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第8回・豊臣秀吉――石田三成

~信長・秀吉・家康はいかに逸材を発掘し、活かしたか~

水谷 俊樹 作家・漫画原作者
日経BP総研 中堅・中小企業ラボ

2018年11月19日(月)

鷹狩りを好んだといわれる秀吉だが、そこには領内をくまなく見て回り、優れた人材を発掘する狙いがあった。そうして見出されたのが石田三成だ。

三成は、「太閤検地」や「刀狩り」など秀吉が新たに打ち出した施策のほとんどに関わり、秀吉の天下統一事業をプライドとやりがいをもって推進した。三成は、いわば秀吉にとって自らの手で育てた理想的な内務官僚だった。

今回は秀吉と三成の主従関係から優秀な人材の発掘と育成について考察する。

三献の茶――相手の状況・要求を瞬時に察知して対応する、この聡明さに感じ入った秀吉は三成を城に連れ帰った(イラスト=月岡エイタ)
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三献の茶――相手の状況・要求を瞬時に察知して対応する、この聡明さに感じ入った秀吉は三成を城に連れ帰った(イラスト=月岡エイタ)

時代錯誤の、決めゼリフから漂う“小物感”

 離職率の高い企業の上司が部下に対してよく使う常套句がある。

「お前のためを思って言っているんだ」

 これは人を惹きつけられない、人望のない上司が部下を懐柔するのに用いる言葉だ。周囲に聞こえるように言うのは、自分の言動を正当化するためのもの。十中八九、部下のことなど考えていない。

 試しに、しばらく放っておけば、彼はこう言うはずだ。

「お前の代わりはいくらでもいるんだぞ」

 時代錯誤の、決めゼリフから漂う“小物感”――そして、彼の傍らに目を向ければイエスマンばかり。

「そうですか、わかりました」

 そう言って部下が辞めたあと、彼は周囲にこう愚痴る。

「なんで、うちは優秀なヤツばかり辞めて、使えないヤツばかり残るんだろうな?」

(・・・・・・)

 極端な売り手市場により、各業界が新規人材の獲得にしのぎを削るなか、既存社員の離職も大きな問題となっている。離職理由は「人間関係」「労働環境」「給与・待遇」などさまざまだが、現時点で離職の兆候がある人材を繋ぎ止めたいのであれば、ひとまず「給与・待遇」を見直せばよい。

 ただ、より高く自分を買ってくれるところを選ぶのは、現在も昔も変わらない。 “お金”によって繋ぎ止めた人材は“お金”で去っていくともいう。ならば、離職理由の大半を占める「人間関係」の改善も含め、仕事に“プライド”を持ち、“やりがい”が実感できる職場環境づくりに力を入れてみてはどうか。

 天下人・豊臣秀吉(1537~98)は、多くの優れた人材を獲得し、その潜在能力を開花させた。

 秀吉が多くの人々を惹きつけた理由の一つに“素直さ”があげられる。彼は家臣に間違いを指摘されても正しいと判断すれば、素直に意見を聞き入れた。

「すまないが、わしにもわかるように教えてくれぬか」

 そして秀吉は相手が誰だろうと敬意を払い、自分にない意見は積極的に取り入れた。

「やってみろ。責任はわしがとる」

 もちろん、秀吉は家臣の「給与・待遇」にも気を遣っただろう。ただ、それ以上に家臣たちは彼の天下統一事業に携わることに、まさに“プライド”を持ち、“やりがい”を感じていたのではないだろうか。