2016年4月に発生した熊本地震で甚大な被害を受けた熊本城の復旧が着々と進んでいる。大天守の外装の復旧工事がほぼ終わり、外観の特別公開が始まった。外壁を覆う下見板張りの塗装に採用されたのは「キシラデコールフォレステージHS」。高濃度に顔料を配合し、高い着色性や耐候性を持ち、メンテナンス周期を長くできるのが大きなメリットだ。
2019年10月5日、熊本地震で被災して以来3年半ぶりに熊本城の一般公開(特別公開第1弾)が再開された。大天守外観の復旧が終わったのを記念したものだ。日差しに白く輝いて見える屋根瓦、破風や軒まわりのしっくい、そして黒く塗装された下見板張りの外壁といった装いが、以前の姿のまま復旧された。
「震災直後はあまりの被害の大きさに途方に暮れたほどでした。復旧に当たっては、熊本城のシンボルである天守閣を復興のシンボルと位置付け、優先的に復旧を進めてきました」。そう説明するのは、復旧を手掛ける熊本市経済観光局熊本城総合事務所建築整備班技術主幹の城戸秀一氏だ。
熊本市は16年12月に「熊本城復旧基本方針」を策定。7本柱からなる基本方針の1つに、復興のシンボルとして天守閣の早期復旧を掲げた。大原則は、被災前の状況に戻すこと。ただし、単なる復旧ではなく、これを機に耐震補強やバリアフリー化、内部の展示刷新、防耐火性能の向上などを図る。外観の特別公開が始まった今も、内部では工事が続いている。
「躯体の被災状況を調べるために、外装材や屋根瓦をすべて撤去する必要がありました。調査の結果、躯体は使い続けられることが確認できたので、まず大天守を先行して瓦や外壁を復旧しました」。熊本市経済観光局熊本城総合事務所建築整備班参事の田代純一氏はそう説明する。
熊本城といえば、松本城や岡山城などと並んで「黒い城」として知られる。熊本城の「黒」を強く印象付けるのは、下見板張りの外壁だ。木材保護塗料「キシラデコール」は、そのほかの復元櫓の下見板の塗装で用いた実績があり、性能の高さは確認していた。
今回の復旧工事では、改めて塗料を比較検討。その結果、木への着色の強さがワンランク上の「キシラデコールフォレステージHS」の黒色の採用を決めた。その理由を、田代氏はこう説明する。「天守閣は石垣の上に建っていることに加え、複雑な形状の屋根が架かっています。コストのかかる足場が必要な塗り直しは、そう簡単にはできません。塗料には、メンテナンス周期を長くできる耐久性が欠かせません」。
「フォレステージHS」は、高耐久の木材保護塗料として新たに開発されたものだ。キシラデコールと同様、塗膜をつくらない浸透タイプだが、高濃度に顔料を配合して着色性や耐候性、耐摩耗性を高めている。
基本的には2回塗りでよいが、今回は3回塗りとした。「1回多く塗れば耐候性は上がります。しかも、2回塗りとの違いがひと目で分かるほど『黒よりも濃い黒』になり、熊本城らしくなりました」と城戸氏は話す。
3回塗りの効果はもう1つある。3回塗ったことで、黒く着色した建具や水切りなどの金属部材とも調和する色調になった点だ。その実績をもとに、現在、大天守の隣で復旧工事が進む小天守の外壁でも「フォレステージHS」を採用する予定だ。
復旧工事の進捗とともに特別公開のスケールも広がる。2020年春に第2弾、さらに21年春には天守閣の完全復旧として第3弾を予定する。