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働き方改革ではなく、人材育成改革

2018年11月14日(水)、日経BP総研主催の「働き方改革特別セミナー2018」の第3弾が東京都内で開催された。本特別セミナーの締めくくりとして開催された今回のテーマは「働き方改革、組織変革を起こす人材とは?」。企業は何を目的として働き方を改革するのか、それを推進する人材とはどのような人材で、そのような人材をどう育成すればいいのか。人材育成の専門家や働き方改革を実践する経営者を招き、トークやディスカッションが展開された。

人材育成改革が生産性を向上させる

 基調講演では、1993年から2010年末までコンサルティング会社のマッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルタントおよび人材育成、採用マネージャーを務めた、組織・人事コンサルタントの伊賀泰代氏が「経営課題としての生産性 〜働き方改革を越えて」と題して講演した。

伊賀泰代氏
組織・人事コンサルタント
伊賀 泰代

 伊賀氏は「『日本は労働生産性が低い』と言われますが、違和感を感じませんか?」と問いかける。現場の担当者はキビキビと働き、モラルや教育レベルも高い。それなのになぜ「先進国の中で最低ランクの生産性」と言われるのか。ここに生産性を上げる解があるという。

 「残業を減らしても自動的に生産性が上がるわけではありません。働き方改革と生産性を1対1で結びつけるのは危ない」と働き方改革に対する最近の風潮を危惧。生産性とは「付加価値(成果)」割る「投入資源」であるとし、「大事なのは付加価値側を上げること。そのために何をしているかと聞いても答えられない経営者の多いことが問題」と伊賀氏。生産性が上がらない原因は、労働者ではなく経営者側にあると指摘する。

 経営課題にフォーカスした生産性の問題として伊賀氏は「事業・商品ポートフォリオ」「価値ベースのプライシング」「意思決定の生産性」の3つを挙げる。儲からない事業にリソースを投入していては、いくら効率的に働いても付加価値は上がらない、市場価値ではなくコストで値付けしていたら儲けにつながらない、意思決定を先延ばしすると時間という資源が消費されるだけだ。

 こうした問題は経営者だけでなく、組織全体の問題でもある。組織が変革するには、この3つの問題を解決できる人材が必要になる。何に集中し、何をやめるのか決められる人材であり、高い付加価値をプライシングに反映できる人材、そして、タイムリーに意思決定できる人材である。

 こうした人材がいてこそ、先の見えない時代を生き抜くことができる。「生産性向上に必要なのは、働き方改革ではなく人材育成改革。どんな人材を育てたいのか、そのためには何が必要なのかをもういちど考えるべき時です」と伊賀氏は語った。

組織変革と人材育成で経営者が担う役割とは

 続いて行われた特別講演には、三井住友海上火災保険会長の柄澤康喜氏と、日本ユニシス社長の平岡昭良氏の二人の経営者が登壇した。

柄澤康喜氏
三井住友海上火災保険株式会社
取締役会長 会長執行役員
柄澤 康喜

 「ダイバーシティ&インクルージョンの推進に向けた働き方改革」と題して講演した柄澤氏は「企業の持続的成長にはCSV(Creating Shared Value)の発想が必要不可欠です」と指摘し、事業活動と社会との共通価値の創造の重要性を説く。

 同社を核とするMS&ADグループは、6つの損害保険会社をルーツに持ち、100年の歴史の中で合併や統合を経て成長してきた。2004年以降はアジアを中心とした海外の生損保を複数経営統合しており、ダイバーシティに関する意識も高い。柄澤氏は「互いの個性を認め、活かすというダイバーシティを重視し、実践してきました」と話す。

 同社が働き方改革を加速させたのは2016年のことだ。2016年10月にはシンクライアントPCを全社員に配布。2017年4月からは「遅くとも原則19時前退社」を打ち出したほか、育児休業中の社員が育児などの合間を有効活用し、自宅で臨時就業できるMSクラウドソーシングも開始した。AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などのデジタル技術も活用し、女性だけでなく全社員の活躍を促す仕組みづくりや障がい者雇用にも積極的だ。

 「ダイバーシティ&インクルージョンを定着させるために経営者がやるべきことは3つ。女性の再雇用制度などを整備するなどフレキシビリティーを高めること、情報をオープンにして透明性を高めること、そして新しい発想からイノベーションを起こすことです。経営環境が不透明だからこそ、こうした活動が不可欠なのです」(柄澤氏)。

平岡昭良氏
日本ユニシス株式会社
代表取締役社長 CEO CHO
平岡 昭良

 続いて登壇した平岡氏は、市場環境の変化で破壊される業界も出てくることを指摘し、設立60周年になる日本ユニシスも変革の必要があったと話す。「しかし、変革には痛みや不安があり、抵抗はつきものです。それに対抗するにはワクワクするしかありません」とワクワク感の重要性を強調する。

 システムインテグレーターから「社会課題を解決する企業」への変革を目指す同社では、3年前に「Foresight in sight」というコーポレートステートメントを制定。「未来を妄想しチャレンジする文化」を共有し、年度中であっても矢継ぎ早に組織改編を断行した。「不安を感じる暇がないほど、あえてカオスを生み出しました」と平岡氏は振り返る。

 並行して人材育成も進められた。その一つが社内起業家を育てるプリンシパルプロジェクトだ。「(失敗を恐れず海に飛び込む)ファーストペンギンを育成するために8年前に私塾として始め、今は正式にプログラム化しているのですが、そこから生まれたビジネスもあります」と平岡氏。同社のモットーは、早く失敗して早く学ぶこと、Try Fast、Fail Fast、Learn Quickly‼だ。

 同社では今、“妄想”から始まった社会課題解決への取り組みがいくつも広がりつつある。それが会社の文化を変えることにもつながっている。基本となるのは自分で手を上げることだ。それを会社やマネジメント層が支援する。平岡氏は「ルールより意識で変わる企業は強い」と語った。

経営者の想いに応える変革リーダーを育成する

白井久美子氏
日本ユニシス株式会社
執行役員 CRMO CISO CPO
白井 久美子

 セミナーの締めくくりとして「働き方改革、組織変革を起こす人材とは?」と題するパネルディスカッションが行われた。日本ユニシスの執行役員で、企業風土改革を担当する白井久美子氏は「働き方改革で生産性が36%向上し、エンゲージメントスコアも20.1%向上しました」と同社での取り組みの成果を語る。

 同社では“Workstyle Foresight”というビジョンのもと、働き方改革や組織・人財改革に取り組んできた。フリーアドレスを導入するとともに、自己変革や組織変革、自らの多様性を考える時間を確保するT3(Time To Think)活動を推進するなど、環境、価値観、プロセス、システムなど様々な局面で変革を進めている。

 「組織を変革するには、見える化が大切です。アンケートも駆使して定性面、定量面の両面で効果を確認しながら仕組みをつくっていきます」と白井氏。変革のエンジンとなる人材を育成するという面では「変革リーダーシッププログラム」を設けるなど、目的に沿った取り組みを行っている。

酒井哲也氏
株式会社ビズリーチ
執行役員
リクルーティングプラットフォーム統括本部 本部長
酒井 哲也

 また、ダイレクトリクルーティングの先駆者であるビズリーチの執行役員である酒井哲也氏は「不確実性の時代、企業や事業内容は変わっていきます。採用がそれに付随して変わっていけるかどうかが問われています。外部から変革のためのエバンジェリストを採用するのもトレンドです」と指摘する。

 しかし、求人有効倍率は年々上昇する中で、即戦力となる人材を採用するのは難しい。採用活動に成功する企業の共通項を聞かれた酒井氏は「経営が採用にコミットすること。これに尽きます」と語る。どう変わっていきたいのか、経営者が明確なビジョンを持ち、その想いに応える人材を採用し育成することが、組織を変革して持続的な成長をもたらす推進エンジンとなる。

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