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第11回・AI時代の会社に必要な“妄想力”

ABEJAの岡田陽介社長に聞く

AIの浸透で企業の役割が変わる

髙橋:AIを導入しない企業は遅れているというような雰囲気がありますよね。

岡田:AI導入が企業の業績にインパクトを与えるのかという思考回路が入っていない。1円を稼ぐために100円を投資するといった本末転倒な話が目立ちます。まずは「ここにAIを適用すれば、うちの利益は上がるはずだ」というポイントを見つけることが先決でしょう。

髙橋:AIの導入で、人間の働き方はどう変わっていくと予測していますか。

岡田:日本に限定するなら、労働人口が減少し、GDP(国内総生産)は上がらないという状況をAIで打破できるのではないかと考えています。AIをうまく活用すれば、少ない人数でより高い生産性を上げることは可能でしょう。

 その次のフェーズとして、AIがGDPの7割を勝手に生み出す世の中になったらどうか。人間は残り3割以上のことができると思うし、創造的な仕事に集中することでイノベーションが起きる速度がどんどん加速していくはずです。

ABEJAが提供するサービスの一つ、「ABEJA Insight for Retail」の管理画面例。店舗ごとの客単価、店舗に設置したセンサーデバイスの解析結果やPOS(販売時点情報管理)データを基に割り出した来客人数、客単価を一覧できる
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髙橋:企業が果たす役割も変わっていくのでしょうか。

岡田:困っていることを解決するのがビジネスだったはずですが、ここからの時代は困っていることがほぼない。何をもって事業を進めたらいいかよく分からないですよね。

 ではどうしたらいいのか。私は、「こちらのほうがよりハッピーでいい暮らしができますよね」という「あるべき姿」を目指すことで、この世界を良くしていくという社会観が重要になってくるのかなと思っています。そういう社会観を“妄想”するためには「リベラルアーツが重要だ」と社内で言っています。

髙橋:AIを単なる仕事の効率化ではなく、企業の成長に活用するためには、自社が事業を通じてどんな未来を実現したいかをしっかり決める必要がありそうですね。

岡田:ここが今一番、日本企業のボトルネックになっている部分だと思っています。今までは問題が明確で、それを解決すれば業績が上がった。ロジックを積み重ねて「こうすべき」と決めるのでは駄目。

 今後はそれぞれの企業が「われわれはこういう世界をつくりたいから、こうした事業をやっていく」といった理想を掲げて取り組まなければならないでしょう。これから企業のリーダーには「是が非でもこういう世界をつくりたい!」という"妄想力"が大事だと思います。

 日本企業がiPhoneを生み出せなかったのは、まさにそこだと思います。なぜiPhoneは売れないのかをロジックで説明されると確かに納得感はある。マーケティングリサーチでも「そんなものは要らない」という話になってしまう。でも今これだけ多くの人が使っているということは、やはりみんなが欲しかった商品だったんです。このギャップをどう埋めていくかが、企業経営の重要なポイントかなと思います。

髙橋:よくAIを導入すると人間の仕事がなくなると言われます。

岡田:新たなテクノロジーが登場するたびに同様の議論がありました。産業革命期のイギリスでも、機械化により自らの職を奪われることを危惧した手工業者による「ラッダイト運動」が起こりました。しかし、仕事はなくならなかったことを歴史が証明しています。