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製造業AI活用、PoC疲れを打破するには

「第4次産業革命(Industry 4.0)」の潮流が世界中に広がり、先進国のみならず新興国の企業も、人工知能(AI)を活用した競争力の高いものづくりを目指すようになった。日本企業も、うかうかしていられない状況だ。近年、そんな危機感に背中を押されて、AIの活用を模索するところが増えてきた。ところが、システム導入に向けて概念実証(PoC)を行ってはみたものの、そこから先になかなか進めない。繰り返されるPoC自体に疲れてしまったという企業も多い。どのようにPoCに取り組み、生産現場への導入、運用につなげればよいのか。製造業向け情報システムの構築で豊富な実績を持つワイ・ディ・シー(以下、YDC)に聞いた。



 日本は自他ともに認める“ものづくり大国”である。細部にわたる開発のこだわりとたゆみない高品質の追求によって、高度な工業製品を生み出してきた。日本のものづくりの強さは、エンジニアや現場オペレータたちが蓄積した経験とノウハウ、勘に長年支えられてきたともいえる。ところが、少子高齢化で技能継承や人手不足が課題となっている現在、経験豊富な彼らの能力に頼り続けることは難しい状況だ。

 また、世界中に広がったIndustry 4.0の潮流によって、製造業を取り巻く環境は一変した。先進的ITの力を活用することで、生産性や製品品質の飛躍的向上、市場の要求に合った製品の迅速な提供が可能になりつつある。IoTで、製品一つひとつ、製造設備1台ごとの状態まで細かく把握できるようになり、収集した膨大なデータをいかに分析・活用していくかが求められている(図1)。そして、これまで人の能力に依存していた作業を、365日24時間無休でAIシステムが代替できる時代が迫っている。こうした中、日本の製造業は競争力を維持・強化していくために、新たな強みの再構築を迫られているのだ。

製造業でのAIの活用効果は絶大

 製造業におけるAIの活用効果はとてつもなく大きい。たとえば、半導体や液晶パネルなどの生産ラインでは、目視による外観検査での良品と不良品の判定を、AIで行うことができるようになった。検査時間は劇的に短縮され、判定精度は人間を超えるまでに高まっている。不良品をライン上で早期に除外できれば歩留まりは大きく向上する。

 また、設備や装置の振動や温度などのデータから故障を予知し、先回りして対処できるようにもなった。予兆検知(予知保全)と呼ばれる技術である。工場の操業で最も困るのが、突発的に起きる故障だ。ライン停止で事業機会を逸するばかりか、工程から不良が流出すると仕掛品を全て廃棄せざるを得ない場合もある。AIを使って故障を予見できれば、故障前に計画的に補修でき、リスクを未然に防げる。

 組み立て加工や物流分野では、AIで製品や部品の種類を判別し、ロボットが自動的に仕分けながらピッキングできるようにもなった。雑多に置かれた製品や部品を仕分ける作業は、単純な作業ではあるが、従来の機械や画像認識装置での自動化が困難だった。こうした単純作業を機械化できれば、より高度な業務に人を配置できるようになる。

図1⚫中間工程の検査結果から最終製品の特性値を予測し、後工程へフィードバックする仕組み
図1⚫中間工程の検査結果から最終製品の特性値を予測し、後工程へフィードバックする仕組み

危機感は感じるが、AI導入は進まず

内藤 孝雄氏
内藤 孝雄氏
株式会社ワイ・ディ・シー
開発本部 製品開発部
部長

 製造業の多くの企業がAI活用の必要性を感じているが、実際に導入している企業はまだ少ない。日経コンピュータの記事によると、2018年9月時点で国内の製造業のうちAIを導入しているのは5.8%にすぎない。ただし、AI導入に関心がないわけではない。「AI関連の展示会やセミナーはどこも大入り満員です。AI活用に向けてPoCを実施する企業も急激に増えています。実際の導入企業が少ないのは、PoCを実施しても実用にまで至らなかったケースが多いからです」とYDCの内藤孝雄氏はいう。その理由は大きく4つあるようだ。

理由①:目的や費用対効果を明確に定めずにPoCを始める

結果を評価する指標が曖昧なままPoCに踏み切ったため、得られた結果に対する評価ができず、導入に向けた判断ができない状態に陥ることが多いと いう。

理由②:AIに対する期待が大きすぎる

大江 隆徳氏
大江 隆徳氏
株式会社ワイ・ディ・シー
ビジネスディベロップメント事業本部
MFGコンサルティング部
エキスパートグループ
グループ長

テレビ番組などでAIが圧倒的な威力を示す例が紹介され、AIには人知を超えた万能の力があると考える人も多い。 “ゼロ・ディフェクト”を追求する日本の製造業固有の価値観と相まって、AIに過度の期待が生まれてしまい、導入のハードルを高めている。

理由③:製造品質が高く、不良データを入手しにくい

PoCを終えて運用へと進む段階では「現場から吸い上げたデータを教材としてAIに学習させる必要があります。ところが、高精度の判断を下せるまでの学習に用いるデータを、質と量の両面で充分に集めることは簡単ではないのです」とYDCの大江隆徳氏はいう。たとえば、画像を基にAIに良品と不良品を判定させる場合には、不良品のデータも学習する必要がある。しかし、常に高品質な日本の生産現場には、そもそも不良品データが少ない場合があるという。

理由④:AIの判断の根拠が分からない

製造業の現場では、不良が発生した場合、その原因を究明して“カイゼン”する文化が根付いている。合否判定を正確に下すだけではなく、原因究明に役立つ情報が欲しい。ところが、ニューラルネットを用いた機械学習では、AIの判定過程はブラックボックス化されている。この点が現場と経営者の価値観に合わず、導入に躊躇してしまうのだ。

*出典:日経コンピュータ 2018年10月25日号「データは語る」より

AIプロジェクトを襲う「PoC疲れ」

 さらに、PoCを繰り返す中で、「PoC疲れ」を起こしてしまうという例も多い。たとえば、画像を使った良品と不良品の判定精度を高めるためには、2000枚、3000枚といった大量の画像データを学習させなければならない。1枚1枚の画像を対象に、映っているモノに意味付けする作業(アノテーション)や、画像を判断した際の正解を教える作業(ラベリング)を行う必要がある。装置の温度や圧力、流量などや品質指標である厚さや線幅といったデータを扱う場合には、過去の外れ値などを除外したり、ノイズを除去したりする前処理(データクレンジング)が欠かせない。

 これらは極めて重要な作業であるが、地道で単純な作業だ。膨大なデータを相手に作業者が疲弊してしまい、単純な作業ミスを起こすこともある。本来は教える立場の人間が間違った学習用データを作成してしまい、AIに間違った学習をさせることも実際に起きているという。そして、PoCの精度を高めようと正解率100%を目指して、頑張ってPoCを繰り返すうちにAI担当のプロジェクトメンバーが徒労感を感じてしまうのだという。

 果たして、製造業でAIを活用する際、 PoCから先に進まない、「PoC疲れ」を打破するポイントは何だろうか。

 「AI導入」を目的にせず課題を明確に PoCの正解率にこだわりすぎない

 「AIを活用できそうな業務を洗い出せ」といった経営者の号令の下、AIの活用法を模索している企業は多いだろう。解決すべき課題とAIの導入対象となるターゲットを明確にしないまま「AI活用ありき」に走ると、出口が全く見えない状態に陥りがちだ。

 課題によってはAIではなく、既存の技術を活用した方が費用対効果は高い場合もある。「たとえば『AIで装置故障を検知したい』といったケースでは、AIを使わずに既存のSPC(統計的工程管理手法)を使い、3点連続上昇などで値を監視することで検知できる可能性もあります」(内藤氏)。AIを使ってみたいという気持ちは分からないではない。しかし、AIありきでは学習過程に求められる労力やコストには見合わない場合もあり、冷静な見極めが必要だ。

小さく始めて、想定効果は大きく

尾見 研一氏
尾見 研一氏
株式会社ワイ・ディ・シー
ビジネスディベロップメント事業本部
MFGコンサルティング部
シニアコンサルタント

 解決すべき課題が明確になったら、まずは特定の装置からAIの導入を試してみて、うまくいったら工程、さらに工場全体へと対象を拡大していく。

 「特定の装置だけにターゲットをしぼると、投資判断をする経営者に効果をアピールすることが難しいかもしれません。小さな足掛かりから大きな効果が期待できる最終ゴールへと至る、明確なシナリオを描いておくことがポイントです」(大江氏)。シナリオが定まれば、あとはデータを周到に準備しておくことが必要になる。手間がかかる部分でもあり、学習用データの加工や勘所を熟知したシステムベンダーの手を借りて、運用しやすいプロセスや自動化を考えた方がよい。AI導入シナリオについて、システムベンダーの助言を得ることも有効だ。

 特に重要なのは「PoCの正解率にこだわりすぎない」こと。「PoC 疲れ」に陥る多くの企業では、高い正解率を追求するあまり、いつまで経っても導入の判断ができず、PoCを繰り返すことになりがちだ。正解率にこだわらず、下記で紹介している堺ディスプレイプロダクトのように、PoCで得られた結果から想定効果を金額換算し、AI導入について判断するべきだろう。

AI導入はものづくり文化の改革

 PoCで得た成果は現場と共有し、理解を深めておく必要がある。「生産現場は実績を積んできた手法に自信を持っています。現場の人たちは、現状の手法の中で判断を磨き、経験を積みながら日々の生産計画の順守や目の前の課題解決に追われています。大きな効果が期待できる新たな手法であっても、まずは現場の理解を得ることが大事です」とYDCの尾見研一氏は語る。

 たとえば「現場は頑固な職人気質の人が多い。果たしてAIを受け入れてくれるのだろうか」と心配する人もいるだろう。しかし、「現場の人たちは常に課題解決の方策を求めています。AIが目を見張る成果を出せば、その効果を驚くほど素直に受け入れてくれます」(大江氏)。そして、運用段階に入ってからも経営と現場へのこまめなフィードバックがAI活用の定着には欠かせない。AIの導入は、経験と勘を基にしたものづくりから、データを基にして属人的技能に依存せず継続的に進化し続けるものづくりへと変える「製造業文化の改革」という側面がある。経営陣から現場まで、会社全体で変えていこうとする覚悟が求められるといえよう。

図2⚫生産現場と情報システムをシームレスに連携するCPSの例
図2⚫生産現場と情報システムをシームレスに連携するCPSの例
YDCでは、現場から収集したさまざまな情報の分析・活用を可能にするソリューション「YDC SONAR®」を提供。AIによる製造工程改善プラットフォーム「YDC SONAR AI」や工程監視パッケージ「STREND」と連携し、カイゼンのサイクルを回せる。

現場と共にAIを育てていく

 AIに取り組む上で悩ましい学習用データについては、解決の糸口が見えてきている。NGデータが集まらない、多品種少量生産ですぐに品種が切り替わるためデータが少ない、逆にデータが多すぎて学習モデル作成までが大変といった課題に対しては「教師なし学習」やOKデータのみで判定できる「One Class 分類技術」など「少ないデータで学習モデルを作る技術の開発に取り組んでいます」(尾見氏)という。

 ところで、製造業の現場に必要なAIプラットフォームの条件は何だろうか。それは「生産現場と情報システムをシームレスに連携するサイバー・フィジカル・システム(CPS)」と「カイゼンを回せること」だ(図2)。システム構築時には、生産現場から収集したさまざまなデータを基に、最適なAIモデルを構築して学習させていく。運用に移行した後は、AIが異常発生を予測して担当者にメールで知らせる、表示灯を回すなどして現場に迅速にフィードバックし、異常発生前に手を打つ。AIによる解析で現場がカイゼンされ、その状況をAIがさらに学習する。CPSの中で、現場とAIが共にカイゼンを回すことが重要となる。

 AIは「入れたら終わり」ではない。スタート時のAIモデルは、いわば新人が配属されたようなもの。AIを運用しながらいかに成長させていくかが鍵だ。従来は、現場の人たちを中心にカイゼン活動が行われてきた。これからは、人とAIが共にブラッシュアップし合っていくカイゼン活動を行う時代になるだろう。

 だからこそ、いかに優れたAIシステムも、現場の人たちの価値観や気持ちに沿わない押しつけでは、導入も運用もままならない。現場が抱えている課題を理解し、現場に寄り添うシステムベンダーをパートナーとして選ぶことが、ポイントであるといえよう。

製造業AI導入ユーザーの声AIで外観検査の正解率97%を達成、不良品ゼロへ挑む
飛鷹 亮氏
飛鷹 亮氏
堺ディスプレイプロダクト株式会社
生産本部 液晶生産センター
プロセス技術部
課長

 堺ディスプレイプロダクトでは、超大型テレビ用液晶パネルを生産する第10世代工場の外観検査での合否判定にAIを導入している。

 同工場が操業を開始した2009年当時、生産の中心はハイビジョンパネルだったが、現在は2K、4Kといった高精細パネルが中心だ。画素パターンの微細化で既存の検査装置では対応できず、エンジニアが目視検査を行っていた。正解率が低く、検査人員を増やして何とか対応していた。2018年の8Kの生産開始を契機にAIを導入。正解率は75%から97%へ、検査時間も1画像8秒から0.008秒へと劇的な効果を上げた。

 導入に携わった堺ディスプレイプロダクトの飛鷹 亮氏は、「AI導入は、解決手段の一つにすぎません。歩留まりや装置稼働率の向上とコスト削減を実現するため、さまざまな選択肢を精査して手段を選びました。PoCで得られた想定効果を金額換算して経営層に説明することで、投資に理解が得られました」という。

※2018年11月開催「第15回 SONAR研究会」パネルディスカッションより抜粋して構成

製造業の現場に寄り添い課題解決に共に取り組むYDC

 ものづくりのプロセスで、AIやIoTを活用するシステムを構築する際には、パートナーとなるシステムベンダーが、いかに生産現場を理解しているかが成否の鍵となる。

 YDCは、製造業向けシステムのコンサルティング・設計・開発サービスを長年にわたって提供し続けてきており、数多くの生産管理や品質管理のシステム開発実績がある。製造業のデータを扱う勘所を熟知しており、現場に寄り添う際に大切にすべき点の理解も深い。

 同社は1995年に品質・情報解析ソリューション「YDC SONAR®」の提供を開始。時代の要請に応える新機能を追加しながらバージョンアップを重ねている。2017年にリリースした「Version 7.0」では、AI連携やIoTセンサーのデータ活用、ビッグデータ対応など機能強化を実現。製造業がAIシステムを効果的かつ効率的に導入・運用できる用意が整った。AI活用のPoCや実導入プロジェクトを数多く手がけている経験も大きな強みだ。

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