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働き方改革を実現させるための有効策とは?

働き方改革法が成立するなど、雇用環境は大きく変わりつつある。企業にとって働き方改革は待ったなしだ。しかし、単に残業時間を削減しただけでは持続的な成長にはつながらない。従業員に働きがいを与え、熱意を持って仕事をしてもらうことによって質的向上を図ることが有効策の一つとなる。先日、東京・神田で“エンゲージメント(働きがい)の向上”という視点から働き方改革を考えるセミナーが開催された。そこから働き方改革のヒントを考えてみたい。

生産性向上の真の目的は、働きがいと生きがいの両立

 最初に行われた特別講演では、産業革新機構の代表取締役会長兼CEOの志賀俊之氏が登壇した。日産自動車のトップとして伝統的な企業の改革に取り組んできた志賀氏は「企業戦略と自分自身が結びつかなければ、社員はやる気になりません。だからこそ、企業のビジョンとエンゲージメント戦略が重要です」と語る。

志賀 俊之 氏
産業革新機構 代表取締役会長兼CEO
日産自動車株式会社 取締役
志賀 俊之

 日産自動車では、電気自動車で世界一を目指すというビジョンを掲げ、それを理解してもらうとともに、やりがいを感じてもらう仕組みをつくることによりエンゲージメントを強化してきた。そのポイントは、働きがいと生きがいの両立にあるという。

 「会社のビジョンに即した仕事で成長できて、かつプライベートが充実していることでやりがいが生まれます。生産性の向上はそのための手段であり、それが働き方改革を実現に導きます」と志賀氏は、時間管理ありきの姿勢では効果がないことを強調する。

 志賀氏は真の働き方を実現する3つのキーワードを挙げる。多様性、流動性、柔軟性だ。多様性は組織を活性化させ、イノベーションを生み出す。多様性とは個を大切にすることであり、それがエンゲージメントを高めることにつながる。志賀氏は「企業価値を高めるためにダイバーシティ・サイクルを確立することが重要です」と話す。

 また志賀氏は「長時間労働の最大の原因は従来型の雇用形態に問題がある」と指摘し、流動性の低いメンバーシップ雇用から、流動性の高いプロフェッショナル雇用へのシフトを提案する。プロフェッショナル雇用では、会社は個人に成長の機会を与え、個人は仕事で成長することが契約条件になる。

 柔軟性を象徴するのが副業や兼業の浸透だが、「まだまだ進んでいない」と志賀氏は指摘する。ベンチャー企業が多額の資金を得ても「CFO(最高財務責任者)を引き受けてくれる人がいなくて困っている」というような事態を解消するためにも、大企業を役職定年した人が週2回ベンチャー企業で働けるようなフレキシブルな仕組みが必要と説く。

 「IoTやビッグデータ、AIによる第4次産業革命に向き合うには、精神と心と魂を結集し、無形資産によって企業も個人も豊かになることが大事です。生きがいという無形資産を増やすことで心を豊かにすることが人生の目的です」と志賀氏は語った。

社員の参画を活性化することで働きがいが実感できる会社に

 続いて基調講演では、シスコシステムズのマーケティング本部 本部長の鎌田道子氏が、働きがいに関する世界最大規模の調査機関であるGREAT PLACE TO WORK(GPTW)により、日本における2018年の「働きがいのある会社(大企業部門)」の第1位にランキングされた同社の働き方改革への取り組みを紹介した。

 「GPTWの調査結果で一番うれしかったのは、『仕事に行くことを楽しみにしているか』という設問に対する回答のポイントが高かったことです。会社が目指す価値と仕事との結びつきを理解し、貢献していると実感できていることが“楽しさ”につながっています。また、約90%の従業員が、働きがいのある会社だ、と回答しています」(鎌田氏)

鎌田 道子 氏
シスコシステムズ合同会社
執行役員
マーケティング本部 本部長
鎌田 道子

 これまで同社は段階的に働き方改革に取り組んできた。2001年に在宅勤務を導入し、2007年にその対象者を拡大。2011年からはインクルージョン&ダイバーシティ活動を加速、現在は第4段階として社員のコラボレーションとエンゲージメントを強化し、変化に対応できるイノベーティブな組織体制づくりに取り組んでいる。

 同社では、会社と個人が相互にコミットメントして事業の成長と社員の自己実現の両立を図る「Our People Deal」、社員のフレキシブルな働き方を積極的にサポートするマネージャーを全社員で投票して選出する「ベストマネージャー賞」、同社の成長を牽引する日本の中堅・中小企業向けの独自ブランド「Cisco Start」を生んだ若手社員中心の成長戦略プロジェクト、失敗体験を共有する「ベストロス」などユニークな仕組みを取り入れてきた。

 さらに、東京五輪のオフィシャルパートナーでもある同社は、全組織から「オリンピックアンバサダー」を任命し準備活動に巻き込んだり、2020年以降にも残るレガシープロジェクトのアイデアを全社に募集したりするなど、全社員が共通の体験をするための具体的な施策を実行している。

 「先進的で柔軟なワークスタイルを実現するには、技術の活用だけでなく、企業文化や価値観の浸透、そして風通しよく社員の目標達成や成長を支援するプロセスが必要です」と鎌田氏は指摘する。現在進められている本社オフィス刷新プロジェクトにも社員が参画している。「大事なのは社員のエンゲージメントです」と鎌田氏は、継続して働き方改革に取り組むことの重要性を強調した。

エンゲージメントの指標は出戻り社員が多いかどうか

 セミナーの締めくくりでは、シスコシステムズの鎌田氏、日立金属の執行役常務 人事総務本部長の田宮直彦氏、ビズリーチ 取締役の多田洋祐氏によるパネルディスカッションが行われた。テーマは、社員のエンゲージメントの向上策だ。

 鎌田氏が「エンゲージメント向上に貢献している」として紹介したのが、同社の「Team Space」というコミュニケーションツールだ。これは、毎週、社員と上司が業務の進捗と課題や悩みを共有するもので、コミュニケーションを活性化させるだけでなく、社員の仕事に対する充実度をデータで確認する機能もある。「メンバーがつらいと感じたことを書き込んでくれたときに、いかに早く支援できるかが重要です」と鎌田氏は活用のポイントを解説する。

 一方、M&Aによって事業を多角化してきた日立金属では、開発型企業としての企業力を強化するために、ダイバーシティと働き方改革を推進している。田宮氏は「働き方改革としては、意識面、業務プロセス面、労働時間の見える化、ワークスタイルの変革の4つの点で取り組んでいます」と語る。

田宮 直彦 氏
日立金属株式会社
執行役常務
人事総務本部長
田宮 直彦

 タウンホールやランチミーティング、目標管理面談などでコミュニケーションを強化するとともに、会社の理念を「日立金属WAY」として再整理し、共有するためのワークショップを展開している。

 「エンゲージメントを向上させるには、会社の戦略を理解して自律的に取り組むようにサイクルを回していくことが大事です」と田宮氏。そのために同社では「Hitachi Insights」という日立グループ共通の従業員サーベイを毎年実施し、社員のエンゲージメントレベルを定点観測しているという。

 また、組織づくりをサポートするという視点からビズリーチの多田氏は、「米国では採用にあたって口コミサイトが大きな影響力を持っています。日本でも5年以内にそうなるでしょう。本音でいいことが書かれるようになるには、社員満足度の向上が重要です」と社員の満足度が口コミサイトで伝わる時代に入りつつあることを指摘した。

多田 洋祐 氏
株式会社ビズリーチ
取締役
多田 洋祐

 社員満足度を向上させる上で重要なカギを握るのはコミュニケーション活動だ。しかし、そう簡単ではない。田宮氏は「経営陣や上司はコミュニケーションできていると思っていても、サーベイの結果を見ると、それが若手に伝わっていないためにエンゲージメントも低くなっていることがわかります。これをどう強化するかが課題です」と話す。

 エンゲージメントの指標の一つとして挙げられるのが出戻りだ。多田氏は「いい会社には外で成長した人が戻ってきて、それが業績向上につながっています」と話す。鎌田氏も「外へ出てキャリアアップして戻ってくることで戦力アップにつながるケースは多い」と語る。こうした多様性を受容することもエンゲージメント強化策の一つといえそうだ。

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