イノベーションワーカーには、野球チームのようにメンバーそれぞれにさまざまな役割があります。ある人は新しいアイデアを生み出し、ある人は市場の動向を探り……、といった具合です。
インパクトのあるイノベーションは会社の全員に影響を与えますから、直接新たな事業に関わる社員だけでなく、全員が理解したほうがいい。その意味で、組織学習がとても重要です。社員みんながイノベーションに何らかの形で参加しているという環境が強いと思います。
髙橋:社員全員が何らかの形でイノベーションワークに関わるような環境をつくるということですね。
ダッシャー:ただし、場合によっては、今まで野球をやっていたのにサッカーチームに衣替え、といった急激な変化もあります。社内の一体感を醸成するのは簡単ではないでしょう。しかし、日本にはいい伝統があります。社員が意見を出し合い、現場の改善を進めるなどとても素晴らしい。ですから日本でイノベーションを起こせないはずがない、と私は思っています。
髙橋:勇気がわいてきます。米国で事業転換を成功させた企業の好例はありますか。
ダッシャー:例えば、IBMは見事に事業転換を成功させました。IBMはかつてハードディスクドライブやパソコンなどハードウエアが事業の主体でしたが、今は完全に軸足をソフトウエアやサービスに移しています。これにはかれこれ20年ぐらいの年月がかかっているでしょう。
ただし、人もずいぶん解雇しました。米国企業は、雇用を守ることにあまり責任を感じません。一方で日本企業はとても人を大事にします。それは日本型経営の強み。社員のロイヤルティーにつながります。ただ、いったんレールから外れてしまうと、なかなか戻れない。
私の知り合いは、2010年からある会社に2年間務めた後、ほかの会社に転職しました。そして今年、最初の会社にもっと高い地位で戻りました。日本ではあまり考えられませんよね。
これくらいの流動性がないと、イノベーションは生まれないと思います。例えば、会社を辞めて自分で事業を始める場合、リスクの計測をしないといけません。そのときに今の会社に戻ることは絶対に無理だとしたら、リスクは格段に高まります。
髙橋:確かにグーグルやアップルなどには卒業生を歓迎するアルムナイ制度があると聞きます。ここが今後日本でも重要なポイントになりそうです。