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第4回・大災害で得た学びから新たな価値が生まれた

なぜ「お客様のために」が形骸化せずに社員に根付いているのか

――アスクルで特徴的なのは、非常時の社員の行動です。火災のときにも大勢が自主的に他の物流センターへ出荷支援に向かったそうですね。それを社長が、あるインタビューで「義勇兵」と表現されていたのが印象的でした。

岩田:アスクルは「お客様に明日届く」ということを社名にして、それを守っていこうとやってきた会社です。まだ規模が小さかったときから、役職などに関係なく「トラブルが起きたらみんなで応援に行く」という文化があります。

地方自治体と災害時協定を結ぶ。災害時協定を結んだ後藤圭二吹田市長(右から2人目)が参加したAVC関西の開所式。
埼玉県日高市とも災害時協定を締結。
提供する商品の一例。

――そういう精神は、どうやったら根付くものでしょうか。

岩田:アスクルを作ったとき、「お客様のために進化する」という理念を掲げて、お客様への思いを私が10行くらい書いたんですね。その中に「お客様のためにベストを尽くしているか」というのがあって、やれることはなんでもやろうということをずっと言い続けています。

 「お客様のため」と言っても、時間が経つにつれて形骸化するものですよね。とくにeコマースは、ともすると勝手に動いているかのようになってしまう。

 三芳の火災では全体のおよそ22%の出荷が停止しました。当社はBtoBのアスクルとBtoCのロハコという事業がありますが、まずはビジネスの生命線であるアスクルの復旧を優先しようと決めました。そのためロハコの荷物は注文から12日後に出荷するような形になってしまったのですが、それにもかかわらず注文をいただいたんです。それでみんないてもたってもいられなくなり、1カ月にわたってほぼ全社員が平均6、7回、のべ4300人が物流センターに入って出荷作業を行いました。

――なぜアスクルでは「お客様のため」が形骸化しないのでしょう。

岩田::「3.11」のような震災や設備の故障など、トラブルを乗り越えてベストを尽くすという局面は定期的に起こるんです。そのたびにみんなが行くということが伝承されていく。中途採用が中心の会社ですから、入社の際もそういう精神に賛同してくれるかどうかを問いかけています。大企業を辞めて、「メイフラワー号に乗るか」と。

 新大陸を目指す船に乗り込み、もし水が漏れていたらそれに気付くだけではなく、自ら水を手で押さえ、仲間を呼んでかきだせるような人でないとダメ。そういう話をして新しい人を誘い、コアの文化を作ってきました。

 また、創業以来行っている毎週月曜の30分間の朝礼の中でも、15分程度ですが、私が社員に直接語りかけています。内容を考えるのも結構大変ですよ。絵空事や形だけの話では、「何でわざわざこんな時間を取られるんだ」となる。「本気で社員と共有したいこと」を自分に問いかけてから、いつも朝礼に臨んでいます。

――働き方改革では、働きやすさとともに社員の働きがいが重要なテーマの一つです。アスクルの社員は「お客様のため」ということに誇りをもち、それが困難な局面を乗り越えることでより高まっているということでしょうか。

岩田:そうですね。また、最近、本社の向かいにオフィスをもう一カ所借りて「フューチャープラットフォームアーキテクチャ」という組織を立ち上げました。物流とテクノロジーを合体して、もう一段ロジスティクスの力を強化していくことが狙いです。250人くらいが引っ越していったばかりなのですが、まだフロアには何もないんですよ。キャンプ用の大きなテントが2基張ってあってその中でミーティングしたり、アウトドア用のイスに座ってひとりアイデアを練ったり。未来への前線基地をゼロからみんなで作っている最中です。組織が硬直しないようにシャッフルし、社員の開拓者精神を奮い起こしてエネルギーと鮮度を保つのが社長の仕事だと思っています。