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JR東、AIでお問い合わせセンターを改革

東日本旅客鉄道株式会社(以下、JR東日本)のお問い合わせセンターには、毎日数千件から数万件にも及ぶ大量かつ広範囲にわたる質問が顧客から寄せられてくる。これに対応するオペレーターには高度な熟練が求められるため、応答時間や応答効率など個人間のスキルや能力に格差が広がっていた。この課題を解決すべくJR東日本のサービス品質改革部門は研究部門とタッグを組み、IBM Watsonを基盤とするAI(人工知能)を活用したシステムをスモールスタートで導入。アジャイル開発手法により段階的な知識の拡充と機能の拡張を図りながら、「お問い合わせセンター業務支援システム」を構築した。

1人のオペレーターが
あらゆる問い合わせに対応

岡本みちの氏
東日本旅客鉄道株式会社
鉄道事業本部 サービス品質改革部 課長
岡本みちの

 関東・甲信越から東北までの広範な地域を営業エリアとするJR東日本。鉄道の総延長距離は69線区延べ7457.3kmに達し、1日あたり約1750万人の乗客が利用する。そして現在、JR東日本の事業は本業である鉄道輸送のみならず、駅ビル・駅ナカの商業空間を生かした生活サービス事業、不動産・ホテル事業、Suica(スイカ)をはじめとするICカード・クレジットカード事業などへと多角化している。

 「鉄道業界No.1の顧客満足度」を目指し、これらの事業および主管部門を横断する形で2010年7月に立ち上げられたのがサービス品質改革部であり、その中核業務として「お客さまの声に徹底的にこだわる」という理念を体現するカスタマー・チャネルとしてのミッションをJR東日本お問い合わせセンターが担っている。

 だが、そこに寄せられてくる顧客の声は広範な領域にわたる。同社の鉄道事業本部 サービス品質改革部の課長でありお客さまの声グループリーダーを務める岡本みちの氏は、「ご案内する内容は列車時刻や運賃・料金、空席などを基本としていますが、実際には各地で開催されるイベントや宿泊、企画商品に関するものなど、あらゆる質問が飛び込んできます。また、件数自体も非常に多く、1日あたり数千件から数万件に達します」と話す。

神田喜之氏
東日本旅客鉄道株式会社
鉄道事業本部 サービス品質改革部
お客さまの声グループ
神田喜之

 しかも、問い合わせの内容ごとに専門のオペレーターが配置されているわけではない。同社の鉄道事業本部 サービス品質改革部 お客さまの声グループの神田喜之氏は、「一般的なコールセンターでは、お客さまの質問内容をあらかじめプッシュダイヤルなどで絞り込んだ上で、担当のオペレーターに取り次ぐといった対応を行っているケースも多く見られます。しかしJR東日本ではお客さまの利便性を第一に考え、いただいた電話をすぐにオペレーターにつなぐ体制をとっています。すなわち電話に出た1人のオペレーターが、お客さまのあらゆるお問い合わせに対応することになります」と話す。

 当然のことながら、複雑な問い合わせになると頭の中の知識だけでは対応できず、様々な社内システムや膨大な紙の資料をその場で参照しながら、適切な回答を探し出さなければならない。顧客に迅速にレスポンスするためには、「どこに、どの情報が記載(蓄積)されている」というインデクス(メタ知識)を身につける必要があり、オペレーターには高度な熟練が求められることになる。同社はこの課題解決として「AI活用」という手段を検討することとなった。