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自前主義/完璧主義を捨てたパナソニック

「完璧主義」「自前主義」を捨てる覚悟

中竹:具体的にはどんなことを。

宮部:大きくわけて3つのことに挑戦します。

まず一つは米国シリコンバレーに「(Panasonic β)」を設立しました。ここでは専属技術者に加え、既存の4つのカンパニーの技術者たちが定期的に出張・駐在し、既存の事業部門では扱えない技術やサービスの開発に取り組んでいきます。新しい分野であればあるほど、誰にもその事業性は正確に評価できません。従来のように完璧を目指して事業調査をしたり計画をたてたりすることに時間を使うよりも、まずはやってみる。それでユーザーの反応をみて、どんどん修正しながら進めていく方が結果的にスピードをもって開発できます。いわゆる「アジャイル型開発」を志向する組織がPanasonic βです。ここでは現在、「(HomeX)」という家のネットワーク化のサービス開発に取り組んでいます。

技術開発では他社とも一緒に取り組んでいきます。ある意味、パナソニックでは社内ですべて開発する「自前主義」にこだわってきたのですが、いい技術であれば他社のものでも取り入れていきますし、逆に、弊社の研究も他社に利用してもらおうと考えています。

元SAPの馬場渉さんもこのプロジェクトに参画

中竹:まさに「オープンイノベーション」ですね。そうしたやり方を推進するため、元SAPの馬場渉さんを副本部長として迎え入れたんでしょうか。

宮部:ええ。もともと弊社の基幹業務システムでお世話になっていましたが、彼はSAP時代から、大企業組織での新規事業開発を得意としてきました。シリコンバレーに住み、現地のスタートアップ企業の支援責任者でもあったので、まさに最適なリーダーです。彼は副本部長として「イノベーションによる成長を具体化していく」のが役割です。「いちいち私に相談することなく、やるべきことに取り組んでほしい」と伝えています。

中竹:二つ目は?

宮部:2番目の取り組みとして「NEO」があります。新規事業の募集を通じた人材発掘です。既存事業の製品であえば、新商品も製品化・販売までのせるルートがあります。しかし、まったく新しい製品・サービスとなれば、そうはいきません。事業化するための議論を続けながら、人を巻き込み、開発を進め、販路も開拓していかなければならない。このプロセスで一番重要なのは人。iPodの事業プランではなく、iPodを具体的に事業化できるステーブ・ジョブズのような人物です。NEOでは、新規事業を募集することを通じて、執念を持った新しい人材を探していきます。

左:宮部 義幸 氏 右:中竹 竜二 氏

国でいえば「敗戦」のような痛い経験をした

中竹:そして三つ目は?

宮部:本社部門でも新しい事業に取り組もうとしています。各カンパニーが抱えているアセットではやりきれないような新規サービスは本社直轄でやります。例えば、パナソニックには「高齢者の見守りサービス」があります。室内に設置する弊社のエアコンに人の動きを感知するセンサーを組み合わせることで、見守りたい人が部屋にいるのか、外出しているのか、寝ているのかなどの様子を検知し、見守る側に通知するサービスです。このシステムを介護サービス会社で採用いただいているんですが、実はこれ……センサーがあればいい。ですから、パナソニックのエアコンでなくてもいいんです。逆に、他社のエアコンがすでに設置されていると、サービスを導入しづらい問題があるんですね。ですから、既存事業とは切り離して、サービス単独でやった方がいいんです。こうした既存の事業では扱いきれないものは本社でやります。

中竹:三つの試みは既存のビジネスとフリクションを起こす部分があると思います。社員の方々からの抵抗はありませんか。

宮部:覚悟してしたよりも、抵抗が少なかったと思います。というのも、我々は既に痛い目にあっているんですよ。2011年度、2012年度と2期連続で7000億円以上の赤字を出しました。社員にとっても「敗戦」のような経験でした。「業績的にはすでに復活したのでは?」と言われますが、事業撤退で1兆円以上の売り上げを減らし、赤字を止めただけにすぎません。外科的な処置で体質までは変わっていない。このままではいつかまた病気が再発するかもしれないのです。それが分かっているだけに、新しい試みに反対する人が少なかったのだと思います。

オールブラックスが常勝集団に変身するためやったこと

中竹:私はスポーツやビジネス分野でのリーダーやコーチの育成が専門で、「どういう指導者がいれば勝てるチームができるのか」をずっと調べているんです。いま宮部さんのお話を聞いて思い出した話があります。

ニュージーランドのオールブラックス。いまでこそ、ラグビーの常勝の伝統チームのイメージがありますが、実はワールドカップとか注目されるビックゲームになるとなぜか勝てない時期が続いていたのです。「伝統的なやり方いけないのか?」「選手がいけないのか?」いろいろ議論した末、彼らが出した結論が「これまでの伝統や文化を変える」ことでした。

宮部:どのように行ったのでしょうか。

中竹:伝統をいったん捨て「失敗してもいいので、常に新しいことに挑戦し続ける」ことを新しい風土にしようとしたのです。そのためにも、まずコーチたちが率先して新しいことに挑戦するように動き始めました。それがきっかけとなり、チームが変わり始めたそうです。宮部さんが先ほど説明されたことと共通点があるなと感じました。

宮部:私たちは、最終的には「完璧」を追求するパーフェクションを大事にしたいとは思っているんです。ただ、イノベーションを引き出すためには、いったんは「完璧主義」を下ろすことも必要です。スポーツの世界でも世代交代をすれば戦力は落ちることもあるでしょう。しかし、それでも世代交代をしなければ次はありませんよね。我々も次の100年のためにも、やらなければならないと思っています。

(取材・文:山本志丈 撮影:渡辺 健一郎 編集:小竹貴子 上野智)