業務で作成した完成物としてのファイルだけでなく、その過程で生まれるメールやメッセージ、操作履歴などのデータも包括してとらえるのが、ビジネスデータにおける今の考え方。ビジネスデータをデジタルトランスフォーメーション(以下、DX)に役立てるには、さまざまな組織との共有と協創を通じて、これまで活かしきれていなかったビジネスデータを見つけ出せるようにし、新たな価値を生み出すことが求められる。そのような時代の要請に、日立ソリューションズはどのような解を持ち合わせているのか——。 同社のビジネスコラボレーションにおけるエバンジェリスト 中川克幸氏に、日経BP 総合研究所 フェローの桔梗原富夫が話を聞く。
——今、データは「21世紀の石油」と言われるまでになりました。そうしたデータ中心の時代に、企業はどのようにビジネスデータを活用すべきだとお考えですか。
中川氏 われわれ日立ソリューションズは、ビジネスデータを非常に広い範囲でとらえています。
オフィス文書や見積書、提案書などの電子ファイルだけでなく、メールやSNSのメッセージなどのコミュニケーション履歴もビジネスデータです。また、さまざまなシステムのDBに保持されているデータやシステム利用時の操作履歴、位置情報といったログデータなど、ビジネスを行う上で利用されるデータすべてがビジネスデータと言えます。
ビジネスデータを限られた範囲での使用に留めず、さまざまな組織と安全に共有し、協創で新たな価値を生み出すことが、これからのビジネスコラボレーションといえるでしょう。
——そのように多様化し増大しているビジネスデータを企業が活用できるようになった背景には、ITの進展が関わっているわけですね。
中川氏 はい。ネットワーク回線も速くなっていますし、サーバーやPCの性能も向上しました。大量のデータを格納するストレージも、クラウドで安価に利用できるようになっています。そして、AIやRPAなどの新しいITの登場により、膨大なビジネスデータを保持するだけでなく、活用することが容易になりました。
——ビジネスコラボレーションを推進するには、ビジネスデータを安全に共有するためのITも重要ですよね。
中川氏 はい。ビジネスデータをこれまでよりも広い範囲の組織と共有する際には、やはり「この人にビジネスデータを渡しても大丈夫か?」ということが気になるはず。そうした不安を取り除くには、機密性や安全性を確保するための仕組みが欠かせません。
——ビジネスコラボレーションを支援する「活文」で、ビジネスデータを共有する仕組みにはどのようなものがありますか。
中川氏 組織を超えてビジネスデータを安全に共有したり、大容量ファイルを高速に送信したりするためのツールとして「活文 Managed Information Exchange」があります。
ビジネスデータの送受信にはメールが広く使われていますが、製造業や建設業では3D CADや図面など、機密性が高い大容量のファイルを社外へ安全に送受信したいというニーズが増えています。そこで、われわれはMicrosoft社のOutlookの環境で10GBを超える大容量ファイルをメールに添付して高速に送信できる「活文 Managed Information Exchange アドインfor Outlook」をリリースしました。
「活文 Managed Information Exchange アドイン for Outlook」は、Outlookでやり取りする添付ファイルをメールと分離して活文サーバーに保管し、パスワード保護を行う仕組みになっています。そのため、添付ファイルをダウンロードさせずに閲覧だけを許可するといった取り扱いも可能です。
また、添付ファイルをダウンロードした後でも、ファイルを開く際のユーザー認証機能により、送信者側の操作でファイルを閲覧できないように失効させることができます。
これらの仕組みにより、大容量のビジネスデータであっても円滑に相手と共有することができ、さらに利用を制限しながら安全に活用することが可能です。
——ビジネスデータを活用してインサイトを得ることがDXの核となるわけですが、現実には、そう一朝一夕に事が進むわけではないようです。
中川氏 DXを推進するには3つの壁があると考えています。
第1は、DXの進め方がなかなか定まらないことです。経営層はDXを推進したいという思いがありますが、指示された情報システム部やDX推進室は何をどう実現したらよいか分からないということがよくあります。また、現場部門からは今の業務のしかたを変えたくないという反発もあります。
第2に、ビジネスデータがDX推進に活用されておらず放置されているという現状があります。収集と保管まではできているのですが、ビジネスデータがあまりにも散在しているために、それらをどうつなげて活用したらよいのかわからないのです。
第3に、DXを実現するために、ITを使ってどのような課題を解決するかが明確になっていないことです。DXを実現するためには、現状の業務の課題を把握した上で、その課題を解決するためのITを選定する必要がありますが、答えは一つではありません。最近では、「AIを活用して何かできないか」と相談されることもありますが、課題が明確になっていないと、われわれも最適な提案を行うことが難しくなります。
——そうした壁を乗り越えるために、日立ソリューションズがどのような提案を行ったか、具体的な事例を教えていただけますか。
中川氏 例えば、通信サービス業のあるお客様は、オンプレミスのシステムに何千万件と蓄積されていた申し込み書類や工事書類を、パブリッククラウド上に構築した「活文 Contents Lifecycle Manager」と「活文 企業内検索基盤」に移行しました。これにより、日々、書類が増加していく中でもレスポンスの良い検索画面を利用者に提供することができました。
申し込み書類や工事書類には、サービスを利用されているお客様の情報が集約されています。それら大量にある書類を効率よく検索できるようになったことで、その企業はカスタマーサービスの品質が向上したと聞いています。
また、別の製造業のお客様には、エンドユーザーから寄せられた製品に関する大量のお問い合わせを分析する品質情報管理業務に「活文 知的情報マイニング」を採用していただきました。このお客様では、文章の表現の違いを吸収してお問い合わせ内容を解釈し、緊急の度合いを判断する業務にAIを活用することによって、これまで人が行っていた判断のばらつきをなくし、工数の削減と応答時間の短縮を達成しています。
——ビジネスデータを活用したビジネスコラボレーションを進めたいと考えている企業に、日立ソリューションズはどのようなソリューションやサービスを提供していくのですか。
中川氏 ビジネスデータが多様化し増大した結果、業務に役立つデータを人手で探して共有することが難しい状況になっています。企業は、これまで以上にさまざまな形で、目的とするビジネスデータに素早く効率的に辿り着き、利用者が使いやすい状態に整備していく必要があるでしょう。
私が所属しているビジネスコラボレーション本部は、ビジネスデータを安全に活用して、お客様が新たな価値を創出できる環境の提供をミッションとしています。
また、当社にはトータルセキュリティソリューション、ビジネスデータの1つである位置情報を扱う空間情報ソリューションの専門チームがあり、それぞれ豊富な導入実績とシステム構築のノウハウがあります。
日立ソリューションズは、お客様のご要望に合わせ、他社製品を含むさまざまソリューションを組み合わせたシステムをご提案するシステムインテグレーションやアプリケーション開発に対応できることが強みです。お客様に寄り添って、DX推進の悩みや課題を一緒に考え、先進のITを活用した最適な解決策を提供できると考えております。
——ビジネスデータを活用し、お客様のDXを成功させるにはどうしたらよいかについて、アドバイスをお聞かせください。
中川氏 ぜひ、「自社のビジネスデータは自社内に留めておくべき」という従来の考え方を改めていただきたいと思います。
一緒に手を組む相手を探して、ビジネスデータを共有する協創を進めることにより、これまで蓄積してきたビジネスデータから別の価値を見つけ出すとともに、新たなビジネスモデルが生まれてくるはずです。
——ITの進歩によって多様化し増大したビジネスデータを容易に取得できるようになった今、それを活用して価値に変えていくことが企業にとっての重要な経営課題となっています。
しかも、従来のように一企業内で解決策を模索するのではなく、さまざまな組織とのビジネスコラボレーションを通じて、まったく新しいビジネスモデルを作り上げていく——。
そのためには、単にビジネスデータを共有、管理するツールとして導入するのではなく、業務コンサルティングを含む上流工程からの取り組みが求められます。
日立ソリューションズは、ソリューションやサービスの提供だけでなく、アプリケーション開発を含む「総合的なシステムインテグレーション」に強みがありますから、大いに期待しております。
日立ソリューションズ
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