない働き方の実現」「時間労働から成果労働による生産性向上」「トップダウンとボトムアップの意識改革」の4つの柱を挙げて解説した。

 「『ゼロベースの仕事の棚卸し』では、インパクトを与えるためにトップダウンで常識を打ち破り、業務量を減らしました。それを受けて現場発のアイデアが増えてきました」と伊東氏。また、テレワークのインフラを整備すると同時に、役員もテレワークを実施して、時と場所を選ばない働き方を広げた。

 また、「生産性の向上」については、職場のコミュニケーションの問題でもあると捉え、少人数のチーム制も導入している。伊東氏は「メンバーの顔が見えるチーム制であれば、個々のチャレンジ度もわかり、チャレンジと行動が評価しやすくなると考えている」と語る。

 「意識改革」では、トップダウンとボトムアップの両方から取り組んできた。社長を道場主とする「部店長道場」を展開し、トップ自ら働き方改革やダイバーシティマネジメントの重要性について部店長と会話し、個人レベルでは「WORK」と「LIFE」の両方からそれぞれが働き方改革に取り組んでいる。

(図)4つの柱

 こうした取り組みの結果、同社の従業員一人あたりの売上高も上昇している。「生産性は確実にアップしています。女性の活躍もさらに促し、ダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指していきます」と伊東氏は今後の展開を語った。

企業文化を変えるには外部からの人材が必要に

 最後に「働き方改革時代に必要なマネジメント力とは?」というテーマでパネルディスカッションが行われた。損害保険ジャパン日本興亜の伊東氏に加え、カゴメ執行役員ダイバーシティ推進室長の曽根智子氏、ダイレクトリクルーティングの普及を推進するビズリーチ取締役の多田洋祐氏がパネリストとして参加した。

 曽根氏は「働き方改革は自立した個々人の生き方改革でもあります。業務を効率化することで可処分時間(自分の裁量で自由に使える時間)を増やし、その時間を有効に使うことで人生が豊かになれば、日本も豊かになります。目指しているのは、働きやすく、働きがいのある会社です」と話す。マネジメントに求められるのは、なぜ働き方改革をするのかを明確に示し続けることだ。

曽根 智子 氏
カゴメ株式会社
執行役員 ダイバーシティ推進室長
曽根 智子

 ダイレクトリクルーティングの効果について多田氏は「欲しい人材を能動的に採用するダイレクトリクルーティングでは、選別に使っていた時間を採用の時間に使えます」と語り、組織を変えていく上で効果があることを指摘した。

 伊東氏は「ずっと損保業界にいる人だけでは、考え方は変えられません。違う文化や感性を持った人が働ける会社かどうかが働き方改革を実現するカギになります」と話し、曽根氏も「成長するために企業文化をアップデートするには、外部から人材を採用して組織を活性化することが重要です。そのために中途採用でもプロパー採用でも、分け隔てなく活躍できる企業であるべきです」と指摘した。

多田 洋祐 氏
株式会社ビズリーチ
取締役
多田 洋祐

 人材の活躍のために人事に求められる役割について伊東氏は「社内の風土を変えるには成功モデルをつくるしかないと考えています。そこで働き方特区を設けて、社内ルールを撤廃するなど実験的に取り組み、ボトルネックを解消して成功事例として展開していくことを考えています」と新たな取り組みを紹介した。

 また曽根氏は、「もともと遅れていた当社がここまで変われたのには、3年でどこまでやるのか目標を設定・提示してスタートしたことが大きいです。期限を決めて取り組めば、やるべきことが明確になり、協力も得られやすい。アットホームな日本企業では、成果を出すのに有効な手段だったと思います」と提案する。

 もちろん、そのためにトップが果たす役割も大きい。「経営の危機意識がチェンジマネジメントの推進エンジンになる」と伊東氏は語る。わかりやすくインパクトのある施策を経営トップがどう示すか。働き方改革への待ったなしの取り組みが始まっている。

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