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量子コンピューターがもたらすビジネス・インパクトとは?(後編)

前編では「量子コンピューターとは何か」「ビジネスにどのようなインパクトをもたらすのか」についてキャスターの堀尾正明氏が、日本IBMの研究開発担当の森本典繁氏と戦略コンサルティング&デザイン統括の池田和明氏に聞いた。後編では、量子コンピューターはいつごろ実用化されるのか、経営者にはどのような発想やスキルが求められるのかなど、量子コンピューターの活用に向けた心構えや準備すべきことなど、より現実的な話題を取り上げる。

問題を定義してモデル化する
能力が問われる時代に

堀尾正明氏
キャスター
堀尾 正明
Profile ◎ 元NHKアナウンサー。現在はTBS「ビビット」、BS-TBS「諸説あり!」、日本テレビ「誰だって波瀾爆笑」などに出演中のほか、講演会やイベント司会など精力的に活動している。

堀尾 量子コンピューターをビジネスに生かす。そのために経営者に求められることは何でしょうか。

池田 自社が直面する事業環境の変化、自社のビジネス、経営課題を適切にモデル化・定式化できれば、その可能性を探索し、最適な解答が得られるようになります。そこで経営者には、問題を定義する能力が求められます。また企業内にその問題を適切にモデル化・定式化する能力が必要になるでしょう。

森本 難しいのは発想の転換です。私たちは半世紀にわたって0/1のコンピューターに慣れてきました。そのやり方で処理できないことは考えてもムダだと思ってきたわけです。量子コンピューターが使えるようになれば、その発想自体が足かせになります。0/1の縛りから抜け出して、クオンタム(量子)ネイティブな発想を持てるかどうかが重要です。

堀尾 それを前提として問題を考え、モデル化したり定式化することが求められるわけですね。なかなか難しいですね。

池田 確かに難しいことですね。自社や自分が接する、様々な事象を適切なフレームの中に切り取り、それを構造化するスキルが必要です。

堀尾 これまでとは違った素養が求められるというわけですね。

池田 大事なのは、他社の先行事例や過去の成功体験に学ぶだけではなく、自身の視点から課題の本質を見極めて問題を設定する能力を磨くことです。

 IBMの戦略コンサルティンググループは、経営者の問題設定の支援、そしてその問題のモデル化・定式化を行い、量子コンピューターをソフトウェアにつなげるサービスを開発しています。

スパコンを超える計算能力が
3年後には実装される

堀尾 ビジネスが大きく変わり、経営者にも新たなスキルが求められる。具体的にどのような業種・業態で利用されるようになるとお考えでしょうか。

池田 金融やプラント、化学、運輸、建築、建設など、多くの要素を組み合わせたモデル化を必要とする業界が親和性が高いと思います。前編でも触れたサプライチェーンや交通といった産業や、社会のインフラ領域でも使われていくと考えられています。

堀尾 災害予測などにも使えるといいですね。

池田 量子コンピューターはビッグデータを必要としません。予測するためのモデルがつくれれば有効かもしれません。

堀尾 将来的にはスマートフォンなどにも搭載されるようになるのでしょうか。

森本 クラウドを介して「問いを投げかけて答えを得る」といった形で利用することになると思います。ただ、大事なのは解くべき問題の定義です。何が競争優位になるのかを見極めて課題解決に取り組むイシュードリブンなアプローチが重要です。

池田 まさにそれが経営者に求められる役割です。そもそも何が問題なのかを定義できれば、モデル化、定式化にも取り組めます。その領域は私たちコンサルタントがお手伝いしていきます。

堀尾 量子コンピューターはいつごろ実用化されるのでしょうか。

池田 3年後にはさらに改良が進み、現在のスーパーコンピューターでも解けなかった問題が解けるようになるといわれています。実用化は目前に迫っています。その性能をビジネスに生かせるかどうかは大きな差につながっていくことになるでしょう。

ハード、ソフト、ビジネスを
一貫してカバーするIBM

堀尾 3年後には量子コンピューターが使われるようになる。IBMはその世界でも先行しているのでしょうか。

森本 IBMではすでに20の量子ビットを持つ商用量子コンピューター「IBM Q」を開発し、クラウドを介して提供しています。今年5月には慶應義塾大学に研究拠点「IBM Qネットワークハブ」を開設し、日本企業4社にも参画してもらっています。私たちが開発しているのは、どんな問題にも対応できる汎用型の量子コンピューターです。特定の問題を解くためのものではありません。ビジネスに大きなインパクトをもたらすものと考えています。

 課題は搭載する量子ビットの数を増やすことと、それぞれの量子ビットの安定度を高めることです。また、問題を解くための演算方法であるアルゴリズムも充実させなければなりません。現在はこうしたハード、ソフトの両面から開発に取り組んでいます。2~3年後にはできることがさらに増えているはずです。

堀尾正明氏・池田和明氏・森本典繁氏

堀尾 量子コンピューターにおけるIBMの強みはどんなところにあるのでしょうか。

森本 まず量子ビットをつくる技術を持っていることです。量子が発信するエネルギーはとても小さなもので、それを読み取るには、物質の熱振動のエネルギーが最低になる絶対零度の環境において、超伝導状態で量子ビットの信号を拾わなければなりません。量子ビットをつくるには、この超伝導状態をつくる技術と微小な信号を読み取る技術、そして素子を操作する技術が必要です。IBMには全てにおいて世界最先端の技術がそろっています。さらに量子コンピューターを実用化するためには、ハードウェアだけでなく、量子ビットを利用するためのソフトウェア、基盤としてのクラウド環境も必要です。私たちは全ての技術を持っています。

池田 量子コンピューターをビジネスで利用するためには、戦略的な視点からのアプローチが欠かせません。私たちはコンサルティングの実践を通じて、複雑な問題を構造化する能力やビジネスモデルをデザインする能力を磨いてきました。それを使ってビジネスと量子コンピューターとをつないで、お客様に新たな価値を提供していきます。

可能性のコンピューティング実現
IBMは、ハードウェアとソフトウェア開発、企業で活用するためのコンサルティングまで、一貫して支援する能力を備えている
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