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サイバーエージェントの大胆な人事戦略

人材の価値を決める「決断経験」を重視する

 「当社が人材育成で最も大切にしていること。それは、決断経験を積ませることです。人材の市場価値は決断経験の量と質で決まります」と曽山氏は語る。決断経験とは、自分自身で決めた経験のことだ。優秀な学生ほど入社前に様々な決断経験をしてきている。進学を決める、部活を決める、部の活動内容を決めるなど、特にリーダーとしての経験が多ければ、それだけ決断経験も多い。

 しかし、社会人になると周囲には上司や先輩社員がいるため決断経験は積みにくい。だからこそ、同社では決断経験を意識的につくり出している。「特に私たちが意識しているのは、同年代の決断です。創業社長の藤田(晋)が当社を上場させたのは26歳のときでした。ですから、同じ年の社員にそれくらい重要な決断ができても不思議ではないはずです」(曽山氏)。

 決断経験を増やすための仕掛けの一つが、2004年から行われていた「ジギョつく」だ。いわゆる新規事業コンテストだが、毎週募集があり、内定者から経営幹部まで誰でも参加できる。1次審査のあとは役員会議にかけられ、最高100万円の賞金が贈られる。年間1000件のペースで応募があったという。しかし、なかなか「ジギョつく」から成功する事業が生まれなかったこともあり、2015年に廃止。

新規事業コンテスト「ジギョつく」。年間約1000件の応募があったという。

 現在、サイバーエージェントで大きな役割を果たす仕掛けが、2006年から開催されている「あした会議」だ。これは役員自らが新規事業をつくり出すものだ。役員が率先して事案を出し、4人のメンバーとチームを組み、1泊2日で行われる合宿形式の発表会で優劣を競う"役員対抗の決議案バトル"である。「順位などの結果が社内外に公表されるので手は抜けません」と曽山氏は話す。

 この「あした会議」の最大のメリットは、所属を超えて役員と社員が議論することで生まれる部署横断の人材交流と情報交流にある。新規事業やコストダウン、人事制度などテーマは様々だが、提案するテーマは役員の担当分野以外で、チームのメンバーも自分の部下からは選べない。

 合宿では初日に各チームが2案から3案をそれぞれ3分間でプレゼンし、審査委員長である社長の藤田晋氏がコメントしていく。「ユニークなのはそれが最終的な結果ではないという点です。指摘された弱い部分をブラッシュアップして翌日に再度発表します。その議論には藤田も参加してアドバイスします」と曽山氏。役員と社員が一緒になって議論する場が社員を育てる場になっているのである。

リーダーを育てる機会を意図的に増やす

 これまで「あした会議」から生まれた子会社は30社近くあり、その累計の売り上げは1000億円を超え、営業利益は100億円に上る。その半分は20代の若手社員が社長を務める。社長になれば自然と決断経験は増え、次世代を担う人材へと成長していく。「リーダーを育てたければ、まずリーダーをやらせてみることです」と曽山氏は話す。

「あした会議」から生まれた子会社の社長。「リーダーを育てたければ、まずリーダーをやらせてみることです」(曽山氏)。

 このほかにも同社では、2年に1度取締役8人のうち2人が入れ替わる「CA8(シーエーエイト)」と呼ばれるユニークな制度がある。これも経営者を育てる機会を増やすための仕掛けだ。役員というポジションを「上がり」ではなく「キャリアステップの一環」として捉える。曽山氏自身も一度退任した"出戻り役員"である。

 こうしたユニークな仕掛けはどうやって生まれてくるのだろうか。「人事制度の設計で大事にしていることは、挑戦と安心をセットで考えることです。どちらに傾いても人は辞めていきます」と曽山氏。まず挑戦する場を増やし、やりがいや地位、名誉などの非金銭的報酬を提供する。そのうえで安心できる制度も用意しておくことにより、挑戦意欲も生まれる。

 この挑戦者のセーフティーネットになっているのが「キャリアエージェント」という、社内向けのヘッドハンティングの専門チームだ。毎月、社員にオンラインアンケートを実施し、人材の適材適所を考え、役員に異動を提案する。

 簡単なアンケートだが、仕事上のパフォーマンスや職場の状況といった定性情報を数値化して定量情報に変換し、測定する。その結果は上司には見せずにヘッドハンターチームが判断し、必要であれば社員と面談をして社内の募集ニーズとのマッチングを図り、人材の活性化へとつなげていく。

 現在、同社の平均年齢は31歳。若い人が多い会社だからこうした思い切った施策ができるという見方もあるかもしれない。しかし、ビジネスという土俵は同じだ。企業は同社のような人事戦略で経験を積んだ挑戦意欲の高い人材と競争しなければならない。

 デジタルトランスフォーメーションの時代では、ウーバーが旧態依然としたタクシー業界を一変させたように、どの業界でも変革が起きてくる。そこで勝ち残るためには、人材を活性化させ、能力を引き出す人事戦略が求められているのである。

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