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激変する自動車開発、技術領域の連携がカギ

今、世界中のプレーヤーが新時代のモビリティ開発を競っている。コネクテッドカー時代の到来とともに、自動車開発の技術領域(ドメイン)は広範囲に及び、ますます複雑化している。効率的かつ有効な開発プロセスを構築するカギは、各技術ドメインをまたいで情報集約し、システムズ全体を俯瞰した最良アーキテクチャーを導き出すことだ。1月に開催された「Zuken Automotive E/E Design Forum 2018」では、MBSE(Model Based Systems Engineering)を用いたその最適解が提示された。

ますます複雑性を増す製品開発 プロセスの進化が不可欠

 最初に基調講演を行ったのは、本田技術研究所 四輪R&Dセンター 第8技術開発室 室長の永留克文氏である。永留氏は「コネクテッドカー社会は、安全・安心と快適・便利の両面で進化しつつあります」と語り、カーナビや安全運転コーチングなど新サービスの歴史を振り返った。その上で、5Gの移動体通信を想定した研究開発の現状などを紹介し、さらに今後の方向性について次のように展望する。

 「製品は急速に複雑化しています。特にソフトウエアの規模は2000年当時と比べて現在は100倍以上ともいわれています。こうした状況に対応するためには、製品開発のプロセスも進化が欠かせません」

 続いて登壇したのは、オートインサイト代表の鶴原吉郎氏である。鶴原氏は「電動化と自動運転、コネクテッド化という3つのトレンドがある」とし、これらは密接に関係していると指摘する。

 「自動運転とコネクテッド化は不可分ですが、これらと非常に相性が良いのが電動化です。ガソリンエンジンの無人カーによるセルフサービス給油はイメージしにくいと思いますが、電動カーの場合は非接触充電の技術を使えば、無人カーでも比較的容易に充電が可能です」

 3つのトレンドで世界中のプレーヤーがしのぎを削っている中、鶴原氏も「開発プロセスの変革が必要」と強調する。自動運転車におけるソフトウエアのソースコードは7億行にも達するとの予測もあり、MBSEなどの一層の高度化が求められる。

 一方、慶應義塾大学 大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 教授の西村秀和氏は、システムズ・エンジニアリングについて専門的な立場からスピーチを行った。西村氏は「多様な要素が複雑に関係する製品やサービスをシステムとして考えることが重要」とし、モデルに基づくシステムズ・エンジニアリングの有効性を述べた。

 「ドキュメントだけで記述すると、暗黙知が埋もれて伝わりません。システムをモデルで記述することでこうした問題を解消し、なぜそのような要求が導かれたのか、なぜこのような性能に決めたのかといった根拠を、結果として明確に残すことができるのです」

ドキュメントベースの開発からPLM連携モデルベースの開発へ

アラスジャパン合同会社 社長 兼 米国Aras Corporation バイスプレジデント 久次 昌彦氏 / 株式会社図研 取締役 オートモーティブ&マシナリー事業部長 早乙女 幸一氏

 最後のセッションには、アラスジャパン社長の久次昌彦氏と図研 取締役 オートモーティブ&マシナリー事業部長の早乙女幸一氏が登壇。自動車開発におけるMBSEの実践アプローチとPLM(Product Lifecycle Management)との連携などについて語った。

 「従来型のドキュメントベースの開発ではなく、モデルベースの開発を取り入れることにより、データ共有や再利用が容易になります。設計効率を上げ、複雑化する製品の開発を達成することができます」と久次氏は語る。その際、カギとなるのがPLMである。久次氏はこう続ける。

 「MBSEをPLMの世界に展開することで様々なメリットがあります。データの一貫性を確保しつつ、データ間の関連性や履歴などを示すことができ、共有やコラボレーションもしやすくなります」

 PLM活用の具体的なメリットを説明するために久次氏が挙げたのがトレードオフの検証だ。例えばブレーキである。時速100キロで走行しているときに、ブレーキを踏んで時速70キロに落とす場合、発熱量を一定以下に抑えるという要求があるとしよう。PLMと連携していれば、こうした要求を満たすブレーキ部品の組み合わせを、過去に実績のあるモデルの中から選択することができるのである。

MBSEと各技術ドメインの連携
最適アーキテクチャーを導く環境づくりを

 続いて早乙女氏は、MBSE運用のポイントを指摘する。

 「次世代モビリティにはエレクトロニクスやソフトウエア、サービスなど、多様な技術ドメインが関わるため、システムズ全体を俯瞰したアーキテクチャーの導出が不可欠です。そのソリューションとして有効なのがMBSEです。ただMBSEと各ドメインが隔絶した状態では効果は出ません。各ドメインからの情報を、MBSEを用いていかに活用していくかがポイントです」

 とはいえ、システムズ・エンジニアリングのモデリング言語であるSysMLで関連するドメインの情報をすべて書き換えるのは膨大な労力を必要とするため、事実上不可能だ。早乙女氏は「MBSEと各ドメインを連携させるアプローチが現実的」と説明する。

 連携すべき重要情報は大きく3つ。第1に各ドメインからMBSEに向けて提供する「トレードオフ判断情報」。第2にMBSEから各ドメインに提供する「要求/検証仕様情報」。第3は相互にやり取りする「変化点・影響範囲に関する情報」だ。こうした情報を互いにやり取りすることで、ドメインをまたぐ問題の発生を未然に防ぐ。

 関連するドメインで検証した結果をMBSEで総合的に判断し、最適なアーキテクチャーを導くための環境づくりは重要だ。特にエレクトロニクス分野について、早乙女氏は次のような考え方を提示する。

 「システムズ・エンジニアリングと各ドメイン・エンジニアリングが連携することで、MBSEの効果を最大化することができます。そのために、エレクトロニクス開発環境に求められるのが、E/E(電気/電子)情報の体系化。PLMにはこうした情報を有機的に結合する役割が期待されています」

 「要求」から「機能設計」「製造」「保守」など製品づくりには多くのプロセスがあるが、MBSEとPLMが連携することで製品ライフサイクルの統合的な管理が可能になる。各種データを世代管理できることで、例えば物理世界の事象をそのままデジタル環境に再現する「デジタルツイン」といった高度な開発環境の実現へとつながるだろう。

図・効果的なMBSE実現のために目指す形
図▪効果的なMBSE実現のために目指す形
全体で1つのシステムとして機能する有機的連携を実現するため、PLMを土台に据えることがカギ。これによりMBSEデータの世代管理も容易になり、様々なトレードオフ検証はもちろんデジタルツインといった高度なシミュレーションの実現にもつながっていく。

 本セッションの終盤では会場の参加者との質疑応答も行われた。ある自動車メーカー関係者からは「MBSEに取り組んだが、全体像をイメージできていないと難しい」との意見が出た。これに対して久次氏は「教育が重要だと思います。アーキテクチャーへの理解を深め、自ら設計ができるような人材を増やす必要があると感じています」と述べた。

 世界でこのような取り組みは始まっているが、MBSEがどうあるべきかについてはまだ答えが出ていない。そうした中、日本企業の取り組みは必ずしも世界に遅れているわけではないとし、久次氏はセッションおよび今回のZuken Automotive E/E Design Forum 2018を締めくくった。

 製品の複雑化という変化を前提に考えれば、自動車だけでなく、様々な領域において今後MBSEへの取り組みが加速するだろう。多くの企業は今、MBSEを自分のものにしようと様々な取り組みを行っている。

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