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IBMが攻めの採用活動を本格化

リクルーティングからタレント・アクイジションへ

 日本IBMでは人事部門の採用チームを、「タレント・アクイジション(人材獲得)」と呼んでいる。杉本氏はこのチームを統括する部長という立場である。最近は「リクルーティング」ではなく、この言葉を使う企業が増えている。

 採用したいポジション向けに、必要な人材を探して獲得するリクルーティングに対し、タレント・アクイジションの守備範囲はより広くなる(図1)。

図1 リクルーティングからタレント・アクイジションへ
リクルーティングからタレント・アクイジションへ
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 「私たちは採用業務のフローを5つの要素に分けています。採用のためのブランディングなどのマーケティング、候補者へのアプローチ、選考、オファー、入社後の対応です」と杉本氏。従来のリクルーティングはアプローチと選考、オファーが中心で、入社後のフォローはあまり重視されていなかった。

 一方のタレント・アクイジションでは、リクルーティングが対象としていなかった業務も重視される。「特に、自社で直接候補者にアプローチするダイレクトソーシングでは、採用ブランディングなどの活動が大きなポイントになります」と杉本氏は説明する。

 日本IBMでは、年間数百人程度のキャリア採用を行っている。2017年はキャリア採用の人数がかなり増えたため、外部の人材紹介会社などへの依存度が高まった。そこで、2018年は採用担当者を増員するとともに、外部への依存度を下げる方針だ。

 「キャリア採用担当者を増やして、現在は十数人のチームになりました。人材エージェントの活用には、多くの候補者をリスト化できるというメリットがあります。ただ、採用チームが待ちの姿勢になってしまうという懸念もあります。そこで、今年は内製化率を高めて、積極的にマーケットに出ていこうと考えています」(杉本氏)

 杉本氏は20年にわたり人事部門で仕事を続けてきた。日本企業、外資系企業で経験を積んだ後、日本IBMに入社。実は、杉本氏自身、30歳くらいまではオペレーター・マインドが染みついていたという。

 「20代のころ給与計算などの仕事に携わったこともあり、『間違ってはいけない』『決められたことをきちんとやることが大事』という意識が強かったように思います。その後、ネット企業で採用を担当したときに認識が変わりました。経営者や事業責任者の採用への関心が高く、求人の規模が非常に大きかったこともあり、ミスなくこなすというスタイルが通用しなかったのです」と杉本氏。以来、オペレーター・マインドを捨て、新しいスタイルを模索するようになったという。

タレントプールの候補者リストを増やし、事業部門のニーズに迅速・適切に対応

 杉本氏は採用チームに対して、「積極的にマーケットに出て、自らアプローチしよう」「採用のプロフェッショナルとして幅広く情報を収集しよう」「事業部門から言われたからやるのではなく、コンサルタントとして提案をしよう」といった話をしている。

 オペレーター・マインドを一掃し、人材マーケットに対して自ら仕掛けていく。そんなチームづくりを進めている。こうした取り組みの中で、重要な柱の1つと位置付けられているのが「タレントプール」である。

 「事業部門から求人リクエストが入ってから動くのではなく、あらかじめIBMの各種事業に適合しそうな候補者をタレントプールに蓄えておきます。求人ニーズがあったときには、その中から絞り込んで採用プロセスに引き継ぎます」(杉本氏)

 日本IBMがタレントプールを構築する理由について、杉本氏は次のように語る。

 「例えば、AI(人工知能)やデータサイエンス関連の人材は、今ニーズがなかったとしてもいずれは事業部門から求められることが目に見えています。経営戦略や事業の動向を注意深く観察していれば、様々な職種についてある程度の予測ができるようになるでしょう。自前のタレントプールを持つことで、事業部門のニーズに素早く対応できますし、絞り込んだ候補者の質も高くなるはずです」

 タレントプールづくりにあたって、同社は採用チームを3つに分けた。タレント・アクイジション・ソーサー(TAS)、タレント・アクイジション・パートナー(TAP)、タレント・アクイジション・コーディネーター(TAC)である。以前は一般にリクルーターと呼ばれるTAP、候補者との調整役であるTACの2種類だったが、ここにタレントプールの候補者リストを充実させる役割としてTASが加わった形だ。

図2 チームメンバーのスキル向上と再配置
チームメンバーのスキル向上と再配置
チームメンバーのスキル向上と再配置

 「TASはIBMにマッチしそうな人材を探し、プールに入れておきます。メールや電話でIBMに興味を持っているかどうかという感触を確かめて、関心を示してくれた候補者にはセミナーの案内を送るなどしてつながりが途切れないようにします。こうして少しずつプール内の候補者を充実させていきます」と杉本氏は語る。

 タレントプールの取り組みはまだ始まったばかりだ。効果測定ができる段階ではないが、杉本氏は手ごたえを感じている。採用チームのマインドセットも攻めの姿勢に変わりつつあるようだ。

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