世界最大の海運企業とIBMの挑戦ブロックチェーン技術を活用したエコシステム構築〜非効率なサプライチェーンを劇的に改善〜

グローバルに事業展開する海運サービス企業、マースクラインとIBMは、ブロックチェーン技術をベースとした国際貿易プラットフォーム「TradeLens」を共同開発した。2018年12月に商用サービスを開始したこのプラットフォームは、非金融領域におけるブロックチェーン活用の先行事例として、注目を集めている。ブロックチェーンは今後の企業ビジネスをどのように変えるのか。キーパーソン2人に聞いた。

非金融領域へ広がるブロックチェーン

──ブロックチェーンのビジネス活用が加速しています。特に非金融領域での取り組みが活発化しているようですが、この状況をどうご覧になっていますか。
マースクラインAS 北アジア コマーシャルマネージャー トレードレンズ 博士(経営学) 平田 燕奈氏
マースクラインAS
北アジア コマーシャルマネージャー
トレードレンズ
博士(経営学)
平田 燕奈
髙田
 当初、ブロックチェーン技術は金融分野で活用されてきましたが、最近は、あらゆる業界で活用が拡大しています。こうした中、海運サービスの世界的企業であるA.P. モラー・マースク(以下、マースクライン)とIBMは、ブロックチェーンをベースとしたグローバルなサプライチェーンプラットフォーム「TradeLens(トレードレンズ)」を共同で開発し、2018年12月に商用サービスを開始しました。広くサプライチェーン分野でのブロックチェーン活用のモデルケースになり得る先行事例だと当社は考えています。

平田
 このTradeLensを開発した背景には、海運業界が抱えている多くの課題があります。これまで海運業界はIT活用が遅れているといわれてきました。例えばエアラインの場合、利用者はPCやスマホで簡単にチケットを予約し購入することができます。一方、海運サービスでは、荷主が自社コンテナの所在地を調べるだけでもかなりの時間を要します。その理由の1つとして、原産地証明書や税関申告書、検疫証明書など、無数の「紙」の書類が残っていることが挙げられます。そのため、サプライチェーン全体が可視化されておらず、各所で非効率が発生しているのです。

髙田
 業務プロセスから紙の書類を排し、取引情報をブロックチェーン上に移行することで、参加者がリアルタイムに情報にアクセスすることが可能です。そうすれば、自社の荷物の状況を容易に把握できますし、後続プロセスの業者が作業の段取りを事前に組むこともできるようになります。

日本アイ・ビー・エム株式会社 インダストリー・ソリューションズ事業開発 ブロックチェーン・ソリューションズ 事業部長 髙田 充康氏
日本アイ・ビー・エム株式会社
インダストリー・ソリューションズ事業開発
ブロックチェーン・ソリューションズ
事業部長
髙田 充康
 ブロックチェーン技術は情報の改ざんが難しいため、紙ベースの取引で問題になりがちな不正行為のリスクも抑制できます。人による確認プロセスが省略でき、サプライチェーン全体のリードタイム短縮につなげることも可能になります。つまりブロックチェーンは、「時間」「コスト」「情報の正確性」という3つの課題を一度に解決する新しいテクノロジーなのです。これはあらゆるビジネスに存在する課題解決につながります。IBMは、早い段階から多種多様な分野でブロックチェーン活用に着手し始めてきました。

平田
 TradeLensの取り組みは、2014年にEUが後援する貿易電子化に向けた研究イニシアティブ(CORE)からスタートしています。世界的に海運サービスの効率化を進める機運が高まる中、マースクラインもそのイニシアティブに当初より参加していました。そんな中、2016年にIBMの幹部からマースクライン社にブロックチェーン活用による業界課題解決のアプローチがあり、2社の歩みがスタートしました。

──なるほど。では、ここからはTradeLensの中身をひも解きながら、ビジネスにおけるブロックチェーンの有効性についてさらに聞いていきたいと思います。
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TradeLensが海運サービスにもたらす効果は? ブロックチェーンはこれからの企業ビジネスをどう変えるのか?

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