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工期半減を実現したCC-Link IE

三菱自動車工業水島製作所は、岡崎製作所から移管する形で2018年1月に稼働を開始したRVRのボディ溶接ラインに、産業用オープンネットワークCC-Link IEを導入した。実質半年という短期間の移管プロジェクトを無事完遂できた理由の一つが、CC-Link IEにより制御系と安全系、情報系の3つのネットワークを一本化できたことだ。さらにエッジコンピューティングにより、生産現場での予知保全実現を目指した活動も進めているという。

 岡山県倉敷市の三菱自動車工業水島製作所は、プレス加工から最終組立まで自動車生産の全工程の機能を持つ工場。主に軽自動車を生産、年間生産台数は約24万2000台(2017年度)にのぼる。

 同社は2017年5月、愛知県岡崎市の岡崎製作所が担っていたコンパクトSUV「RVR」の生産を、水島製作所に移管することを決定。稼働開始は2018年1月に設定された。生産テストの期間を考慮すると、移管は実質的に半年で終えなければならない。対応策を検討する中で同社の生産技術部門は、3つに分かれていたネットワークに着目した。

 岡崎製作所でのRVRの生産ラインでは、機器をコントロールする制御系と、事故防止の安全系のネットワークに加えて、後付けの形でEthernetによる情報系のネットワークが敷設されていた。情報系ではラインごとの生産台数のほか、溶接ロボットの動作情報や治具の使用履歴などを取得し、品質管理に大きな効果をもたらしている。そこで水島に移管するラインでは、当初から情報系も敷設することにしたが、3つを同時に導入するのは工期の面で無理がある。また情報系で取得している情報量も大きいため、それなりの帯域も必要だ。「新しいラインを早期に立ち上げながらも、情報は確実に取ることのできるネットワークが必要でした」と同社生産技術本部溶接組立生産技術部マネージャーの曲田吉史氏は言う。

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検証で利点を確認し選択

 その同社が注目したのが、産業用オープンネットワークのCC-Link IEだ。CC-Link IEは1つのケーブルで制御系、安全系、情報系を伝送できるネットワーク。また1Gbpsという広い帯域を持ち、大きな情報系データを制御系や安全系に影響を与えることなく伝送できる特徴もある。

 同社はこのCC-Link IEのフィールドネットワーク「CC-Link IE Field」を、RVRのボディ溶接ラインに採用。プラットフォームのサブラインで、溶接を行うロボット約50台をコントロールするネットワークとして導入した。3つ必要だったケーブルを1つにできたことで、「導入に要する工期は想定の半分で済み、エンジニアの作業量も抑えることができました」(同社生産技術本部溶接組立生産技術部主任の西孝氏)。さらにシーケンサには、国際安全規格に適合した三菱電機のMELSEC iQ-R安全シーケンサを採用。1本のネットワークでも安全系のシステムを確実に動作させるなど、高い安全性を実現している。

 曲田氏は「実は数年前から、どのネットワークが工期短縮に効果的か、比較検討を続けていました」と明かす。試験設備を作り、すべての産業用ネットワークについて検証を繰り返した結果、選んだのがCC-Link IEだったという。その選択が間違いなかったことが、実際に半減した工期で実証されたわけだ。

機器ベンダに対応を働きかけ

 ただしCC-Link IE採用には一つのハードルがあった。同社がRVRのラインに必要と考えていたフィールドバスユニット「EX600」が、検討時点ではCC-Link IEに対応していなかったことだ。情報系のネットワークも敷設し、生産現場の末端の機器の情報までシーケンサに収集することを志向していた同社にとって、単なるオンオフ情報だけでなくアナログ値もシーケンサで取れるようにするEX600は、新しいラインに必須だった。

 しかしそれ以上にCC-Link IE導入により得られるメリットは大きい。そこで同社はEX600の開発元であるSMCにCC-Link IEへの対応を働きかけたことで、EX600のCC-Link IE対応が実現。最終的に同社が理想としていたネットワークが完成したのである。

「上位に全部集めるのは非現実的」

曲田 吉史 氏
三菱自動車工業生産技術本部
溶接組立生産技術部 マネージャー

 同社がEX600でアナログ値の収集にこだわったのは、IoTによる予知保全の実現を目指しているため。生産ラインには、ワークの位置を判定する近接スイッチなどさまざまなセンサのほかに、エアシリンダやバルブなどさまざまな機器が数多く配置されている。これらは経年劣化による故障が避けられず、一律の定期交換でも十分防ぐことはできない。そこで機器の実際の稼働情報、具体的にはエアシリンダならば圧力やシリンダ位置、バルブならば流量などのアナログ情報から、故障の予兆をいち早く見つけ出すシステムを実現しようとしているのだ。

 しかしその情報を分析するために、上位のサーバにすべて集約するのも非現実的。「情報が全部でどのぐらいの容量になるか試算してみたら、軽くペタバイトを超えました。そんなサーバをいくつも置くようなことはできません」(曲田氏)。

 そこで同社ではエッジコンピューティングの考え方を導入し、情報の種類によっては上位のサーバに集めず、現場で分析してその場で結果を返すシステムにする。現場の分析には産業用PCを利用し、リアルタイムに近いレベルで分析結果が求められる情報はその場で分析する。「特にセンサ系の情報はその方が適していると考えています」(曲田氏)。

 現在同社は、個々の機器から集めたデータでどんな情報が得られ、そのためにはどの階層で分析すべきかを、岡崎製作所の研究施設でテスト中だ。具体化したうえで水島製作所のラインに展開する方針という。

エンジニアの「働き方改革」推進

西 孝 氏
三菱自動車工業生産技術本部
溶接組立生産技術部 主任

 同社が予知保全の実現を目指すのは、故障によるダウンタイムの削減だけが目的ではない。いつ故障が発生するかを事前に知ることによって、保守作業の計画化も可能になると考えている。

 「保守作業は突発的なケースが多く、そのたびに交換部品の手配だけでなくエンジニアのアサインなどに追われます。予知保全でスケジューリング化できるようになれば、事前に準備しておくことが可能になり、エンジニアのやり繰りもつけやすくなります」(西氏)

 労働人口の減少で、ものづくりの現場でもエンジニア不足が今後深刻になるとみられる中、従来のようなエンジニアの“力技”に頼った対応はできなくなる。問題を根本的に解決するためには、CC-Link IEによるネットワークの簡素化と予知保全による保守業務の計画化で、エンジニアの働き方改革を進めなくてはならない。水島製作所の新しいRVRの生産ラインは、そこまで見越して立ち上げられたのである。

CC-Link IE Fieldによるボディ溶接ラインの制御システム。一般制御系、安全制御系、情報系を一つのネットワークに集約している
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