「北川村温泉 ゆずの宿」は、ゆずの産地として知られる高知県北川村に建つ温泉施設付きの宿泊施設だ。2018年6月にリニューアルオープン。鉄筋コンクリート造から、地元産スギのCLT(直交集成板)を用いた木造の建築物に生まれ変わった。屋内外の木部は全て、高性能木材保護塗料「キシラデコール」のシリーズ製品で仕上げた。
CLT(直交集成板)を現しで使う――。「北川村温泉 ゆずの宿」はそれを前提に設計された村立の温泉施設付き宿泊施設である。
ロビーラウンジに入ると、吹き抜けの空間。ウオールガーダー(壁梁)や壁柱に用いたCLTパネルの巨大な面が強調されている。
設計を担当した倉橋建築計画事務所設計部主幹の池田尚史氏は「地元産のスギを用いたCLTパネルの見せ場です。広い面ですが、ムラなく、きれいに仕上げることができました」と、満足そうに話す。
同事務所は国内で旅館の改修設計を中心に手掛ける。取締役企画設計部長の龍田章氏は「温泉地ではその特徴をひも解き、デザインに取り入れるように心掛けています」と、設計のポリシーを話す。
2018年6月にリニューアルオープンを果たしたこの施設は、2代目。村では初代の施設が老朽化したことから、地元産スギのCLTパネルを用いた建て替えに踏み切った。
計画建築物は規模からすると、準耐火建築物。CLTパネルを現しで使うには、燃えしろ設計で対応しなければならない。
「しかし構造上必要な厚さを足すと、パネルは厚さ330㎜。構造体としてはごつく、コストもかさむ。対応は困難と判断しました」(池田氏)。
そこで、建築物の間に鉄筋コンクリート造を挟み、耐火でも準耐火でもない規模の小さな2棟に分けた。これなら、CLTパネルを現しで使うことができる。
木部の仕上げには屋内外とも、設計者として信頼を置く屋内木部用高性能木材保護塗料「キシラデコール」のシリーズ製品を用いた。屋外はキシラデコールと同じ性能のままに低臭性を実現した「キシラデコールフォレステージ」で、屋内は外部と同じ色でそろえられる「キシラデコールインテリアファイン」である。色は内外ともに、「カスタニ」で統一した。
池田氏にとっては、再認識の機会もあった。「フォレステージ」の低臭性である。「オープン直後に宿泊してみましたが、露天風呂でも塗料の臭いは気になりません」。今後は仕様書の中で指定していきたい、と低臭性の高さを評価する。
屋内木部はステイン系の塗料で仕上げるのがセオリーという。池田氏は「宿泊施設では開設当初から、ある程度使い込まれたような雰囲気を出そうと塗装します。『インテリアファイン』は、過去にも何度か使用してきました」と話す。
発注者の村や運営にあたる指定管理者側の評判も上々だ。
北川村産業課課長補佐の大坪崇氏は「仕上がりは上出来です。もともと好きな木の風合いを、CLTパネル現しで予想以上に感じ取れる点も、良いですね」と評価する。
支配人の皆谷英明氏は「宿泊施設としての魅力は温泉と料理ですが、建物も山奥ながら斬新と評価されています。CLTの利用も一つの魅力です」と打ち明ける。