日経ビジネスONLINE Special 週刊日経ビジネスオンライン SPECIAL日経ビジネスオンライン

【あなたはワクワクしていますか?】小田急電鉄の星野社長が問い掛ける「働き方改革」

社会インフラの重要な役割を担っている鉄道会社には、目先の収益だけではなく、中長期での安定的な地域貢献が期待されてきました。それゆえに、失敗の可能性もあるベンチャー的な挑戦から、一番程遠い存在のイメージがあります。しかし、昨年小田急電鉄の社長に就任した星野晃司氏が掲げたテーマは「チャレンジ」。失敗してもいいから新しい事業サービスに挑戦する社員を評価していくとのこと。前編では、星野社長が考える「リーダーのコミュニケーション」や「新しい働き方」について伺いました。
中竹竜二さん
中竹竜二さん

中竹竜二さん(以下中竹):この部屋に入ってこられた時から思っていたのですが、星野社長って柔和な表情が似合いますね。

星野晃司社長(以下星野):アハハ。ありがとうございます。実は、最近写真を撮られる機会が多いんです。2018年度内での完成を目指している東北沢―和泉多摩川間の複々線化事業、3月に就役した新しいロマンスカーなどがあり、取材を受ける機会が増えたのですが、どうも「厳しい顔をしている写真」の評判が悪い。社内でも家でも「らしくない」と言われたんです(笑)。ま、もともと「偉そうな雰囲気」は好きじゃないし、社長だからって威張っている感じは嫌いなんですが。

中竹:昔から、威張っているのは苦手だったんですか。

星野晃司さん 小田急電鉄株式会社 取締役社長
星野晃司(ほしの・こうじ)さん
小田急電鉄株式会社 取締役社長
1955年4月26日神奈川県生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、同年4月小田急電鉄入社。2003年6月に執行役員。10年取締役、小田急バス株式会社取締役社長(代表取締役)就任。17年4月より現職。

星野:そうですね。私は神奈川県の田舎で生まれ、四人姉弟の末っ子で唯一の男なので家族の期待を背負って育ちました。親からも姉たちからも「男子たるもの紳士であれ」とか「天狗になるな」とかいろいろ厳しく言われてきたので、そうした考え方がしみ込んでいるかもしれませんね。

中竹:会社に入ってからのご経験も影響しているのでしょうか。

星野:それは大きいですね。小田急では全社員、入社数年間は鉄道事業に勤めます。私は車掌まで勤めた後、人事部門に配属されました。そこからずっと人材教育の仕事をしてきたんですが、学んだことの影響は大きいです。

「上司の命令」と「コーチング」の違いとは

中竹:例えばどんなことでしょうか。

星野:仕事を通じて「人はどうやって育つのか、どうしたらやる気になるのか」ということを考えてきました。ご存知の通り、教育の基本は対話です。コミュニケーションを拒否する態度や一方的な「命令」では人は育ちません。ですから、いまの自分の態度は正しかったのか、常に振り返るようにはなったと思います。

中竹:押し付けるような態度では育たない。

星野:そう。私、「コーチング理論」が好きなんです。コーチングの基本はまず、相手の立場に寄り添って話を聞くこと。この人はどうしたいのか、それを引き出して、背中を押してあげるのがコーチングです。一般的な「相談」の場合は、相手の話を聞いた後、「こうしたらいいんじゃないの」と解決策まで提案しますよね。でも、コーチングでは具体的な解決策まで提案することは決してない。あくまでも相手が自主的に結論を出すことをサポートする立場なんです。

中竹:「上司から言われたから」ではなく、「自分で考えて決めた」からこそやる気になる。アドバイスとコーチングとの違いはそこにありますよね。

星野:あと、私が常に心掛けているのは、「美しい話」に収斂させないことです。「社長として何か話せ」ということで、最近、いろんな研修の場に呼ばれていまして……。私は、一方的に話をする講義スタイルは嫌いで、現場の社員たちと対話をしたり議論をしたりするのは大好きなんです。そこで、研修の場でも社員と議論をしているんですが、話の最後に「オチ」をつけない、「まとめ」ない、「教訓」や「訓示」を言わない、普通の話で終わるように心がけています。最後にキレイなオチをつけたり、美しい結論に収斂させたりすると、相手は「なんだ、その結論が言いたくて、長々と話をしていたのか」と思ってしまいます。肝心の中身の話が残らないんですね。

中竹:相談した人自身が、対話の中で自分なりにヒントをみつけてもらうプロセスが大事ということですね。

星野:ええ。カッコいい結論、美しい物語って、相手が結論まで考える機会を奪うんです。