日経ビジネスONLINE Special週刊日経ビジネスオンライン SPECIAL日経ビジネスオンライン

第5回・豊臣秀吉――竹中半兵衛

水谷 俊樹 作家・漫画原作者
日経BP総研 中堅・中小企業ラボ

2018年8月13日(月)

これぞと思う人材を採用し、手塩にかけて育成する。その目的は、育てた優秀な人材を事業に投入し、成果を上げることにある。

これは戦国時代でも同じ。戦国三英傑の一人である豊臣秀吉はそのために抜群の才を発揮した。そして秀吉の天下統一事業の実現のために多くの人材が結集した。

なかでも竹中半兵衛は、浅井・朝倉攻めから中国征伐にかけて秀吉を支え、織田家における秀吉のランクを大幅に押し上げた逸材であった。

自分より戦略手腕に勝る半兵衛を秀吉はどのようにして家臣として仕えさせることができたのか。

秀吉は相手が何を考え、何を欲しているかを的確に把握し、その意を酌んで動くことができたという。

現代ビジネスにおける優れた上司になる条件――そのヒントを秀吉と半兵衛のエピソードから探る。

美濃国・菩提山城のとある庵。旅の僧侶に扮した秀吉は、その力を乱世を終わらせるために使ってほしいと半兵衛を説得したという(イラスト=月岡エイタ)
美濃国・菩提山城のとある庵。旅の僧侶に扮した秀吉は、その力を乱世を終わらせるために使ってほしいと半兵衛を説得したという(イラスト=月岡エイタ)
[画像のクリックで拡大表示]

「人材を育成できない上司は、部下に慕われていない」

 空前の“売り手市場”のなか、苦労して獲得した人材が育成の過程であっさり辞めていく。

 このような問題に頭を抱える企業の担当者は多い。

 ――時間も費用もかけて採用を決めた人材だった。

 面接時から自社のビジョンを説いてきた。その反応は悪くなかった。

 入社後の研修でも熱心に耳を傾けていた。職場の雰囲気にも馴染んでいるようにみえた。

 そう思っていた矢先の退職願い……。
(なぜだ)

 周囲は言う。
「アイツは人材を育てることができる器ではないのだ」
(ふざけるな)

こんな光景が、いまもどこかで繰り返されている。

 ただ、織田信長(1534~82)、豊臣秀吉(1537~98)、徳川家康(1543~1616)の“戦国三英傑”であれば、それを見て上司の監督責任を追及したうえで、こう断言したはずだ。
「人材を育成できない上司は、部下に慕われていない」

 そして彼らは、家臣を育てられる主君の前提として、まずは“自らが家臣に信頼されなければならない”と説く。

 上司は部下に対して、自社のビジョンを咀嚼(そしゃく)して自分の言葉で語り、自らの行動をもって示さなければならない。それを実践してこそ部下は上司を信頼し、慕うようにもなる。
「この人が言うならば――」

 この関係を築いてはじめて部下に上司から“学ぼうとする心”が芽生える。

 ここにようやく人材育成がスタートする。

 ――そもそも自分は自社のビジョンを共有しているか? いま一度、見直す必要があるかもしれない。