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第11回・AI時代の会社に必要な“妄想力”

ABEJAの岡田陽介社長に聞く

日経BP総研 中堅・中小企業ラボ

2018年12月21日(金)

東京・武蔵境自動車教習所の髙橋明希社長が、経営者としての腕をさらに磨くため、キーパーソンから「人材採用・育成」「働きがい」などについて学んでいくシリーズ。第11回目は、ABEJA(アベジャ、東京・港)の岡田陽介社長がゲスト。ディープラーニング(深層学習)を活用したAI(人工知能)の社会実装事業を手掛け、2018年11月にはグーグルから資金調達をした新進気鋭の経営者。ディープラーニングは2010年代初めに注目を浴びた人工知能の学習方法で、AIの実用化が一気に進むきっかけとなった技術だ。AIがさらに社会に浸透したとき、企業のあり方、人間の働き方はどう変わるのか。話を聞いた。

髙橋:ディープラーニングを活用したAIの社会実装事業を手掛けているとのことですが、具体的な内容を教えてください。

岡田陽介社長(以下、岡田):AIやディープラーニングはその界隈の人たちにとってはポピュラーな技術になっていますが、一般の人からするとまだまだ「なんだそれは」という感じで理解のギャップが大きい。このギャップを埋めるサービスとして「ABEJA Platform(アベジャ・プラットフォーム)」を提供しています。データの取得、蓄積、学習といったAIを実装するさまざまなノウハウをサービスとして提供するもので、これを活用すれば、どの業界の方々もAI開発が容易に始められます。

 また、小売業や製造業向けには「ABEJA Insight for Retail(アベジャ・インサイト・フォー・リテール)」というアプリケーションを提供しています。これは顧客行動データの取得・分析を軸とした店舗解析サービスです。

 小売業の場合であれば、店舗に設置したカメラの動画から来店人数やお客の年齢や性別、店内の回遊状況などのデータを簡単に取得できるので、マーケティングに活用していただけます。現在、520店舗以上に導入されています。

 EC(電子商取引)のウェブだと何人がサイトに来て、何人がコンバージョン(成果。ECなら商品を購入すること)したかを検証した上で、細かく内容やメッセージを変えて集客やコンバージョン率の向上をコントロールしていきます。しかし、リアル店舗ではこれがほぼできていない。そもそも来店人数さえ把握していないことが多いので、最初は店舗解析によってはじき出された数字にかなり衝撃を受けるようです。

岡田陽介(おかだ・ようすけ)
1988年名古屋市出身。10歳からプログラミングをスタート。高校でCG(コンピューター・グラフィックス)を専攻し、全国高等学校デザイン選手権大会で文部科学大臣賞を受賞。大学在学中、CG関連の国際会議発表多数。その後、ITベンチャー企業を経て、シリコンバレー滞在中に人工知能(特にディープラーニング)の革命的進化を目の当たりにする。帰国後の2012年9月、ABEJAを起業。17年からは、ディープラーニングを中心とする技術による日本の産業競争力向上を目指す日本ディープラーニング協会の理事を務める
写真:菊池一郎

ABEJA

ABEJA は2012年創業、従業員数は約80人(正社員・アルバイトを含む)。ディープラーニング(深層学習)を活用したAI(人工知能)の社会実装事業を手掛ける。ディープラーニング技術を活用した様々な大量データの取得、蓄積、学習、推論・再学習などを行うPaaS(Platform as a Service)技術「ABEJA Platform」を提供し、これまで150社以上において本番運用を実現。また、同プラットフォームを用いて国内大手小売・流通企業を中心に、小売流通業界向け店舗解析サービス「ABEJA Insight for Retail」を100 社以上520店舗以上に提供する。ABEJAとはスペイン語でミツバチという意味。自然界における食物連鎖の中で重要な役割を果たすミツバチのように、社会のインフラとなる存在となることを目指し名付けた。

髙橋:実際に成果を出されている事例はありますか。

岡田:登山用品などを販売するICI石井スポーツ(東京・新宿)さんを例にお話ししましょう。これまでは、店舗の壁が高くなっていて外から店内の様子がほとんど見えず、常連以外には敷居が高い印象でした。登山が好きな特定の客が来るのだからそれでよしとしていたのです。

 しかし、例えば有名ブランドの商品を店頭に置くなどして敷居を下げ、幅広い客層を狙うこともできます。一方で、若い客層が増えると、従来の客が嫌がるという見方もありました。

 店舗解析サービスを導入すると、実際の集客はどうかという数値データが取れるので、「勘VS勘」の不毛な争いに終止符を打てるというわけです。

 商品を置くのに最適な位置の検証にも数値データは有効です。これまでは、「マグネット」と呼ばれる魅力的な商品を最も吸引力がある場所に置いて、そこから中に入ってもらうべきだという人と、一番奥に置くことでいったん奥まで呼び込み、店内を回遊してもらうのがいいという人に意見が分かれていました。これにもファクトとしての数値データを可視化することで、客観的に答えが出せます。