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導通損失を従来比で42%も大幅低減 第9世代のパワーMOSFETが登場。損失のさらなる低減を通じて高効率な電源回路の実現に寄与

※記事中の情報につきましては、すべて取材時点のものとなります。
スイッチング電源、インバータ、モーター駆動などに欠かせないパワーMOSFETで業界をリードする東芝デバイス&ストレージ(以下、東芝)は、同社の第9世代に相当するパワーMOSFET「U-MOSⅨ-H」(ユー・モス・ナイン・エイチ)シリーズを開発した。プロセスやセル構造の改良により、損失に関わる特性項目を従来品に比べて改善し、回路設計者が求める「高効率」「低発熱」「低ノイズ」を実現したのが特徴である。
露口 招弘(あきひろ) 氏 東芝デバイス&ストレージ株式会社 ディスクリート半導体事業部 ディスクリート応用技術センター パワーマネジメント応用技術部 パワーマネジメント応用技術第二担当 主務

現在の半導体技術の基礎の1つとなっている「MOSFET」(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor:金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)が開発されたのは1959年といわれている(原理の考案は1920年代から30年代)。

MOSFETは2つの方向で発展した。1つが集積回路である。シリコン基板の表面に横型(ラテラル)構造で形成できることや、バイポーラに比べて消費電力が小さいため、ICやLSIへと発展していった。

もう1つがパワー素子としての発展である。オンとオフを制御できるスイッチング素子としての特性を生かし、2重拡散でのチャネル形成により高耐圧化したD-MOS(Double Diffusion MOS)構造の「パワーMOSFET」が開発され、スイッチング電源、インバータ、モーター駆動などに広く使われるようになった。最近はIGBT、SiC、GaNなどの新しいパワーデバイスも登場しているが、歴史の古いパワーMOSFETは主に900Vまでの耐圧範囲で今も重要な役割を果たしている。

スイッチング電源やインバータに組み込まれるパワーMOSFETは、その特性の善しあしが電源回路やシステムのエネルギー効率に大きな影響を与える。特性が悪ければムダな消費電力が増え、積もり積もればCO2の排出増にもつながってしまうからだ。

パワーMOSFETを長年にわたって手掛けてきた東芝が開発したのが、微細化やセル構造の最適化などによって業界トップレベルの特性を実現した「U-MOSⅨ-H」(ユー・モス・ナイン・エイチ)と呼ぶシリーズである(図1)。

「U-MOSⅨ-Hの名称にある『ナイン』は当社にとっての第9世代を意味しています。例えば、導通損失の原因となるオン抵抗を当社の従来品に比べて、単位面積当たりで42%低減※1するなど、回路を設計する方々が切望する、高効率、低発熱、低ノイズといった優れた特性を実現したのが特長です」と、東芝デバイス&ストレージでパワーMOSFET製品を扱う露口招弘氏は説明する。

※1 耐圧30V製品においてVGS=4.5VのときのRonA値(東芝調べ)。
図1 東芝の第9世代パワーMOSFET「U-MOSⅨ-H」の特徴
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フルブリッジ回路の効率を0.3%向上※2

U-MOSⅨ-Hは高性能な汎用低耐圧N-ch MOSFETで、耐圧30V、40V、45V、60V、および100V製品がラインアップされている。

30V、40V、60Vといった標準的なラインアップに加え、40Vではわずかに足りないアプリケーションをカバーするために45Vを開発するなど、かゆいところに手が届くラインアップ構成となっている。また、100V製品は2017年12月に新たにラインアップに加わった最新品種である。

U-MOSⅨ-Hの特長がその性能である。なかでもパワーMOSFETで重要となる以下の4項目の低減を図った。

(1) 導通損失の原因となるオン抵抗:RDS(ON)
(2) ドライブ損失の原因となるゲート電荷量:Qg
(3) スイッチング損失の原因となるゲートスイッチ電荷量:Qsw
(4) 出力チャージ損失の原因となる出力電荷量:Qoss

「MOSFETにおいてはオン抵抗と各電荷量の間にトレードオフの関係があることが知られていますが、U-MOSⅨ-Hでは微細化とセル構造の最適化をさらに推し進めることで両者の低減を図り、結果的に業界トップレベルの性能指標を実現することができました」と、露口氏は説明する。

例えば、ドレイン・ソース間電圧VDSSが60Vの製品において、競合他社が高性能とうたうパワーMOSFETに比べて、RDS(ON)×Qgで8%減※2、RDS(ON)×Qswで25%減※2、RDS(ON)×Qossで32%減※2を達成した(図2)。

その結果、この製品をフルブリッジ型DC/DCコンバータに適用した場合、コンバータ回路の変換効率が0.3%程度向上した(図3)。

「わずか0.01%単位の効率向上を求めるお客様もいらっしゃるほどコンバータやインバータにおいてはエネルギー効率が重要です。そう考えると0.3%は極めて大きな改善であり、U-MOSⅨ-Hならではの強みといえるでしょう」(露口氏)

※2 上記はすべて東芝調べ。
図2 耐圧60V製品における第9世代U-MOSⅨ-H製品
        および競合他社の最新世代製品の特性比較
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図3 耐圧100V製品で構成したフルブリッジ回路における効率などの改善効果
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データセンターや産業機器の省エネ化の一助に

U-MOSⅨ-Hではいくつかのオプションが用意される。まずパッケージに関しては、ダイの熱をパッケージの下面だけではなく上面からも放熱する「DSOP Advance」パッケージが提供される(図4)。ヒートシンクの小型化あるいは削減が図れるだけでなく、ダイの温度上昇が抑えられるため、温度上昇に伴うRDS(ON)の増加が少なくなりさらなる効率向上が狙える。

「U-MOSⅨ-Hの通常パッケージ品を採用されたあるお客様で、設計中に装置の仕様変更が発生した結果、電源の出力電流が増加し、パッケージ温度が社内基準を超えてしまうという問題が起きてしまいました。放熱性に優れながらもフットプリントで互換性のあるDSOP Advance品をご紹介したところ、部品の入れ替えだけで温度が基準値に収まり、遅れなく製品化を進められたという事例もあります」(露口氏)

低ノイズオプションもある。ドレインとソース間に存在する寄生RC成分の適正化を図り、ゲートをオフにしたときのドレイン・ソース間のリンギングを抑えたオプションだ。一般にノイズを抑制するにはゲート信号の立ち上がり/立ち下がりを意図的に遅くする手法が使われたりもするが、このオプションを使えばそうした工夫も不要になる。電源回路周りのEMI対策に有効だろう。

そのほかの特徴として、U-MOSⅨ-Hでは、チャネル温度最高175℃、保存温度-55℃〜175℃が保証される。

開発環境としては、AC/DCコンバータやDC/DCコンバータの主要なトポロジーを対象にしたウェブ上のシミュレータが利用できるほか、Cadence社の回路シミュレーションツールPSpice用のモデルが提供される。アプリケーションノートやリファレンスデザインの拡充も図っていく予定だという。

「IoTの普及やクラウドサービスの拡充などを背景にサーバーや通信機器のインストールベースは増加しており、データセンター全体の省エネ化が急務になっています。インバータ装置や産業機器も同様です。東芝はこれからも高性能なパワーMOSFETの提供を通じて、エネルギー効率に対するニーズに応えられるように、ラインアップをさらに拡充していきます」と、露口氏は取り組みを述べる。

ちなみに東芝では、さまざまなニーズに対応すべく、今回紹介した低耐圧のU-MOSⅨ-Hのほかに、最高800V耐圧のスーパージャンクション型パワーMOSFET、最高900V耐圧のプレナー型パワーMOSFETを提供している。さらにU-MOSⅧ-HやU-MOSⅨ-Hを搭載した車載用低耐圧パワーMOSFETなども展開中だ。

東芝はパワーMOSFETのさらなる高性能化にこれからも挑み続ける。

図4 上面に放熱プレートを設けた「DSOP Advance」パッケージの温度抑制効果
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