i-Construction実践セミナーレビュー(オートデスク) EU諸国のBIM義務化の動向から日本の義務化施策の今後を読み解く

オートデスク株式会社 アジア太平洋地域 土木事業開発統括部長 福地 良彦 氏

欧州を中心に世界各国でBIM(Building Information Modeling)の義務化が進んでいる。1996年から建設の情報化に取り組んできた日本でも、国土交通省が2020年義務化を目指し、旗を振る。ところが建設の情報化の歴史をひも解くと、i-Construction施策の中でCIM(Construction Information Modeling)が位置付けられるようになったころから、受注者のためのBIM/CIMから発注者のためのBIM/CIMへ方向転換した印象が強い。背景にはどのような事情があるのか――。
EU諸国の動向を踏まえ、国交省はなぜBIM/CIMの義務化を推し進めているのか、今後どのような施策を展開しようとしているのか、BIM/CIM義務化の背景と将来を読み解いていく。

 i-Constructionを国土交通省がなぜこれほどまでに急速に推進しようとしているのか。本日は世界各国のBIMの義務化を支援する立場から、それをみなさんと共有する時間を持ちたい。

 先進国では欧州を中心に、アジアでもシンガポール、香港、韓国などで、BIMを義務化しています。業務や工事を受注するには、BIMの技術が必要です。このほかの国々も2020年くらいまでには義務化を終える見通しです。各国とも発注者主導でこの施策を推進しています。

 日本の情報化の歴史を簡単に振り返っておきましょう。始まりは、1996年の建設CALS整備基本構想です。2012年はCIM元年。直轄工事での試行が始まりました。2015年にi-Constructionの施策が公表され、17年にはCIM導入ガイドラインが公表されます。こうしてi-Constructionの中でCIMが位置付けられました。

 この辺りから、受注者のためのBIM/CIMから発注者のためのBIM/CIMという印象が強まります。

 実は国交省では5年前から、先進諸国にBIM/CIMの調査団を派遣していました。2016年には施策立案や施策推進の参考になる国として英国を選び、翌17年には担当機関と技術提携契約を交わします。ここから、英国との間で義務化への情報交換が始まりました。

 施策立案で参考にしているのは、日本のJIS(日本工業規格)にあたる英国標準BS「PAS 1192-2」や「PAS 1192-3」で、設計・施工段階や運用段階でBIMを用いて実現されるプロジェクトの情報管理要件を定めています。

英国の「PAS 1192-2」を基に情報流通プロセスを標準化

 スタートは、赤丸内に「Capex開始」と書かれた箇所です(図1)。ここでは「EIR(発注者情報要件)」が重要です。発注者がどういう情報をどういうタイミングで要求するか、それを最初の段階で明確に定める必要があります。

図1 「PASS1192-2」で定める情報流通プロセス

 事業者は受注に向けて、そこで定める要求仕様に従ってBIM実施提案(BEP)を行います。それを基に受注者が選ばれます。その後、受注者はマスター情報配信計画(MIDP)を立て、各フェーズで絶えず発注者との間で情報を交換しながらその計画を進めていきます。

 昨年5月には、国交省から業界団体にアンケートが行われました。2017年度にBIM/CIM活用業務を発注することを念頭に置いたものです。

 このアンケートでは、受注者に検討を促すポイントをリクワイヤメントとして設定し、受注者を選定したうえで、契約後は受注者が自ら作成したBIM/CIM実施計画を基に円滑に事業を進めることが可能か、を問うてきました。「PAS 1192-2」で定める情報流通プロセスを持ち込みたいという国交省の意思表示です。

 近畿地方整備局のホームページには、「平成30年度CIM実施計画書」の案が掲載されています。そこには担当者の配置や工程表の記載例などが示されています。大規模事業の詳細設計や工事ではこのようなBIM/CIM実施計画書の提出を求められます。みなさんは実際に確認して理解しておいてください。

 国際的な標準化に関する活動を行うBSI(British Standard Institute)では2018年末までに資産形成。運用段階の国際標準化(BS-ISO-EN-19650-1, 2)を完了する予定です。また、2020年には関連の国際標準(BS-ISO-EN 19650-3,5)を整える予定です。日本でも自ずと標準化への対応が迫られます。

 国交省がi-Constructionを推進するもう1つ重要な視点が、ROI(投資利益率)という指標です。

 BIM/CIMの導入は投資を伴います。必要なソフトを購入し、教育やこれまでと違う経験も求められます。それでも、投資に見合うリターンが得られるなら、導入に踏み切るべきです。

 オートデスクは、世界各国の発注者を対象にBIM導入のROIに関するワークショップを行いました。BIM/CIMの導入に伴い各関係者が得られるコスト削減の割合を調べると、69%は発注者、17%がゼネコン、10%が協力会社、4%が建設コンサルタント、という結果になりました(図2)。

図2 BIMの導入に伴う関係者のコスト削減の割合

ICT土工や3次元の可視化から2020年見すえた技術の活用へ

 ほとんどの国で発注者のコスト削減効果は大きく、利益が生じます。ライフサイクル全体を考えると、設計や施工の期間に比べ、運用段階が長いためです。基本的には、発注者がメリットを感じる仕組みと言えます。だからこそ、国交省もi-Constructionを積極的に推進しているわけです。

 EU各国のBIMへの取り組みを紹介した「EU BIM Handbook」には、日本語版も公開されています。義務化を進める国や自治体などの発注者がどう取り組むべきかをまとめたものですが、受注者にとっても参考になります。

 この中では一般原則のほか、戦略的な提言が4つの柱でまとめられています。行政によるリーダーシップの確立、ビジョンの共有とコミュニティの育成、協業体制の確立、業界の適応力の拡大です。例えば業界の適応力の拡大では、段階的な能力向上を業界全体で達成することが求められています。

 発注者のアクションに関しては実装レベルにおける推奨事項も提言されています。その中では例えば、BIM能力基準の必要性が指摘されています。能力を適切に評価するだけでなく、関連基準や情報要件などの順守に向けた姿勢を評価することも推奨されています。

 また、技術面では、ファイルベースの情報共有ではなくオブジェクト指向の情報整理と共有が推奨され、人材と技能では役割や責任など業務範囲の明確化がうたわれています。情報管理の役割を設計責任からは切り離し、「CIMマネージャー」「CIMコーディネーター」「CIMモデラ―」といった人材を育成していく必要があります。

 国交省では今年7月、国や自治体など発注者の職員を対象に研修を行います。4Dモデルによる全体工程の把握や二人一組によるロールプレイングなどの演習が予定されています。2020年のBIM/CIM義務化に向け、3Dデータ活用力の養成やクラウドなどを活用した受発注者・関係者間のデータ共有連携が求められます。ICT土工や3次元の可視化だけでなく、2020年を見すえた技術を選択・活用し、義務化への対応を進めてほしいと願っています。

Page Top
お問い合わせ
AUTODESK
オートデスク株式会社
〒104-6024 東京都中央区晴海1-8-10 晴海アイランド トリトンスクエア オフィスタワーX 24F
https://www.autodesk.co.jp